男のコンプレックス Vol.4「コンビニ男子のレジ前戦争」
コンビニは自分の欲望を
さらけ出す風俗店なのです。
忙しい現代人にとって、疲れた羽を休めるためにコンビニに立ち寄ることは、「ペリーが浦賀に立ち寄る」のと同じくらい必然な行為だ。だが、男にとってはコンビニもまた戦場であることを忘れてはならない。
あなたも身に覚えはないだろうか。「コアラのマーチ」「きのこの山」といった“女子度”の高いお菓子が妙に食べたくなってしまったときの、一瞬のためらい。さらにそれが、期間限定で「ハニー&メープル味」だったりしたときの、過剰な“かわいさ”との葛藤。やましいものを買っているわけではないのに、なぜか「堅あげポテト」や「フリスク」など“硬派”な商品を一緒に買ってバランスをとろうとしてしまう言い訳がましさ。
それはちょうど、AVを借りるとき、『勝手にしやがれ』や『気狂いピエロ』などを一緒に借りてカモフラージュしてしまう気持ちに似ている。今どき、男がスイーツを食べるのに抵抗があるわけじゃない。ないが、“スイーツ目的のためだけに”レジに並ぶことにどうしてもふんぎりがつかない、この小癪な自意識は一体なんなのか。
私は思うのです。欲しい商品をレジで店員に差し出すというのは、実はすごくあられもない行為ではないかと。人前で自分の欲望を無防備にさらけ出すという意味で、コンビニは風俗店に等しいとすら言ってしまいたい。銭湯の脱衣所やラブホの待合室で、男同士の無意識の“品定め”が行われるように、レジで「この人、これ買うんだ」と思われた瞬間、男としての格が「値踏み」される気がして、ちょっと緊張してしまうのだ。
「眠眠打破」を買うのって、変に“忙しいアピール”しているみたいに見えないだろうか。「ソーセージおにぎり」と「つくねおにぎり」って、大人が買うおにぎりのチョイスとして分別に欠けてないだろうか。100円高いほうの肉まんを買って、「この人にとっての“奮発”ってこの程度なのかな」とか思われているんじゃないだろうか…。
かくして、コンビニレジ前では欲望と自意識の攻防が熾烈に行なわれているが、対戦相手が店員ではなく「自分自身」であることには、うすうす気が付いている。心配しないでください。
(初出:マガジンハウス『POPEYE』2010年5月号)
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【2023年の追記】
4回目にしてちょっとテーマとして弱いというか、早くもネタ切れ感が漂う回ですね。しかし、男の中で勝手に「女子度が高い」とカテゴライズしたものを下に見たり、恥ずかしいと思ってしまったりするのは、立派なミソジニーであり男性学が扱うべき問題だと思います。
ことさらにパンケーキやタピオカを「はやりに流されて好きなだけ」「見た目ばかりで味を二の次にしてるもの」としてバカにしたり、男性だってスキンケアした方がいいに決まっているのに日傘や美容液を「そんなの男がするもんじゃない」とセルフネグレクトしてみたり。
そういう間違った自意識や思い込みの延長線上に、「下戸と思われたくないから無理して酒を飲む」とか、「思考停止で毎回なんとなく大盛りを頼んで食べ過ぎる」とか、「健康に気を使ってるのは男らしくないからわざと不摂生する」みたいなことが起きていて、その結果として、男だけ早死にしていくんじゃないかな、と割と本気で思っています。
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