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「にわか大工」のススメ


―対談―
岡村修さん(一級建築士)
雜賀智子さん(玉川ビルオーナー)

「にわか大工」を推奨する、一級建築士の岡村さんと福岡を代表するビンテージビル「玉川ビル」のオーナー雜賀さんが、「にわか大工とは何か」について対談されました。
雜賀さんご自身も岡村さんとご一緒に、玉川ビルのいくつかのお部屋をDIYでリノベーションされています。
お二人の対談では、「にわか大工のあり方」から「最先端の賃貸経営術」まで幅広い内容のお話を伺えました。
それでは、どうぞお楽しみください。


雜賀さん                                 岡村さん、今日はよろしくお願いします。

岡村さん                                 一体、なにを話せばいいんですか?

雜賀さん                                 普段どおりで大丈夫ですから(笑)

岡村さん                                 はい、分かりました。

にわか大工の定義


雜賀さん
では早速ですが、岡村さんは、施主にもにわか大工になることを推奨されています。そもそもにわか大工とはなんですか。にわか大工をどのように定義されているんですか。

岡村さん
大工というのは、昔は、建物を建てる際に、棟梁がすべての責任を負って建物を建ていたんです。今はそうではなく、建築家とか住宅メーカーとかが建物を建てています。それだと責任の所在がはっきりせず、「役所が許可したから安全ですよ」ということぐらいで、昔の大工さんが一生かけてその責任をもつという歴史的なモノからどうも遠ざかっています。
にわか大工というのは、そこまでの伝統的な技術はないし、まあ、知識はあったとしても伝統的な技術までは持ち合わせていないので、だから本来の大工さんへの尊敬の意味も込めて、我々はにわかに大工仕事をしている「にわか大工」にしようとそう名乗っています。

雜賀さん
ということは岡村さんは、ご自身も含めて私達も「にわか大工」という風に考えていらっしゃるんですね。

岡村さん
そうそうそう、もちろんそうです。
DIYする人はにわか大工なんで、そういう気持ちでやってもらえるとありがたいですね。

雜賀さん
にわか大工として施主側も大工仕事をすることを推奨されて、ご自身も職人さんの仕事をされている。こうなったキッカケとはなんですか。

岡村さん
まあ、例えば、経済的な理由で、夢は持っていて夢を形にしたいけどお金がない、そんな人は業者さんや職人さんに頼みたくても頼めません。そういう時に自分らでやれば、まあ職人さんももともとは素人ですから、そういうところから始めればそんなに難しい話ではない。
ちょっとアドバイスすれば、器用な人はすぐにやりだすとおもうんですよね。

それと人間は本来、モノを作ることはDNAのどっかにあると思うので、それをちょっと刺激することで形になっていく。職人の技の一部でもできるようになってくる。
そういう「刺激をあたえる」みたいな事をしています。

にわか大工と日曜大工の違い


雜賀さん 
にわか大工をまとめると、モノを作るDNAを呼び覚まし、自分の仕事に責任を持ってやる人、DIYをやる人といったところでしょうか。

岡村さん
そうですね、あと、にわか大工は「日曜大工」ではない。日曜大工は趣味の段階だけど、「にわか大工」は、もっと文化的なものも含めて「暮らす」ということにもうちょっと深く掘り下げていけるのではないかと思っています。まあ勝手に思っている部分があるんで、なかなか伝わっていかないと思うんですけど。

雜賀さん
お部屋を作るということは、そこに住んでもらわないといけないわけですから、そこには「責任」があるとおもうんです。

岡村さん
一般にDIYというとどうしても日曜大工的なモノになってしまいがちですが、暮らしの一部を担うわけですから、あまりいい加減なことはできないですよね。住環境というのは、大事なので、そのあたりも踏まえて単なるDIYではなく、もうちょっとレベルアップ、レベルアップというと失礼ですけど、もうちょっとアップした状態が望ましいのではないでしょうか。

雜賀さん
たしかに、一緒に仕事をしているとDIYレベルではなく、もうちょっとレベルアップしなさいと教えられている感があります。
では、実際に私がにわか大工として岡村さんと一緒にお部屋をリノベーションする場合、岡村さんは最初にお部屋を見てどのあたりに着目されるんですか。

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玉川ビル リノベーション前のお部屋


岡村さん
基本的にお部屋の状態(傷んでいる箇所など)を見ることも大事なんですけれども、それより(オーナーさんが)この部屋をどうしたいか、どういう形にして貸したいかを話し合って決めさせてもらっています。あと今回は、ビルの中なので構造的には問題なかったので、「できる限り自然素材を使ってほしいな」という提案はさせていただきました。

にわか大工が扱う道具類


雜賀さん
にわか大工になるための注意点として、まず最初に岡村さんに教えてもらったのが、「素手ではやらない」「服装には気をつける」ということでした。
あと道具は、電動のものはインパクトドライバーくらいで、あとはのこぎりや金槌など日曜大工で使うような道具を準備しなさいといわれました。

