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双子塚(短編小説)

その昔その地方は貧しくて、産まれた赤子を全て育てる事は難しかったそうです。

『おとうさん、おとうさん、お、おとうさん、おとうさん〜』

寒い冬の夜にじいちゃんが亡くなった。

夜中寝ている時の心臓発作で、、母さんが起こしに行った時にはもう冷たくなっていた。

本来喪主はばあちゃんだったが、ボケていたので父さんが喪主を務めた。

じいちゃんの遺産は現金こそなかったものの広大な土地があり、相続税の為に一部土地を売る事になった。

山林とかは簡単に売る事も出来ず、家の裏辺りを整地して売る事になり、自分は土建会社に勤めていたので重機を会社から借りて自分で整地する事にした。

ショベル付きブルドーザーで家の裏手を整地していると、ボケたばあちゃんが血相を変えてこちらに走ってくる。

『いけない。いけない。こんな事をしちゃいけないよ!』

ばあちゃんはブルドーザーの前に立ち塞がり動かない。

妻の奈緒を呼び、ばあちゃんを無理矢理家の中へ連れて行ってもらった。

作業に戻りながら

(そういえば、、ばあちゃんが元気だった頃に、小さなこんもりとした所でよく拝んでいたな〜)

その場所は、、、さっきブルドーザーで整地した場所だった。

滞り無く整地も終わりブルドーザーから降りようとすると、手の指に何かが絡まっている。

《なんだ、?黒く長いひも状の物、、髪の毛?》それも長い髪の毛だった。

《なんだ?こんな長い髪の毛、、、誰のだ?》

いつのまに絡んだか不思議だったが、深く考えずに作業を終えた。

泥の付いた作業着を脱ぎシャワーを浴びる。

頭を洗い、泡をシャワーで流していると腕や足に長い髪の毛がくっ付いている。

指で摘んで水流で流し何気なく排水口を見ると、たくさんの髪の毛が排水口に引っかかっている。

真っ黒な髪の毛が溜まり、こんもりと塊を作り出している。

(奈緒は髪が茶色いしなぁ〜)

奥さんは茶髪、ばあちゃんは白髪、自分と親父は髪の毛が短く、該当する者はいなかった。

みんなに聞こうと思ったが、きみ悪がるといけないので黙っていることにした。

奈緒は旦那の弘樹が作業をしていたので、一人ご飯の用意をしていた。

【カタン、パタパタ、、】

ドアを開けて【誰かが家に入ってきた】気配があった。

『弘樹?もう作業は終わったの?』

(・・・・・・)

誰からも返事は無く、部屋はシーンと静まりかえっている。

(ふふふっ)

今度は背後で笑い声が聞こえた、様な気がした。

(えっ?)

『弘樹〜いい加減にしなさいよ!イタズラして〜!』

叫んでみたものの部屋は静まりかえったままだ。

奈緒は包丁を置いて裏口に向かった。

外を見ると弘樹がばあちゃんを連れて、こちらに歩いてくる所だった。

『奈緒、ばあちゃんが作業場に来ちゃってさぁ〜!部屋に連れて行ってくれる?』

その時ばあちゃんは《駄目だ駄目だ》とも言わなくなり、いつもの様に静かに奈緒に連れられて部屋へ戻って行った。

その日からばあちゃんは明るくなった。

『小夜が来てくれた。』

なにやら中空に向かって喋ったりしている。

口癖のように中空に向かって

『ごめんなぁ、、••••だけ、、ごめんなぁ』

と話している。

程なくしてばあちゃんは死んでしまった。

安らかな死顔だった。

ばあちゃんが死ぬ前に一回色々と聞いてみた。

ボケている為、何処まで本当か分からないが、、

小夜はばあちゃんの子供だという。

しかし役所の戸籍を調べてもそんな名前は記載されていない。

髪の長い可愛いい女の子で、歳は3歳だと言う。

それ以上はよく要領を得ず、ばあちゃんから聞き出す事は出来なかった。

父さんに聞いても兄妹はいないという。

しかし父さんは子供の時に小さな髪の長い女の子と一緒にいた記憶があるという。

泣き叫ぶ【大ばあちゃん】と父さんの母さんである【ばあちゃん】。

そして【鬼の様な形相の大じいちゃん】

それ以来その女の子との思い出はなくなってしまったそうだ。

家の中で人の歩く様な音、笑い声、長い黒い髪などの異常現象はその後も続いた。

《トゥルルルルットゥルルルルッ、》

ある日電話が鳴った。

姉ちゃんだった。

姉ちゃんと言っても二卵性の【双子】で、もう結婚して大阪で暮らしていた。

『弘樹、久しぶり。あんたさぁ〜最近周りで変な事無い?』

突然の電話だった。

『変な事って?』

最近起きている変な現象の事はとぼけて姉ちゃんに続きを聞いた。

『最近な、女の子が夢に出てきて【早く行こう、早く行こう】と手を引っ張るんよ。』

『全然記憶に無い子やし、家の中に家族と違う髪の毛が落ちてるし、、、』

姉ちゃんはだいぶビビっていた。

これ以上怖がらせてもいけないし、こっちの事は黙っていた。

『姉ちゃん、こっちは何も無いよ。きっと気のせいだよ。』

姉ちゃんはビビりながらも電話を切った。

それから暫くして姉ちゃんは亡くなった。

姉ちゃんの葬儀も無事終わり、それから暫くは何事も無く数年が過ぎた。

妻の香織も妊娠して、、【双子】の赤ちゃんが生まれた。

一人は男の子、弘和。

一人は女の子、悠美。

悠美が4歳になる頃から独り言が多くなり、《ヤダ》とか《ウン》とか言っている姿が見受けられた。

悠美に聞くと【女の子】と話ししていて、いつも何処かに(行こう)と誘ってくるそうだ。

(姉ちゃんの時と同じだ。)

悠美には絶対について行ってはダメだよと言い聞かせ、《古い地域の古文書の残る》地元の図書館に急いで出かけた。

何も手掛かりが見つからなかったが、何かヒントは無いか、、一生懸命に探した。

諦めかけた時、ある一文が目にとまった。

【双子塚】

この地域では双子は天変地異の前触れとされ、3歳の誕生日までに穴を掘り埋めていた。

本来、この地域は貧しくて、、2人は育てられない。

口減らしの意味もあったのだろう。

この様な事から外部には秘密にし、敷地内でひっそりと執り行なわれていたようだ。

、、、あの女の子は父さんの【双子?】

もしかして埋められて殺された?

双子の姉ちゃんを連れて行き、今は悠美を連れて行こうとしてる!

急いで家に戻ると家の前に救急車が停まっていた。

焦る気持ちを抑え車から降りると

『悠美〜悠美〜嫌〜〜』

妻の叫び声が響きわたる。

バックドアが開いたままの救急車、、

『悠美〜悠美〜〜〜』

と声だけが外にまで響いていた。


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