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新卒でブラック企業に入った女の体験談

過去回想のような記事を書いていたら、一年くらい勤めたブラック企業のことを思い出した。
(今回はほとんど復讐要素が出てきません。小学生のときのいじめによって、自己肯定感が限りなく低いまま学生時代を終えた新卒社員のお話です)

追い詰められた就活生

社員は20人くらいの小さな会社だった。
みんなと同じスタートの就職活動には失敗し、他の道を探してみたり、諦めて好きなバイトをしてみたり。
そのあとでやっぱり焦って、卒業間際に滑り込んだ内定だった。

思えば滑り込むべきではなかった。
面接は最初が女性2人、そのすぐあとに社長室に呼ばれたと記憶している。
わたしは追い詰められすぎていて気づかなかったが、相手の方も人手が足りていなかったのかもしれない。

何を話したかあまり覚えていない。面接官の女性に「(履歴書の)写真よりお綺麗ですね」と言われたことは、面接という場にそぐわなさすぎて未だに覚えている。
男性が言っていたら当時でもセクハラだと思うし、個人的には女性に言われるのも嫌だ。
言葉上、褒めているから良いってものではない。

書きながら思いだした。
社長には恋人がいるか問われた。
わたしは素直に「いない」と答えた。
もしかすると、それも採用につながったのかもしれない。
今の今まで忘れていたのは、きっと嫌なことだからだ。

ブラック企業の「教育方針」

その会社は社員の教育に力を入れている、らしかった。
半年ほどは業務に関わることはできず、その代わり業務に必要となる分野についてひたすら勉強することができた。

教育係との関係は今思うと異常なほどに密だった。わたしは依存に近い気持ちを抱いていたと思う。
もしかするとそう仕向けられていたのかもしれない。

一方で「同僚とは必要以上に仲良くなるな。特に、新人同士。未熟な者同士の馴れ合いに意味はない」と繰り返し強調された。

他の会社では、(もちろん差はあるのだろうが、)同期との結束が強かったり、または友人としても仲が良かったりという話を聴いて、驚いた。

新人というのは、社内の空気に染まっていない人間とも言える。
新人たちは違和感に気づきやすい。
その違和感を共有する機会さえあれば、「おかしいと思うのは自分だけじゃなかった!」と確信を持つことができる。

教育係とのツーマンセル制と新人同士の交流禁止。思うに、「教育方針」として、会社に対する違和感を持たせないことを徹底していたのではないか。

実際、社員はみんなプライベートまで徹底的に管理され、ほとんど洗脳状態だった。

「洗脳」

洗脳という強い言葉を使うのには理由がある。
のちに聞いた洗脳のやり方が、あの会社の手口と一致しすぎていたからだ。

その人が学んできたことや努力してきたことを「足りない」と否定し、何か不手際があれば他の社員の前でさらしあげる。

他の社員はすべて敵だ。
業績を争う相手であり、相互監視で不手際をさらしあげし合う相手。

その上で社長(と教育係)だけは優しい態度を取り、「一人前に育てる」と約束する。
実際、有用な教えもあったのかもしれない。
また金銭的な意味では恵まれていたように思う。

わたしは未熟だ。無能だ。自分がやっていける職場はここしかない。
本気でそう思わされていた。

違和感=苦しみ

そんな中でも、小さな違和感が少しずつ蓄積していった。
わたしは見習いだ。常識知らずだ。上司を疑ってはいけない。信じてついていかなくちゃ。
そう思って蓋をした。

物理的にも忙しくて、精神的にも余裕はない。
違和感や嫌悪感を感じる瞬間があっても、構っている暇はなかった。
おかげで精神的には疲れたし、謎の罪悪感はあるし、反抗することでひどい目にもあった。

代わりに、わたしはあの会社に完全に取り込まれずに済んだ。

たとえば、小さな会社であるにも関わらず、異常に社内結婚が多かったのが気になった。

あの社会は異様に「閉じて」いた。
外部の人間はほとんど訪ねてこない。
おまけに、ここでしか通用しない異様な「常識」だらけだ。

結婚できるくらい価値観の合う相手は、会社内で探すしかなかった、と言う人もいたのかもしれない。
あるいは社員同士で結婚することすら、社長の思惑通りだったのだろうか。
「管理しやすい」という意味では理にかなっている。

さすがに恐ろしく思ったときもある。
交際相手との結婚を考えていた社員が「まだダメだ」と社長にストップをかけられた、と聴いたときだ。

止められた理由は「まだ一人前じゃないから」とかそんな感じ。訳のわからないものだったと思う。
私的なことでも報告が必要なことはあるだろう。
結婚とか身内の不幸とか。
社長や上司などから、アドバイスや忠告をもらうこともあると思う。

それでも、決定権が社長にあるのはおかしい。
当時のわたしは「おかしい」と言い切ることができなかったのだけれど。

初めての就職かつ、まったく未知の分野での勉強漬けの日々。
今までの常識を端から端まで否定されていた。
それも「若いから」「経験が少ないから」という、反論しようのない根拠付きで。

せめて友人や家族に話してみれば良かったのかもしれない。
けれど、反対を押し切って実家を出たわたしは、順調な生活を家族にアピールしたがった。
環境が変わるたびに友人全員と連絡を断つわたしに、他に連絡できる相手はいない。

そもそも拘束時間が長く、家に帰っても強迫観念にかられて勉強(自分が無能であることは確定事項だ)。心身ともに疲れ果てた人間が、友人と家族とたっぷり話をすることなんてできるだろうか?
報告したところで、本人が「正しい」とフィルターをかけて話す出来事が果たして「異常だ」と伝わるだろうか?