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岡村さん
なぜ、インパクトドライバーだけ電動の道具を使うのかというと「釘」ってなかなか打ち付けるの難しいんですよ。ある程度腕力がないと釘は打ち込めないんで、あと失敗すると抜くのが大変なんです。その点インパクトドライバーはビスなので失敗してもすぐ抜くことができます。だから失敗のことも考えてにわか大工ではインパクトドライバーを使わせてもらっています。
他に、電気ドリルとか色々な道具があるんですけど、もし怪我をされたら何をしているか分からない。目的がどこにいっているか分からない状況になるので。

雜賀さん
そうですね。

岡村さん
まあ昔はすべて手でやっていたんです。それを学んでもらう。実際ノコギリで木を切ってもらえれば、切りやすい材料と切りにくい材料があるわけですよね。そういうのを分かってもらうためにも、「木を知る」ということも兼ねて、最初はできる限り電動の道具を使わずに手で切ってもらいたい。そういう事を理解した上で、もっと便利な道具(電動)を使ってもらったほうがいいと思うわけです。


雜賀さん
なるほど。
ところで、岡村さんがオススメする、にわか大工として知っておいたほうがいい木材の種類とかありますか。

岡村さん
僕は基本、使っている材料というのは何種類かに限らせてもらってます。
胴縁には21mm☓36mmの木材(長さは2m,3m,4mとあるんですけど)あと30mm☓45mmの木材で、この2種類の木材があれば壁を作ったり床を作ったり、ほとんどこの2種類でまかなえます。あとは木造の建物の補強のために針葉樹合板(12mm)を使っています。この3種類しか使っていないんです。
もしもっと大きい材料がほしいとなった時には、30mm☓45mmを重ねれば60mm☓90mmになるわけで、この3種類が現場にあればなんとかなる、というやり方でやっています。
そうすると、余ったら他の現場にも使いまわしができるし、ストックして棚など作るときにも使えます。

にわか大工になるための心得


雜賀さん
ありがとうございます。
次に、「にわか大工になるための心得」を作ってみました。
岡村さんいかがでしょうか。

ムラさんイベ___6_12 .2021

岡村さん
そうですね。
「素手でやらない」
まあ怪我をしない為なんでしょうが、僕は素手でやります。それは木の質感などが分かりやすいためで、それは真似してもらっていいのか分からないですけれど、まあ基本軍手か何かしてもらったほうがいいかもですね。
あと「最初から欲張らず、できるだけシンプルな改装をする」
これは僕がよく言う「すっぴんのリノベーション」という考えで、化粧するのは住んでいる人が化粧すればいいので、素の状態のものを提案するというのを心がけています。
「できないことは無理にやらない」
これは当然です。世の中にはプロの方が沢山いますので、もし可能なら一緒にする。無理ならこそっと覗いてその技を盗むということはしてもらったほうがいいですね。
「捨てればゴミ、使えば資源」
これも当然です。これは、経済的な問題で効率を考えて全部潰して、新しい材料を買って、という世の中の仕組みになっているので、それをできるだけゴミをださない。それを資源にしてしまう、という考え方をしてもらえればいいかなと思います。

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既存の戸棚のドアを洗面台の上の棚に活かす 玉川ビルにて


「仲間をみつけて楽しんでやる」
大工仕事を渋々一人でやるのは楽しくないんで、仲間をみつけてワイワイやるというのがいいかなぁと思います。
職人さんの現場でも楽しくワイワイやっている現場は楽しい家になりますよね。

雜賀さん
これ(にわか大工になるための心得)に、もうひとつ付け加えて、最初に「目的」をはっきりさせるという事も大事ですよね。

岡村さん
まあ、にわか大工だけでなく、どんな仕事でも目的がないと、みんないっしょにやれないですよね。「こうしよう」というのがあるからみんなそこに群がってくる。
祭りみたいなもので、神輿がないと祭りにはならないので。

オブザーバーから質問
「目的」というのは部屋のデザイン完成のイメージのことですか。

岡村さん
完成品(モデル)があれば楽でしょうけど、僕はそういうモデルがない状態でスタートするほうが好きですね。
そこにあるものを活かしてやるというのを基本にしているんで、どうやって(既存の材料を)活かすかを考えてやるほうが面白いかもしれませんね。
だから、これをしたいから(材料を)買ってきて塗ったり張ったりするのであれば、別ににわか大工でなくても日曜大工でもできそうな気がしますから。
にわか大工はもう少し、ひと工夫できるというのを狙いたいですね。

にわか大工になるメリットとは


雜賀さん
私にとって、にわか大工になってDIYをすることの一番の目的は経費削減ということでした。
ところが、実際に(にわか大工を)やってみるとその他にも沢山のメリットがあることがわかりました。
そのメリットというは、経費削減以上のものもありました。

ムラさんイベ___6_12 .2021 (2)のコピー

雜賀さん
まずひとつ目は「DIY技術」
小さな補修を自分でできるようになりました。(小さな補修で)わざわざ業者さんを呼ばなくていいことは私にとって大きなメリットですし、やはり災害の多い日本で自分で(小さな補修が)できるというのは大切な事ですよね。

