『素直な気持ちを言ってもいいよ』おりこうさんの葛藤

レッスンをしていると感じることがあります。それは、皆、どんどん《おりこうさん》になっていくということです。元気に挨拶をする、靴を揃える、勉強道具の用意などなど、初回の体験レッスン時には、見られなかった姿をレッスン回数を重ねるに連れ、見ることが出来ます。《出来なかったことが出来るようになる》これは、教育の成果でもありますし、子ども達の成長の賜物なので、素直に嬉しいです。また、お子さん達は繰り返し行う学習により、確実に頭の回転が速くなっていきます。問題を解くことに慣れていく過程で、《正しい答え》《結論》を探る、導き出す《思考》が身についていくのだと思います。これ自体は、《考える力》が養われていると言えるので、いいことだと思います。ただ、時々、少し気になることもあります。それは・・・《自分の本当の気持ちや素直な想い》《感情》を言うことに戸惑い、抵抗感を抱く様子のお子さんがいることです。

【模範解答でなくて良い】私のレッスンでは、対話やコミュニケーションを重視しているので、こうしたお子さん達の心情を感じ取る瞬間が時々あります。『こう答えた方がいいよね』『どう答えるのが正解なのかな？』そのような素振りを見せ、《模範解答》を探るお子さんには、あえて一言付け加えるようにしています。『自分の思ったことを言っていいんだよ』と。すると、はじめは、『うーん･･･』と少し困った様子を見せるお子さんも、『じゃあね・・・』と自分の想い・素直な気持ちを話してくれることがあります。確かに、計算問題などでは答えは一つ。決まっていますが、答えが一つではない問題は意外にも多いのです。特に子ども達は《負の感情》や《意見》を言うこと、持つことは《良くないこと》と思い込んでいる所があります。確かに、マイナス思考やマイナスの言葉ばかり使うことは、周囲をも真負のオーラで包むこともあるので、私自身、あまり好きではありません。文句や不満ばかり言葉にすることは、心地よいとは言えないからです。しかし、自分の中に湧き出た感情や素直な気持ちを言葉にすることは、そんなにいけないことでしょうか。悪いことでしょうか。もちろん、これは場所や状況にもよるので、いつでも自分の気持ちを吐き出していいわけではありません。ただ、私は『ここでは、素直な気持ちでお話していいよ』と伝えています。模範解答でなくても、おりこうさんな答えでなくても、『受け入れてくれる先生が居る！』『話していい場所がある！』そんな場所でありたいからです。

【おりこうさんの葛藤】どこか浮かない子ども達に、話しを聞いてみる、胸の内を探ってみると・・・出て来る！出て来る！本音のオンパレードです。『宿題が嫌』『ガミガミ言われるから、嫌』『学校に行きたくない』などなど･･･。正直、保護者の立場なら聞きたくない、耳の痛い話も多いです。でも、『そっかー。学校行きたくないんだ』『大変だもんね』と子どもの話を受け止め、否定せずに話すと、先ほどまで曇り気味だった子ども達の表情が色づきます。本当の気持ちを言ってすっきりしたのか、その表情は、教室を訪れた時よりも明るく、とてもいい色をしています。私の教室は、《おりこうさん生産工場》ではありません。言葉遣いを含む、マナーを身につけつつ、楽しみながら学ぶ場所です。そして、一緒に学びながら、子ども達の良い所、能力を引き出し、更に伸ばしていく場所です。だから、子ども達が素直な気持ち、本音を言うことは大歓迎！そうして、自分自身と向き合い、自分を好きになってほしい、かけがえの無い存在であることに気付いてほしいと思っています。《自信》とはそういったことの積み重ね、他者から受け入れられることでの安心感が持たせてくれるものだと思います。

たとえ、模範解答・おりこうさんな答えでなくても、素直な気持ちを言葉にする子ども達に、正論は通用しないなと思っています。むしろ、正論で片付けてはいけないと思います。なぜなら、既に子ども達は分かっているからです。知っているからです。それでも、湧き出る感情や想いはどこに出せば良いのでしょうか。溜め込んだままでは、苦しくなるだけです。私が子ども達と関わるのは、レッスン時、ほんの僅かの時間。だからこそ、『素直な気持ちを言っていいよ』と伝えたいです。そんな大人が、先生が居てもいいかなと思っています。

本当に怖いことは、自分の素直な気持ちや想いが分からなくなることです。気づかない振りを続けたり、吐き出す場がなかったり、押さえ込んだり･･･そのような犠牲を払って出来た《おりこうさん》は本来の姿ではありません。子どもの頃から、《自分の素直な気持ちを言う》このことを、当たり前のこととしてほしいです。私がその声を聞きます。そして、受け止めます。

それでは、次回もどうぞお楽しみに。

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