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「すし、うなぎ、てんぷら」

林修先生の著書に「すし、うなぎ、てんぷら」がある。林先生と言っているが、もともと私はテレビでよく出演していた有名進学塾講師林修さんにはこまで関心をもっていたわけではなく、林修さんといえばあの有名な「いつやるの?今でしょ」を本人でない人が使っているのを聞いて知っていたぐらいだった。

私は以前、魚屋に勤めていたのもあって、魚や職人に関することに興味があり、それらに関連する本があると面白そうであれば、買うようになっていた。
ある日、本屋に行くと、魚関連のコーナーに「すし、うなぎ、てんぷら」の本が置いてあり、私は手に取った。著者はあの林修さんである。私は手に取った本を、そっと元の場所に戻した。
最近、有名人が書いた本がよく飛ぶようにうれているが、それもそのたぐいなのかと思ったからだ。確かに中には内容も素晴らしい本はいくつもあると思うが、明らかにその人の名前を利用して販売している本もたくさんあるからだ。
しかし、表紙のデザインがなんとなく良かったので、やっぱり買うことにした。当時の私は立ち読みをする労力を惜しみ、本選びの基準は8割表紙のデザインで決めていた。

家に帰宅して、さっそく読み始めた。読んでみるとこれが、まぁおもしろい。おもしろいというか興味深い。食通が語るうんちくみたいな感じの本でなく、林修さんが、職人さんと1対1のインタビューを通して聞いた、生のの職人の声が書いてあった。一番印象に残っているのは料理人さんの料理に対するこだわりだ。まるで、学者のごとく、日々、研究に研究を重ねているのだ。私たちがそういうお店に行ったときになにげなく出される料理には、細かなところまで全て、料理人さんの研究と努力が詰まっているである。読んだ時には、ここまでこだわっているのかと驚いた。こういう話は料理人ではない私が聞いても非常に面白い。そこには料理人さんたちの志があった。そして、実際にお店に行って、早くこのこだわりの詰まった料理を食べてみたいという気持ちになる。
この本を読むと、まるで、実際にお店に行って、目の前で話を聞いているような感覚がした。普段は寡黙そうな職人さんたちがここまで饒舌に自分たちのことを話してくれる、おそらく林修さんと職人さんたちの信頼関係があってこそのインタビューであろう。

私はこの本を読み終えたあとも、ことあるごとに読み返している。本を開けば、そこには志高き職人さんたちがいるからだ。そして、職人さんたちから、素晴らしいお話を引き出してくれた林修さんにも感謝したい。
今ではこの本に出会えてよかったと思っている。
それからというもの、私の中で林修さんは林先生になっている。塾の先生というより尊敬をこめての“林先生”だ。


後日、たまたまYouTubeで、林先生のお話がながれていたので聞いていたら、この本のことがサラッと出ていた。話の内容についてはうる覚えで詳しいことは覚えてないが、林先生のところに初めて本の依頼が来て、その時はテーマが決められていたのだが、書いた本は見事にヒットしたらしい。その後書いた本たちも売れ行きが良かったらしく、それを見た編集者の人から、一度、林先生の好きなテーマで本を書いたらどうかという話が来たらしい。その時書いた本が「すし、うなぎ、てんぷら」であった。そしてこの本は見事に売れなかったらしい。

その話を聞いた時、私は笑った。私の好きなこの本が人の目に留まらなかったことに。

そして、私は納得した。
どうしてこの本に魅力を感じたのか。それは林先生が、「食」のことが大好きで、自分が好きなことの素晴らしさをたくさんの人に伝えたいと心から思って執筆したからだと思う。人が好きなことを一生懸命やった時、そこには何か人を魅了する魂みたいなものが宿るのだと思う。


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