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脱はんこについて考えていたら、蚊のスタンプが生まれていた話

この夏の新作「戦いの果てのモスキートスタンプ」について書きます。

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もう見たままですので作品内容については説明不要でしょう。この全く実益のない無用品を発表したところ思いのほか好評で、無益なものを面白がれる文化があるというのはとてもありがたいことだなと感じております。

今回はこのモスキートスタンプについて、主に着想の経緯についてを紹介したいと思います。

蚊のスタンプが国内外で俄に注目を集める

2021年7月末、この作品をFBページで公開したところ、日本国内に留まらず海外からもたくさんのリアクションをいただきました。コメント欄をみるとタイや香港や台湾あたりの皆様から活発な書き込みがあり、盛り上がっている様子が伝わってきました。

【夏の新作】 戦わずして夏の戦果が得られる画期的な製品を発明しました! どこに需要があるのかは全くわかりませんが⋯ https://ekodworkstore.com/items/60f18a15bc1e6435c13220de 本作は...

Posted by エコードワークス / ekoD Works on Friday, July 30, 2021

ニュースメディアにも複数取り上げていただき、気づけば予約注文の段階で5カ国からの引き合いがあり、よもやこのような小作品が今年一番の話題作になってしまうのではという勢いに驚いています。

発案の思考プロセス(まずは要約)

取材を受ける際は必ずと言っていいほど「発案のきっかけ」「開発の経緯」を聞かれるため、本作の発案から開発に至る思考プロセスを整理したのでこの場で紹介してしまおうと思います。

まじめな話が始まる前に要点だけまとめておくと
・脱はんこ文化の議論を傍観し、新しい押印用途の創出に興味が湧いた
・全身にはんこを押して遊んでいた幼少期の体験が脳裏をかすめた
・体に判を押す連想から、蚊を叩いた時に掌に残る痕跡を思い出した
・構想は描けたもののニーズを感じられずしばらく寝かせることにした
・ニーズのなさそうな物をこそ作るべきではと考えを改め、開発を推進
みたいな流れです。

以下、経緯の詳細です。

1.脱はんこ文化について考えていた

脱はんこ文化に関する議論については以前より度々話題になってきましたが、特に2018年頃からは定期的に盛り上がっていたように記憶しています。改めて脱はんこ化の動向を振り返ると下記のような流れがあったようです。

2018年7月 「デジタル・ガバメント実行計画」策定
行政手続のオンライン化や書類のデジタル化を推進し、押印の見直しを検討
2019年3月 「デジタル手続き法案」が一部見送り
印鑑の存続を求める業界団体から反対の声が上がり頓挫
2019年9月 自民党はんこ議連がIT政策担当大臣に就任
はんこ文化継承を掲げる議連の会長がデジタル化推進を求められるIT相を兼任することの不整合性が問題視される
2020年〜 コロナ渦に伴い行政手続きのデジタル化が加速
テレワーク推進の一貫で政府による脱ハンコの流れが加速し、自治体においても行政手続きのデジタル化が推進される

特に2019年3月と9月の両件は当時SNSやニュースサイトのコメント欄でも議論が盛り上がり、随分荒れた投稿が散見される様子を傍観していました。

議連会長兼担当大臣の矛盾を消化しきれない面白発言とか細々としたエピソードはさておき、本件に関する私見はざっくりと以下のような感じでした。

・個人的には不要な押印はとっとと廃止してデジタル化してくれて構わない
・とはいえはんこ業界で飯食ってる人が反発するのは当たり前
・デジタル化は進めつつ、はんこ業界の当面の仕事も確保すれば万事OK?
・はんこの新しい用途を創出することに活路があるのでは⋯!

とまあこんな方向に思い至り、「新しい押印用途の創出」が脱はんこ問題に一石を投じると仮定してアイディア出しに臨んだのが事の発端でありました。

2.全身にハンコを押して遊んでいた幼少時の体験

「新しい押印用途の創出」をあれこれと考える過程で、様々な押印シーンを振り返っていると、自身の幼少期の体験を思い出しました。

小学生低〜中学年頃の私は油性ペンで体中に落書きをするのが趣味で、野原しんのすけのぞうさんみたいな落書きを描いたり、飛影の右腕の黒龍覚醒した幽助の文様(原作の方)を再現したりして遊んでいました。