チャンス→?

当時のわたしは、だいぶ手遅れな倫理観を持ちつつも、まだ人との関係性に希望を抱いていた。

同僚や先輩とは仲良くしたかったし、お客様には誠実に向き合いたかったし、そのうち恋愛だってしたかった。

むしろ現実がつらすぎて、恋愛に逃避したいとさえ思っていた。
しかし、その血迷ったスイーツ脳が、わたしに目を覚ますチャンスを与えてくれた。
わからないものだ。

チャンスとは言っても、一連の出来事はわたしにとってひどいトラウマだ。

一言でいえば、わたしも「社内結婚」の一例になることを期待されていた。そんな話だ。

管理→反発

社内では、新人同士の関わりの他に、男性社員と女性社員の関わりも制限されていたように思う。
ランチなど休憩時間は、女性同士、男性同士で過ごすことが慣例となっていた。
(1人で過ごすことができない時点で、今のわたしなら抵抗すると思う)

あるとき、女性だけのはずのランチに、ひとりの男性社員が現れた。
もちろん、社長からの指示だ。

しかも男性社員はコミュニケーションの下手さを他の社員の前でこき下ろされている。
その上で「足りないコミュニケーション力を補うため」女性だけのランチに放り込まれて来た。

今思うと、そんなことで解決できる問題ではない。
別の意図があったんだろう。
わたしはなんとなく「嫌だな」「落ち着かないな」と思うだけだったが。

男性社員は少し独特な人ではあった。空気が読めない、というのが一番近い表現だろうか。
わたしも人のことは言えないし、休憩時間を一緒に過ごすことがなければ、気にすることもなかっただろう。

けれど、とつぜん現れた男性社員の異物感とデリカシーに欠ける話運びが合わさって、わたしはその人に苦手意識を持った。

男性社員は専門分野の知識が豊富だった。
わたしは、「教育のため」という名目で、その人と行動させられることが増えた。
例のさらしあげ会議では、社長直々に「彼によく話を聞くと良い」と指導もされた。たぶん一度や二度じゃなかったと思う。

具体的に、男性社員との恋愛や結婚について話されたことはない。たぶん。
むしろ交際相手がいた同期の子の方が、圧力をかけられていた。
しかし、小学生の冷やかしのような、外堀を埋められるような、居心地の悪さがあった。

実際に男子との仲を冷やかされたことはないのでわからないのだが、あれはもし両想いなら、まんざらでもないと思えるのだろうか。
ちなみに苦手意識を持つ相手だったなら、トラウマレベルに最悪な気持ちになる。

男性社員も不運であることに変わりないのに、あろうことかわたしは嫌悪の感情を彼に向けていく。
本来ならこの嫌悪感は、社長や会社自体に向けるべきものだったのだろう。

わたしは恋愛や結婚に夢を見ていた。
いつか心の底から好きになれる人が現れる。
好きな人と両想いになれる日もいつかは来る。
だから、ここで「お見合い結婚」なんて絶対したくなかった。

現実から逃げるように、わたしはある人を好きになった。
とは言っても大して話したことはない。遠くから眺めて憧れていただけだ。

チャンスの無駄遣い

時間にすると2〜3ヶ月くらいだろうか。
わたしは、あれほど盲信していた教育係とトラブルを起こす。

バカだったわたしは、教育係に恋愛相談をしたのだ。
それがストレートに社長へと報告され、わたしは社長室に呼び出された。

要約すれば「お前は何も分かってない」「お前は未熟者なんだから、決める権利はない」「俺の言う通りにしろ」というようなことを言われたと思う。
正直、教育係に売られたことがショックであまり聴けていなかった。

社長室を出たら、女性社員が全員集合していた。
わたしが出た後、社長はすべてを話したのだと思う。次に会ったとき、彼女らからも何か言われたような気がする。全員からではなかったと思う。
けれど、全員から腫れ物扱いされたのは確かだ。

その日、どうやって帰ったのか覚えていない。
次の日、わたしは無断欠勤をしてしまった、らしい。

ほとんど記憶がないが、教育係が自宅を訪ねて来て、怯えながら布団に潜っていたことだけ覚えている。
わたしは数日間、無断欠勤を続けた。

普通なら、ここで逃げ出せたはずだ。
クビになる可能性だってあったかもしれない。

けれどわたしは数日後に出社し、泣きながら社長に頭を下げていた。
「ここでしかやっていけない」という意識は、思った以上に強く刷り込まれていた。

わたしは会社に戻った。
いくつかの業務から外され、会議では数時間(もしかしたら数日)私の話題が大きく取り扱われる。
他の社員からの目も厳しかった。嫌味を言われたり嫌がらせされたりすることはなかったが。

