魁!!テレビ塾 第11訓『家、ついて行ってイイですか?』
ガチンコの素人ロケで
テレ東が見せるテレビの底力
押忍!! ワシが当テレビ塾塾長、福田フクスケである!
カリフラワーがブロッコリーの突然変異で生まれたように、テレビ東京は日本のテレビ界が生み落とした鬼っ子のような存在だ。人気番組『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』で、蛭子能収が見せる旅番組のセオリーを無視した気ままな言動は、重大事件が起きてもあえて通常通りアニメを放送するテレ東の“空気を読まない”姿勢をまさに体現しているようにも見える。
そんなテレ東の真価が発揮されるのが、素人を活用したバラエティ番組である。中でも、不定期で放送している『家、ついて行ってもイイですか?』は、その白眉と言える。駅前で終電を逃した一般人に声をかけ、帰宅のタクシー代を払う代わりに家に上がらせてもらうだけのこの企画。登場するのは、どこにでもいる酔いどれサラリーマンや、チャラい若者や、今どきのギャルばかりだ。
しかし、家に行くとそこには必ず人それぞれのドラマがある。合コン帰りの美女の意外すぎる汚部屋、子供の障害を機に夢を諦めて転職したパパ、一流大学の講師でバツ3の老紳士、その日に妻が家を出て行ったばかりの夫。その姿は、ありふれた人生などないのだということを私たちに教えてくれる。驚くことに、三千人に声をかけてオンエアはたった15人ほど。その足で稼いだ“ガチ感”が圧倒的なリアリティを生むのだ。
これまでもテレ東は『TVチャンピオン』『開運!なんでも鑑定団』など、いつだって玉石混淆の素人からネタや才能を発掘してきた。マックのグラタンコロッケバーガーがほとんど小麦でできているように、限られたリソースと低予算を逆手に取り、アイディアと手間ひまでカバーする錬金術こそ、テレ東の最大の強みなのだ。
◆今月の名言
紫の長髪に唇ピアス、豹柄の帽子というエキセントリックな格好で渋谷にいた男性。シルバージュエリーの販売とデザインを手がけるという彼だが、「ローマ字が打てない」と衝撃の天然発言をかます。
(初出:学研「GetNavi」2014年12月号)
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【2023年の追記】
これ以降もテレビ東京は、池の水をぜんぶ抜いたり、一般人と絡んで各所で充電させてもらったりと、「タレント力に頼らない」名企画を次々と生み出しますが、ああ、そうか、最近テレビ東京の企画力が弱まったように見えるのは、民放各局がどこもテレ東並みに予算がなくなって、みんなテレ東っぽい企画をやるようになったからなんだな、ということにいま書きながら気づきました。
『ポツンと一軒家』とか、『オモウマい店』とか、『不夜城はなぜ回る』とか、『ヤギと大悟』とか、みんなテレ東っぽいですもんね。限られた予算をなるべくタレント出演料に使わず、リサーチや、スタッフ自身が手持ちカメラでロケしたりするのに傾斜配分するみたいな趣向を凝らした企画が多い。製作陣の創意工夫には頭が下がりますが、こんなところからも日本が貧しくなっていく様子をひしひしと感じる羽目になるとは…。
ちなみに、最近私が好きなバラエティ番組はフジテレビの『私のバカせまい史』です。ニッチすぎる特定ジャンルの歴史をまじめに調べ上げ、予算と労力をほとんどリサーチに全振りしたような企画は、かつてのテレビ東京『ジョージ・ポットマンの平成史』を彷彿とさせますが、その源流はむしろ同じフジテレビの『カノッサの屈辱』であり、そのイズムを正統に受け継いだものと言えるでしょう。
80年代の「悪いフジテレビらしさ」をそのまま復権しようとしている『オールナイトフジコ』の懐古趣味には辟易しますが、『私のバカせまい史』が体現するもう一つの「フジテレビらしさ」、すなわち、くだらないことを大まじめにやるエセ教養主義やいい意味でのスノビズムは、ぜひ大事にしてもらいたいです。
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