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非正規雇用差別禁止法案

現実にはこんな法案名にはならないと思いますが(「雇用安定法」ぐらいが妥当でしょうか)、わかりやすくこういう名称で考えてみました。


1、有期雇用の禁止

期間の定めのある雇用契約を禁止します。働く側にとって、有期雇用は何のメリットもありません。身売りされた奴隷か花魁でもないかぎり、契約途中でも辞めたくなれば辞められるからです。
雇用の調整弁に困る、という経営者側の意見はあるでしょうが、非正規の給料も払えないほど経営状態が悪化しているなら、正当事由として人員整理をすることを妨げるものではありません。
現実には会社が傾いているわけでもなく、仕事もあるのに、「契約期間満了」という理由で何の落ち度もない優秀な同僚が雇止めされていくのを何度も見てきました。そもそも半年後以降も存続する予定の事務所で半年契約の事務員を採用することに何の必然性があるのでしょうか。結局人手が必要なので同じ立場の新人を採用してゼロから教育しなければならないだけで、誰も幸せにしません。
現状、いわゆる労働契約法の5年ルールで、5年働けば無期転換できることになっていますが、この結果、無期転換を避けるためにわざと更新回数の上限を設定して5年で雇止める逃げ道を生んでしまいました。これを防ぐためには、採用時点から有期雇用を禁止するしかありません。
たとえば一日限りのイベントスタッフのような、本当に期間限定の仕事に限り、例外的に有期雇用を認めることは考えられます(抜け道に使われないように注意が必要ですが)。またプロ野球選手のような特殊な職業であれば、年単位の契約は可能でしょう(雇用契約とは違うかもしれませんが)。

2、無条件での社会保険加入義務化

1分1秒でも人を雇ったら、すべて社会保険に加入してもらいます。現状では労働時間が週20時間以上とか、いろいろと条件をつけていますがそれらをすべて撤廃します。
これは働く側にも、今まで払わなくてよかった人が社会保険料を払う必要が出てくるので、抵抗があるかもしれません。ただこれは、社会の安定のためにどうしても必要な対策なのです。
社会保険は困ったときのための保険です。週20時間未満の人は病気もケガもしないとか、失業しないとか、老後もない、というなら別ですが、短時間だから保険がいらない、というのは筋が通りません。たとえば車を所有すれば全員に自賠責保険の加入が義務付けられています。週20時間未満しか乗らないから免除、などということはありません。事故を起こす可能性はあるからです。
現実には他の誰かがその人たちの保険料を負担しなければいけません。大量の扶養内パートや学生アルバイトを使って社会保険料負担を免れている企業がある一方で、まじめに従業員を全員社会保険に加入させている企業の負担が重くなる、というのは会社レベルでも不公平です。また、社会保険料負担が生じないようわざと短時間勤務で募集する企業が出るので(「1日6時間、週3日」みたいなあからさまに被扶養者狙いの求人をよく見かけますね)、食べていけない雇用ばかりが増えてしまいます。
「育児や介護、学業があって長時間働けない、そのうえ社会保険料負担はきつい」という声もあるとは思います。ただ社会保険は困っている人ほど入っておいて損にならないものでもあります。老後の年金も増えますし、病気で働けなくなったときの傷病手当があるのも大きいです。とくにこのコロナ禍で、大学生がアルバイトを解雇されたり、シフトカットで大幅に収入が減ったりして困窮するケースが目立ちますが、雇用保険に入っていれば助かる人も多かったのではないでしょうか。
全員を一人前の職業人として社会保険料負担を求めたうえで、育児休業や介護休業、学費援助のようなかたちで個別に支援したほうが、本当に必要な人に支援が届くように思います。

3、正社員と非正規の賃金格差を25%以内とする

正社員が年収400万だとしたら非正規が300万以上になります。これはフルタイム換算ですので、週12時間労働の契約だと90万くらいでしょうか。
「同一労働同一賃金」ではないところがポイントです。完全に同一の仕事などめったにない以上、ある程度の格差を認めたうえで、納得できる範囲に落としこむほうが現実的だからです。年収差が100万なら「まあ正社員の人は責任もあるしねー」で済みますが、これが600万と200万とかになると、「年間400万円分の責任って、どんな責任だよ?」となってしまいます。交通事故で本人が死亡した場合の賠償額がだいたい350万くらいだそうなので、400万となると、人ひとりの命より重い責任になってしまい、正社員の皆さんは有事の際に責任をとって切腹しなければいけなくなります。

会社がつぶれてしまう?

「そんな、非正規の待遇改善なんかしたら、うちみたいな中小零細企業はつぶれてしまうぞ!」というのもよくある反対意見です。
それについては、正社員の賃金を下げて非正規を上げる政策にすれば、総人件費は変わらず正社員にとっても必ずしも損にならないことは、こちらの記事で検証しています。
さすがに、社長と専務以外の全員が社会保険未加入のパートで社会保険料を払うとつぶれる、みたいな会社は、事実上営利企業として人を雇うのは無理なので、むしろ経営体力のある会社に買収してもらって社長も一社員としてパートさんと一緒に働くか、家族経営にしたほうがいいかもしれません。
ただ全体的には、この法案が実現すれば企業にとってもメリットはあると思います。経験を積んだ人に安定して長く働いてもらえるので採用コストは下がるわけですし、非正規でも働こうという意欲が増すので人手不足解消も期待できます(今まで社会保険料負担を嫌って労働時間を抑えていた層がフルタイムで働いてくれるとかですね)。過労死しては元も子もないので正社員をこき使うのには限度がありますが、伸びしろの多い非正規の待遇をすこし上げてそのぶん働いてもらえば、給料当たりの生産性を高くすることにもつながります。

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