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もう痛くなんかない。

「痛い!!」

シャーペンでガリガリされるような痛み。
鋭利な刃物でキリキリされるような痛み。

誕生日の日にタトゥーを入れるようになって、今年で4年目。4回も入れても、入れる時の痛みは心に突き刺さるくらい痛い。

「来年こそやりたいことやろう。」

そう思いながら、今年は、緑色のもみじ柄のタトゥーを入れた。

毎年、自然にまつわる柄を入れている。

私は写真を撮るのが好きだった。

大学1年生の時に付き合っていた彼氏が写真を撮るの好きだった。岐阜あたりだったかな、紅葉の景色を写した彼の写真があまりにも美しくて、それ以来、私も写真を撮るようになった。

大学の勉強やボランティアサークル、バイトをする傍ら、時間を見つけては、山梨や新潟、長野、そして、タイやカンボジアにも行って、自然を沢山撮ってきた。

自分にとってただ趣味であったが、ある時、友達が「この写真、本当にすごいよ、あのちゃん!コンテストとかに応募してみなよ!」と言われて、なんとなく写真雑誌に掲載してあったコンテストに出してみた。

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すると、まさかの大賞に選ばれた。

衝撃すぎて、当時の記憶は真っ白だが、
こう思ったのは今でも覚えている。

「フォトグラファーになりたい。」

そう思った。

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そして3年後。

私はシステム開発会社に就職していた。

結局、将来が不安で、なんとなく怖くて、システムエンジニアとして活躍するお兄ちゃんがカッコよくて、同じ業界に行こうと決めた。

とにかく忙しかった。

毎日、毎日、夜10時以降に帰宅。

やりがいはあるけれど、

毎日、毎日、大変で疲れ果てる。

そんな入社1年目の誕生日の日。

夜11時、疲れ切った体を引きずりながら帰宅していると、タトゥー屋にふと目が入った。

なんとなく衝動的に、、、

三日月のタトゥーを入れた。

「いつかまた写真撮りたい。この想いを忘れないように。」

なんとなくこう思って入れてみた。

こうして、

誕生日は、タトゥーを入れる日になった。

自分の想いを忘れないように。

そして今年も、4つ目のタトゥー、緑色のもみじ柄を右腕の脇に入れた私は、家についた途端、ばたりとベッドに寝転んだ。

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うぉぉぉぉ!!!

ズン!ズンズン!!

うおおお!!!

(!?!?!?!?!?)

目を開けた瞬間、目の前に沢山の人がいた。

ライブハウスのような場所で、私はなぜかステージの上に立っていた。

(え!?!?)

しかも、私は踊って歌ってた。

激しく手足を振り、頭をガンガン振っていた。

(夢かな?夢だよね。。。。)

そう思って、周りを改めて見た。

ステージには私以外に5人の女の子がいた。

緑と女の子ごとに違うカラーを基調とした衣装を纏って彼女たちも歌って踊っていた。

どうやら私はアイドルの夢を見ているらしい。

会場にいるお客さんを見ていると、彼らも全身で踊っていたり、頭を振り回していた。

すごいなと思いながら、体を1回転すると、

緑色のもみじのロゴが視界に飛び込んできた。
ステージの後ろに大きくそのロゴがあった。
そして「MIGMA SHELTER」という名前も。

私のタトゥーと同じだ!!

そう思った瞬間、会場の眩しい照明に目が眩んで、目の前が真っ白になった。

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朝7時、昨日の服のままで寝てしまった私がベッドの上にいた。

