ある女の子の、人生を変えたあの曲。
「ありさ!! すごいじゃん!!!!!」
ありさ。私の名前。ある日、私の家に遊びに来ているユミがそう叫んだ。
ユミは、クラスで唯一の友達。人に話しかけるのが昔から苦手な私は、高校に入学して1ヶ月間、教室の一番後ろの廊下付近の席で、休み時間も誰とも話せずにいた。だけど、クラスで人気者のユミが、ある日、「ありさって、かわいいね」って話しかけてくれた。
そのあとも、休み時間も放課後も毎日話しかけてくれたユミ。いつのまにか親友になってた。
「ありさ!! すごいじゃん!! ギターが上手いし、歌も上手なんて!! ありさ、こんなに音楽好きなんだったら、シンガーソングライターやってみなよ! 私がやってるガールズバンドとツーマンライブやろうよ!」
「ユミ……、私、そんな、恥ずかしくて出来ないよ。」
それに……、本当は、ユミと一緒に音楽やりたい。だけど、バンドで本気でプロを目指そうとするユミにそんなこと言えなかった。
そんな想いを抱えながら、ユミと楽しい学生生活して2年半。2019年の秋頃、ある日の休日、家のリビングに行くと、お兄ちゃんがiPadで何かの音楽番組を観ていた。
「お兄ちゃん、誰それ?」
「あゆみくりかまきって3人組アイドルだよ。このメンバー、ありさに似てるぜ笑」
あゆみくりかまき。通称、あゆくまという関西出身のパンクロックDJアイドルらしい。グループ名が少し面白くて、3人のメンバーの名前、『あゆみ』『くりか』『まき』から取っているみたい。
『あゆみ』 お兄ちゃんが似てるって言ったメンバー。確かに似ている。テレビ番組なのに、すごく大人しくて、キョドキョドしていて、司会の人が話しかけても、中々上手くしゃべれず、他のメンバーがフォローしながら、なんとかしゃべっている。本当に私みたい。
そんな『あゆみ』に気になって観てみると、
『あゆみ』は私とは全く違う行動をしていた。
(司会者)「あゆみちゃんは、好きなアーティストいる?好きな曲は何?」
(あゆみ)「FUNKY MONKEY BABYSの〈ちっぽけな勇気〉が好きです……」
(あゆみ)「これを聴いていなかったら、多くのファンの前に立って、歌うことができなかったです…。歌うことはずっと好きだったけど、自信がなくて、人の前に立つのが怖くて、自分にはできっこないって思ってました。でも、この曲を聴いて、今動かなきゃ後悔する!って思って、FUNKY MONKEY BABYSさんの事務所に応募して、今こうやって歌えています。」
『あゆみ』は私ができないことをしていた。
自分自身がやりたいことに素直になって、
勇気を出して一歩踏み出すこと。
ユミと一緒に音楽やりたいってこと。
私が勇気を出せなかったこと。
今まで似ていると思ってた『あゆみ』が、全くの別人に視えてカッコよかった。
「ありさ、このアイドル気になるの!? 明日夕方から、ライブあるけど一緒に行く?」
「お兄ちゃん! い、行きたい!!」
そして次の日の夕方、六本木のライブハウスにお兄ちゃんと来た。初めて来たアイドルのライブ。女の子も少しいたけど、男性が多かったから、お兄ちゃんの袖をギュッと握りながら、ライブの開始を待った。
そして17:03。
音楽が鳴り始めた。
「ウォイ!ウォイ!ウォイ!」
ファンの掛け声が会場に響く。
メンバーがステージに現れる。
そして、『あゆみ』も。
『くりか』というメンバーがDJの前に立ち、
そして『まき』というメンバーが叫ぶ。
「あゆくま! やったんで〜〜!! 」
「みんな〜、来てくれてありがとう〜〜!!」
「今日もみんなで一緒に歌おう!!!」
最初の曲が始まった。
最初の曲から、一気に盛り上がる。
ファンがジャンプし、大きな掛け声を鳴らす。
そして、
『あゆみ』が歌っていた。
かっこよく、
まっすぐと、
ちからつよく、
『あゆみ』の歌声が会場全体に広がっていた。
いつのまにか、お兄ちゃんの袖を離し、右手をステージに向けて、私も大きな声で掛け声を鳴らし、あゆみくりかまきの音楽を思いっきり楽しんでいた。
「次の曲は、私たちが大好きな、そして何よりも『あゆみ』の憧れの存在である、事務所の先輩 ファンキー加藤さん(元 FUNKY MONKEY BABYS)が作詞してくださった曲です!」
「聴いてください!」
「ぼくらのうた!!」
チャ〜ン、
チャ〜チャチャチャ〜ン、チャーン〜〜♫
『まき』が歌う。
『くりか』が歌う。
そして、『あゆみ』が歌う。
『あゆみ』が笑顔で歌っていた。
私の目に涙が溢れてきた。
大好きな音楽をやりたい。
大好きなユミとやりたい。
ユミと一緒に歌を人に届けたい。
私は、Airpods Proを付けた。
私は、〈ぼくらのうた〉をYoutube再生した。
私は、ライブハウスを飛び出した。
私は、走った。
『あゆみ』の歌声を聴きながら、私は走った。
ユミの家に辿り着いた。
「ユミ!!」
2階の窓から、ユミが顔を出す。
「ありさ!? どうしたの!? ちょっと待ってて!」
ユミが2階から駆け下り、玄関にいるありさの前に。
「ありさ? 急にどうしたの?」
「ユミ!! わ、わたし、、、」
「ユミと一緒に音楽やりたい!!!」
2019年12月31日。幕張メッセ。
ロックフェス会場。
手を繋いだ二人組の女の子がいる。
その一人は、ギターケースを担いでいる。
「すごい人の数だね! 楽しみだな〜!」
「あゆみくりかまき、めちゃかっこいいよ!」
「そうなんだ〜、なんていう曲が好きなの?」
「ぼくらのうた!」
「じゃあ、今度、その曲、カバーしよ!」
「うん、ユミ!」
【今回ご紹介した音楽グループ:あゆみくりかまき】
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