それが段々エスカレートし、腕や体にはんこを押し始め、終いにはスタンプ台自体を体中に押し付けて半裸で帰宅したりして親に叱られるような幼少期を過ごしていたのですが、その時の体験がふと「新しい押印用途の創出」と結びつきました。

「体に判を押す」という用途に特化してアイディアを出してみよう。

そんな着想であれこれと連想していく中で、蚊を叩いた時に掌に残る痕跡のことを思い出しました。蚊に関しては、以前何かのきっかけで「なぜこんなにキレイに蚊の姿が手に残るのだろう?」と不思議に思い、蚊の全身に鱗粉がついていることを調べたりして記憶に残っていたため、この発想に至ったのはごく自然な流れだったかもしれません。

蚊を叩いた経験や、叩いた後の蚊の姿(鱗粉)が手に移る経験は誰しも身に覚えがあるはずで、これなら多くの人の「あるある」に響く=共感が得られるような気がして、面白いものになりそうだと手応えを感じました。

3.ニーズが見通せず、しばらく寝かせる

このようにして2019年秋頃には早々に「新しい押印用途の創出」を考察し「自身の体に蚊の痕跡を残せるスタンプ」の構想を描くに至りました。面白いものになりそうという手応えも感じていましたが、一方でニーズに関しては全くもって皆無のように思えてなりませんでした。

スタンプで蚊を倒した様子が再現できる!面白い!でも誰がどんな時に使うのだろう⋯?

ネタ的には面白そうでもニーズがなければ売上にはつながらないし、そういったものを逐一製品化するのも労力ばかりかかって割に合わない⋯。デザインはシンプルだし、いざとなれば3日もあれば作れそうだから、他にすることがないくらい暇になったら作ろう。そんな風に考えてひとまず寝かせることにしました。

そして「暇になったらやろう」という時の「暇」は基本的に訪れないもので、気がつくと瞬く間に翌2020年の夏を迎えていました。その頃には「今から作っても発表する頃には夏終わっちゃうな⋯」と諦める理由が先に立ち、さらに当面寝かせることになりました。

4.ニーズのなさそうな物こそ作るべきと考えを改める

さらに年が変わって2021年春。かれこれ9年近くエコードワークスとしてものづくりをしてくる中で、これまでに作った数多の作品を俯瞰しつつ、今後の方針を見定めたりしていました。

日頃なんとなくブランディングというものを頭の片隅に置きつつも、その時々で作りたいものを作ってきたため、全体像をみるとそれなりに雑多な印象が否めないことを常々感じていました。

これを機に今一度方向性を絞って突破力のある作品群をこしらえていこう、なんてことをあらゆる機に思ってはその場しのぎに終わるのも毎度のことなのですが、2021年春頃も同じようなことを思案していました。

そしてエコードワークスの雑多なものづくりの中にあって一本筋の通った芯というか、創作の核になっている基本理念的なものを今一度見つめ直す内に、一つのキーワードが浮かび上がってきました。

実益のない無用品。

全てが全てではないけれど、エコードワークスの作品を包括する1つのキーワードとして「実に益のない無用品(役に立たないもの)」という視点はなんだかしっくりくるなと、そんな気づきを得たわけです。

無用品とはつまるところ役に立たないものだから、基本的にはニーズのないものです。しかし改めて振り返ると、これまでもそうしたものを度々世に送り出してきたのでした。そして面白さが天元を突破していると「いらないけどちょっと欲しいw」という謎なニーズを生み出し、結果的にヒットに繋がることも幾度となく経験しています。考えてみればニーズなんてものを追求するのは利益を追求する大企業様がやるべきことで、ニーズだけでは測れない面白きものを創り出すために創作活動をしていたはずなのに、何を縮こまっていたのでしょうか。

そうとなれば今後の企画もこのことを念頭に、無益さや無用さを重視してラインナップしていこう。そう思って未着手の企画案を整理していたところ、蚊のスタンプは見事にこの条件と合致していることに気づき、これはもう最短で着手するしかないなと考えを改めるに至ったのでした。

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そこからはチョチョイのチョイでプロトタイプを作成し、友達に見せびらかしたりして楽しいリアクションももらいつつ、量産向けのデザイン調整やらイメージ画像の撮影やらを行って今夏の発表に間に合い、冒頭に述べた反響へと繋がります。

そんなわけで、戦いの果のモスキートスタンプがそれなりに受けたことに味をしめ、初心を忘れずに今後も無益無用な品々を開発していこうと思いました。制作現場からは以上です。



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