ああ、やっぱり夢か。

しかし、このリアルな夢は、なぜか、

毎週火曜の夜に必ず観るようになった。

どうやら私はMIGMA SHELTERというアイドルグループのブラジルちゃんというあだ名のメンバーになっているみたい。

アイドルなんて一切興味ない私でも、夢の中のブラジルちゃんという私は、雲ひとつない青空のような晴れやかな楽しい感情でいっぱいだった。

正直、踊りは異常なくらい激しく、夢だから疲れないけど、もし本当だったら、辛くて辛くて倒れてしまうくらいなのに、

キュンキュンと心は踊っていた。

そしてメンバーと一緒に踊るこの瞬間はブラジルちゃんの感情をさらに踊らせた。

ふいの笑顔がキュンなミミミユちゃん、
向き合う時の笑顔がかわいいタマネちゃん、
やさしい笑顔なユブネちゃん、
いつも綺麗でかっこいいレーレちゃん、
天使すぎるナーナナラちゃん。

なぜかこのグループのメンバーは変わったあだ名が多いが、彼女たちといっしょに踊るブラジルちゃんの感情は、今まで私の現実では感じたことないくらいキレイな感情だった。

そしてブラジルちゃんたちを応援してくれている目の前のファンたちも量りきれないくらいのたくさんの笑顔がブラジルちゃんを笑顔にさせていた。

ブラジルちゃんに溢れる感情、

私の現実では感じたことのない感情、

ただの夢かもしれないけど、うらやましい。

ああ、私もこんな感情に出会えたらな。。。

そう思った私がふと目覚めたのは夜中の1時。

なぜか目が冴えてしまって、ベッドから出ずにスマホでTwitterをいじった。

「ブラジルちゃんかっけ〜 #火曜TREND

 ??

「ゲスト MIGMA SHELETR出演中!」

 !?!?

ブラジルちゃんがいる!

そのツイートにあった動画にいたブラジルちゃんを見てさらに目が冴えた私は、夢の記憶を辿りながら色々ググってみた。

MIGMA SHELTER

本当にいるアイドルグループだった。

驚きを隠しきれないまま、ブラジルちゃんが出ているその火曜TRENDって番組を観てみた。

すると、私の4つ目の、緑色のもみじ柄のタトゥーが画面に写った。どうやら、これはMIGMA SHELTERのロゴだったらしい。

ブラジルちゃんはこのタトゥーを入れた理由についてこう言っていた。

「このグループがないと生きられない。」

「それくらいこのグループが大好き。」

「今の大好きなことを一生やりたい。」

「だからこのタトゥーを入れました。」

ブラジルちゃんのこの言葉を聞いた瞬間、

私は涙が溢れた、

私は涙がいっぱい溢れたの。

ブラジルちゃんがタトゥーを入れた理由。

MIGMA SHELTERが大好きっていう"今"の想いを一生続けるために。

"今"の想いをずっとずっと大切にするために。

夢の中で感じたステージの上で踊るブラジルちゃんの感情は、そんな彼女の今の想いがあるからこそなんだと分かった。

そんな彼女だからこそ、彼女の目から視える自分自身やメンバー、ファンの姿があまりにもステキで心踊る瞬間だったのかもしれない。

それに対して、
私がタトゥーを入れたのは、

"いつか"また写真を撮れるように。
その想いを"忘れない"ように。

そう”言い訳”して、

自分の"今"の想いを置き去りにした。


今の状況を言い訳にして、
何かに刻むことだけで満足しちゃって、

自分の"今"の想いを粗末にしていた。

自分の身体を傷つけたんじゃなくて、
自分の想いを傷つけていた。

もう自分の想いを傷つけたくない

もう自分の想いを裏切りたくない。

写真が好きという今の想い。

写真を撮り続けたいという今の想い。

この今の想いを一生大切にするために、

この想いを今、私の内から飛び出さなきゃ。

そう思って、涙をぬぐった。

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そして金曜日。

お昼にいつものタトゥー屋に入った。


「カメラと紅葉の柄を入れてください。」


5つ目の、最後のタトゥーの痛みは、


痛かったけど、


心は痛くなかった。

終わり。

【今回ご紹介したアイドルグループ】

●MIGMA SHELTER
●サイケデリックトランスというジャンルで、全曲ノンストップの激しいパフォーマンスを行う。
●Twitter

https://twitter.com/migmashelter?s=21

●Youtube

https://www.youtube.com/c/crimzonprintings-brgh

#音楽

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