岡村さん
そうですよね。あのう、なんでもかんでも業者さんに頼むよりも、まあ、そういうと業者さんに失礼なんですけれども、自分でできることは自分でしたほうが、迅速だし、そのほうがメリットはあるんじゃないかと思いますよね。

雜賀さん
次に「自分の建物を知ることができました」
簡単なところでは、床を剥いだ時に床下配管になっていて、その配管がどのようなルートで設置しているかを確認できました。これはもし水漏れが起こったとき特定するにも重要なことですし、あと、築53年の建物にしては配管がすべて塩ビ(ポリ塩化ビニル)になっていたことも床を剥ぐことで確認ができました。
あと、玉川ビルは地震の揺れに「東西」には強いけれども「南北」には弱いということも教えていただきました。
建物について最低限知っておいたほうがいいことってありますか。

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玉川ビル


岡村さん
まあ、日本は地震の国で、いつ地震が起こってもおかしくない所に建物を建てていますから、最低限知っておかなければいけないことは、どこまで安全なのか、本来は建物の持ち主である大家さんが知っているはずなんですけれども、知らない人のほうが多いですよね。だから少なくともこの建物はどっちの揺れの時にはやばいよという分かる範囲は知っておくべきですね。
どう弱いかは(構造)計算しないと分かりませんが、ある程度は壁の量とか窓の開け方とかで判断できるんで、そういうことは初めに(建物を)みせて貰った時に説明しているつもりです。

雜賀さん
「業者さんへの対応がスムーズにできるようになった」
これは、にわか大工をするおかげで、建築用語などの専門用語がわかるようになり、業者さんから説明を受けた時にストンと頭に入ってくるようになりました。
多少わかっているので業者さんに根掘り葉掘り聞かなくていいし、逆に全く分かっていなかったら、何を聞いていいのかもわからないということになります。

岡村さん
これはとても大きいですよね。
昔から職人を育てるのは、大家さんなんですよね、発注者が職人を育てます。だから大工さんも腕をあげようと思ったらいい発注者、いいパトロンに出くわさないと腕は上がらないんです。
それは業者さんも同じで、発注者が知識がないと適当になるし、自分の都合のいいやり方で仕事をするんですよね。それを大家さんがしっかりしていれば、職人さんも気合いが入るんで、いい仕事をしてくれて、多分安く上がると思います。

雜賀さん
「仲の良い入居者さんができて運営が楽になった」
今回、お部屋のDIYリノベをする時にたまたまDIYが好きだという入居さんから(DIYリノベの)お手伝いをしたいと言われまして、そのことがキッカケでその入居さんととても仲良くなり、ビルの自主管理運営が格段に楽になりました。メリットとしては、例えば、台風が来た時に私がすぐにビルに行けない夜中だったりとかに、入居者さんに様子を見てくれないかと頼めるようになりました。これは本当に助かっています。
岡村さん、このような関係が生まれるというのは、あちこちで指導されていて、他に例はありますか。

岡村さん
んん、そうですね。僕が知っているなかでは、雜賀さんのところが一番いい関係じゃないですか(笑)

雜賀さん
ありがとうございます(笑)
古民家のDIYリノベも指導されていますが、それだと街単位、村単位で、そういう関係性がでてくる事とかありましたか。

岡村さん
んん、今、つくりつつありますね。今までの現場はマンツーマンでやってましたけど、最近の現場は「古民家再生のコミュニティ」ができつつあるかな、とは思っているんですけど。相互扶助の形で持っていきたいなぁとは思っています。八女(福岡県八女郡)でも一つのグループを作って、山鹿(熊本県山鹿)でも作っていけば、僕が行かなくてもいいようにしたいなとは思っています。

雜賀さん
そうですよね。岡村さんが全部最初から教えていくのは、大変ですよね。

岡村さん
そうですね。マンツーマンは楽しいんですけど、マンツーマンの厳しさもありますからね(笑)
だから、にわか大工のコミュニティみたいなものがつくれたらなぁとは思っています。

雜賀さん
そうですね。それが5番目の「お互いが助けあえる大家仲間ができた」に繋がります。
どうしても女手だけだと力仕事(特に木仕事)が苦手で、結局は大変な仕事は全部岡村さんにやってもらうということが多かったです(笑)

岡村さん
そうですよね。男手をもう少し増やすと楽ですよね。


雜賀さん
岡村さんのような知識もある建築士であり(技術もある)職人であるというような方が増えてくると、大家仲間の間でも「DIYリノベやってみようかな」というような人は増えていくんじゃないのかなと思います。
DIYリノベをやるとなると大変なんですけど、このようなメリットがありますので、絶対にやるべきだと思います。
ただし、これは一人でやるべきではなく、自分で仲間を見つけてやるべきだとおもうんですけど、これからは仲間をみつければ、そこに岡村さんのような建築士さんも見つかるという状況になればいいなあと思っています。         😁

                      (2021年6月12日 対談)



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