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男らしさへの期待 映画『CLOSE/クロース』ネタバレあり〜映画感想文〜

CLOSE/クロース(2022年製作の映画) Close 上映日:2023年07月14日製作国:ベルギーオランダフランス上映時間:104分
監督 ルーカス・ドン
脚本 ルーカス・ドン アンジェロ・タイセンス
出演者 エデン・ダンブリン グスタフ・ドゥ・ワエル


「男らしさへの期待」

是枝監督の『怪物』的なものかと思って、好評は聞いていたものの、二の足を踏んでおりました。

LGBTQ+イシューというよりは
〝男性性〟の方がテーマのようですね。

以下のインタビューで監督は「男らしさへの期待」という言葉を使っておられます。

気鋭の映画監督ルーカスドンがCLOSEクロースで掘り下げた男の生きづらさ” - WIRED
https://wired.jp/article/close-lukas-dhont-interview/

「男は男らしく!」って言われた時に、
女子同士でなら許される同性同士の距離感が男子だと許されなくなってくる。
(そこにはもちろん同性愛嫌悪という下地があるからこそなのでセクマイイシューでもある)

そうじゃないと輪から外されてしまう。

この映画だと本当に〝輪〟を形成してました。
校庭で喋ってるだけでもいちいち〝輪〟。
ボール遊びでも〝輪〟。

必死にその〝輪〟の円周にいようとするレオの姿が辛いんだけど、
確かにああいう場面は学生生活の中ではマジでたくさんありましたね。。。

一方、レミはその謎の〝輪〟に入るか入らないかについては気にしていないようでした。
ただレオからの拒絶が悲しかったのでしょう。

レミもなぜレオが自分と距離を置こうとしているのかはわかっていたと思うんです。
レミは「期待される男性性」に応えようとする男の子ではなかったようですが、世の中には「期待される男性性」ってものがありそれに応えられないとハブられるっていうのは、レミも気づいてはいたと思います。

「それを理由に僕を拒絶するの…??今までのは何だったの??」という悲しさだったのかなと。

***

映画は現実社会の鏡でして。



女性やセクシュアルマイノリティの権利の平等化が進む中で
ヘテロ男性が「自分を省みる」という作業を現実社会で行われていると思います。

脚本家の坂元 裕二が『怪物』で、
ルーカス・ドンが『CLOSE/クロース』で、過去の自分を省みる作品を作っている。

ちょっと毛色は違うけど『パリタクシー』もそうだと思っていて、
女の〝長い〟話をおじさんが聞き続けるという構造で最初から最後まで貫いた映画はとても珍しいし、
その女性の話っていうのも「有害な男性性に苦しめられた半生」な訳で、それをおじさんがずっと聞き続けるってのはやはりそこには「男の反省」があるだろうし、そもそもこのタクシー運転手(ダニー・ブーン)は有害な男性性はあまり感じられない人物像になっていた。

で、話ちょっとそれますけど、
2020年のドキュメンタリー映画『トランスジェンダーとハリウッド: 過去、現在、そして』では、ゲイ男性も批判の対象になっています。
ゲイっつっても所詮は男。
ヘテロ男性が社会の変化の中で反省すべきターンに来ているなら、ゲイ男性も同じ。

ネットフリックスの『シングル・アゲイン』では、ゲイの中年男性とシニア女性が友人になって
お互い似たような境遇であると笑い合うけど
シニア女性はゲイ中年男性に「でもあなたは男よ」と釘を刺す。

***

ラストネタバレは以下に。。



おそらく自殺ですよね。。
ご両親辛いですね。。

レミをいじっていたクラスメイトたちが
「まるで被害者かのように」グループセラピーを受けていました。

いじめてた張本人たちが
「レミはいつも笑顔だった。レミはいいやつだった」と2行ずつくらい順番に話していくのを睨むレオ。

レオはおそらく「自分のせいだ」と自分を責めたり
「いや、クラスメイトのいじめのせいだ」と他人を責めたり
もしかしたら言語化できていなくても何となく社会(世間、空気)に責任を押し付けようとしたり
グルグルグルグル頭の中で考えていたはず。

それなのにクラスメイトはのうのうと
まるで自分が心に傷を負ったかのようにペラペラとなんか喋ってる。

せめては自分だけは自分のせいだって思わなきゃって思ったのでしょうか。
レミの母に「僕が追い詰めた」と告白。

「でも仕方なかったんだ!」と言い訳しないレオ。
レオだけのせいではないことは観客は重々承知。

レミの母「降りて」。
息子の親友の成長を息子同様に見届けることを少しの楽しみにしようとしていたかもしれない。
そんな中、「え、コイツのせいなの?」とレミの母はパニックになり森にレオを放置してしまう。

レミの母「やべえ」と思って、すぐにレオを捜索。
昼間で良かったですよね。夕方以降だったらもうレオ遭難してましたよ。

無事にレオ発見。
レオは木の棒を持ってます。
自傷行為なのかレミの母を攻撃するつもりなのか。
僕は自傷行為かなと思いました、最初は。
自分を殴ったりするのかな、と。
でもちょっとレミ母に向けるような感じもあったような。
つまりもどっちもですよね。
レミが死んでからずっと孤独で1人で戦っていて
やっとレミ母に告白(カミングアウト)することで苦しいし賭けだけど世界が開けるかもと思ったのに
「降りて」って言われて、まるで世界から降りろって言われたかのような衝撃。
もちろんレミ母の気持ちもわかりますよ。
「全方位僕の敵かよ」とレオは木の棒を持っていたんでしょうね。

で、レミ母はレオを抱きしめる。

後日(だいぶ経ってから)レミの両親は引っ越ししていた。
産院を訪ねたらもしかしたら引っ越し先を知れるかもしれないけど、レオはそうはしなさそう。

レオの家業である花栽培が佳境。
花畑の中をかけっこする相手はレミではなく兄。

振り返るレオ。
追いかけてくるレミはいない。

けど、いるよね。
いるんよ。
こういう死に方をした若者がたくさん。
レオはその子たちを見たんよ。
たっっっっっくさん実際にいるんよ、こういう死に方をした若者が。

いじられて、いじめられて、明るい未来なんてないって思わされた若者が、ひっそり隠れて大人しく真っ当な幸せなんて求めたらいけないと思わされてる若者がたくさんいるんよ。


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