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愛の前に〝個〟である 映画『アンモナイトの目覚め』ネタバレあり

アンモナイトの目覚め(2020年製作の映画)
Ammonite
監督 フランシス・リー
脚本 フランシス・リー
出演者 ケイト・ウィンスレット シアーシャ・ローナン


「暖かいわ。去年の今頃は雪が降っていた」byメアリー

すわいこう(最高)のセリフ!

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メアリー(ケイト・ウィンスレット)のコミュ障っぷりがかわいい。

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良いラスト!どこで終わるんだろうと思ったらあそこで終わった!
最高!
そしてエンドロールで微かに聞こえるさざなみの音。


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同監督の『ゴッズ・オウン・カントリー』同様、同性を愛すること自体には苦悩しないのがいいですね。


すでに乗り越えているのか、そもそも苦悩ではなかったのか。

どちらの映画も終盤ふたりは壁にぶち当たるけど、それは同性同士だからではない。
差別を受けているからでもない。
相手への尊重が足りなかっただけ。
それは性別も恋愛さえも関係ない、生命同士の根本的なもの。

かといって「同性愛だって異性愛と同じくらいステキだよね!」って言いたい映画ではない。
そんなことは当たり前のことで、より先を照らす映画。

未だに「異性愛と同じだから同性愛を認めてよ/認めてあげようよ」といってるLGBTQ映画と世界を蹴散らす。

とくにこの『アンモナイトの目覚め』はとても開かれたラストでしたね。



ラストについては以下に。



まずはラストについて。

夫(男)の庇護の元で暮らすことが幸せ(当たり前)と思ってるシャーロットは、メアリーを自宅に住まわせようと企てる。

驚愕のアイデアですよ。夫と不倫相手(メアリー)と私の3人で住もうっつってんだから。

シャーロットは元来の上流階級イズムが抜けていなくて、使用人を同じ人間だと思ってないくらいの人だから、自分が夫(男)という〝金の籠〟に閉じ込められていることに気づいていない。

「大丈夫。単なる使用人よ。」というシャーロットの発言ダメでしたね。
上流階級感戻っちゃってるよ!
人を人と思ってないヤな感じが出ちゃってるよ!と。

「え〜何言ってんの?マジで。私の自由は?しかもライムレジス離れろって、私の採掘を認めてくれてなかったの?」とメアリーは残念な気持ちに。

メアリーはひとり博物館で、12歳の自分が見つけた恐竜(まだ当時は恐竜の存在が広く知られていなかった)の化石を見る。博物館の中でも特等席に飾られている。

誇らしい気持ちもありつつ、化石自体はこんなにスポットライト当たってんのに私自身は正当な評価を得られていない悔しさもあるのかも。

目の前にシャーロット現れる。
メアリー、化石、シャーロットの構図。

自分、自由、愛。この3つは等価である、と。

〝個〟なのであると。
誰かに庇護されたり仕えたりする立場にならずとも私たちは〝個〟として向き合えるはずなのでは、と。

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映画冒頭に戻って。

映画冒頭では、女性の掃除婦が床を雑巾掛けしている。博物館の床。
掃除婦は、男たちによって運び込まれた化石に押しのけられる。人を人とも思ってない対応をされる。

その化石はメアリーが採掘したもの。

メアリー自身も古生物学者でありながら「女性であることで本や論文を許されなかった」。

同じく苦しむ女性であるメアリーと掃除婦は、男たちの手を介して傷つけあってしまう。悔しいシーン。

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シャーロットは、子作りする気分じゃないと夫から夫婦生活を拒絶される。
逆さにされたガラスのコップに閉じ込められた蛾。(終盤のメアリーのセリフ「金のケージに閉じ込められた鳥」)

「明るく元気で賢い妻に戻ってほしい。ライム・レジスは保養地にぴったりだ」by夫。

夫は妻と一緒に出歩くことをメアリーに頼む。夫はひとりで考古学ツアーを継続。メアリーとメアリーの母、シャーロットの3人の生活が始まる。

ゲオルゲ様主催の音楽会。ゲオルゲ様はメアリーのことが好きっぽい。
あ、ゲオルゲ様ってのは『ゴッズ・オウン・カントリー』のゲオルゲ様。
ゲオルゲ様によるセルフのスライドショーとチェロの独奏。

うつ病とはいえ社交界で生きてきたシャーロットはすぐ場に馴染み初対面の人たちと仲良く会話しはじめる。

輝くシャーロットの背中を見つめながらメアリーは自分の気持ちに確信を持ってしまう。
ほぼ怒りのような情愛。

「もうこんな気持ち必要ないのに!」と思っていたかもしれない。

メアリーは雨の中、音楽会をひとり抜け出す。
シャーロットに向けたポエムをしたためる。

メアリーの前でシャーロットはそれを読み上げてから、
「あなたは今夜1番綺麗だった」byシャーロット

翌日、でかい化石を発見し2人で力を合わせて運ぶ。
その夜、2人は一線を超える。

2人は心も体も結ばれたことで、今まで何にも感じなかった(むしろ軽く地獄だった)日常風景が輝き始める。
『ゴッズ・オウン・カントリー』のよう。
彼らもまた愛し合える人と出会えたことで牧場の風景を愛し始めた。

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夫に手紙で呼び出されてシャーロットはすぐに帰宅することに。
出迎えの馬車に乗ったシャーロットにメアリーが言う。

「暖かいわ。去年の今頃は雪が降っていた」byメアリー

さすがに別れのキスをするわけにもいかないし、熱い抱擁しちゃったら別れが辛くなるしってことで上記のセリフ。

あなたのおかげで私は近年稀に見るほどホットな時を過ごせたわ、と。

メアリーのことを「雷みたいな人」と言うシーンがあるけど
あれはメアリーが15ヶ月のとき雷に打たれて、同時に雷に打たれた3人は亡くなったけどメアリーだけが唯一生き残り「彼女の才能は雷に打たれたから」という迷信が生まれたことから来ているんですね。


実在の人物であるメアリー・アニングが同性愛者であったという確固たる証拠はないんですね。

しかしメアリーが生涯独身であったこと、メアリーとシャーロットは文通もして年齢や階級を超えた友情あったことは事実とのこと。

証拠もなく同性愛者として描くことに戸惑う人もいるだろうけど、
かといって当然のように異性愛者として描くことには全く罪がないのか。

はたして。

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