むしろ、社長はこの点も誇らしげに語っていた。
うちの社員はいじめなんて程度の低いことはしないのだ、と。

当時は不思議だったが、今はわかる。
社員たちには、時間も他人とつるむ余裕もない。
いじめがない?そりゃそうだ。攻撃側はいつだって社長ひとりだ。
ひとりが複数を攻撃することは「いじめ」とは呼ばないかもしれないが、やっていることは似たようなものだろう。
みんなあいつに追い詰められて、脅されて、ボロを出さないように必死だった。

さて。
避けられるのも、蔑まれるのも、仕方ない。
自業自得だ。

今、わたしが何より怖いと思うのは、この状況で自分が退社を選ばなかったことだ。
今から見れば、異常な行動としかいえない。

逃亡

わたしが再び逃亡したのは、2ヶ月くらい後になる。

腫れ物扱いは変わらなかったが、わたしは元と同じ程度の業務を任せられるようになった。
教育係のことは嫌っていたし恨んでいたが、表面上は穏やかに接していた。

好きな人とは会えなくなった。
辛かったはずだが、恋愛どころではなくなってしまったのは確かだ。

彼と、社長の横暴と、教育係の裏切り。全部が紐づけられてしまって切り離せなかった。
だからなるべく考えないように頑張っていた。

……はずだったのだが。
前触れもなく、わたしはまた無断欠勤をしてしまった。

気づいた瞬間、絶望した。
たしか出社時間は過ぎていたものの、まだ午前だったと思う。
だからすぐに行けば、「遅刻」で済んだのかもしれない。

でもわたしはその瞬間「終わった」と思った。

前の騒動からずっと「絶対にミスしない」「失敗した分を取り返す」と必死だった。
「次、失敗したら人生終わる」と自分を脅して、無理やり頑張っていた。

その反動かもしれない。
急に諦めがついた。

身体的にも精神的にも限界を迎えて、ついにわたしはヤケになった。
社長の元へ行き、「懲戒でもなんでも良いから辞めさせろ」と主張した。

恨み言のひとつも言われたのだろうが、まったく覚えていない。
社長は諦めたのか何なのか、ベテランの社員を呼んだ。
手続きをしてくれたその社員はほとんど話したことのない人だったが、「懲戒解雇は今後の就職で困るだろう」と自主退職をさせてくれた。

ようやくわたしは逃亡した。何もかも投げ出して。
業務を放り出したことについては、今でもやっぱり後悔している。その点についてだけは社員たちに非はないし、社外にも迷惑をかけてしまった。

逃亡成功→?

このタイミングで病院にかかっておくべきだったと思うが、当時のわたしには知識がなく、それより何より判断力がなかった。

眠さに任せて一日中でも眠り、死ぬほどお腹がすいてインスタント食品をむさぼる。
どう見ても普通ではない。
けれど、わたしはこのときほど「生きてる」と感じたことはない。

だって、あの会社にいたときは。
眠りたいだけ眠れず、食べたいときに食べられず、周りを疑い、周りに売られ続けた。
疲労のあまり、運転中に意識を飛ばしたこともある。
向上心だと思っていたものすら、脅迫の結果でしかなかった。

たしか1ヶ月ほどでわたしは起き上がれるようになった。
帰省したり、アルバイトを探したり。日常に戻っていった。

そのあとも割と散々なのだが、一番辛かったのも、一番頭がおかしかったのもこの時期だ。
今のわたし、我が人生においては、精神が落ち着いている方である。倫理観は捨てたけどね!

後の後

前向きな目標なんて、いつの間にか無くなってしまった。
楽しいことも何も無くなった。
小さい頃から趣味は多かったのに。多すぎて時間が足りなくて、物心ついてから暇という感覚を味わったことがないくらいに。

数年かかったが、病院に行くことはできた。
今は細々と働いている。
「普通に」会社に勤めたり、「普通に」出勤したりはできてないが、それはもう折り合いをつけた。

わたしは元に戻れたんだろうか。
たぶん、壊れてしまって、元の形には戻れない。

だったらせめて、正気を取り戻せたんだろうか。
あの洗脳からは逃げられた。
けれど、正気にはまだ遠い。
むしろこのイかれた自分と付き合っていく覚悟が決まりつつある。

前向きな目標はないけど、後ろ向きな目標ならある。
無論、復讐だ。

今はそれで良いと思う。
生きてて良かった、と思えるのは良い。
死ぬ前に後悔しそうなことを、生きてるうちに潰せるのは良い。

今回は本当に長くなってしまった。
ここまで読んでくれた方がいたら、本当にありがとうございます。

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