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自然神との対話の足跡⑭

古代に遡って、黒曜石、漆、辰砂それぞれの物産の移動・物流網ならびに、焚き火・狼煙や鏡石を用いた情報伝達網の利用状況を整理・推察してみました。

移動・物流網(ネットワーク)

黒曜石

今日のような運送手段がなかった昔、石器時代から数万年にわたって産地限定の黒曜石が大量に、しかも広域に流通していました。東日本の黒曜石の原産地は、信州産、箱根産と神津島産が知られています。
星糞峠、星ヶ塔など星の名がつく高原地帯の鉱山から掘り出された耀く黒曜石は、山裾のムラからムラへと持ち運ばれ、ムラを結ぶ道は「黒曜石の道」となっていました。八ヶ岳山麓には、大量の黒曜石が集められた大きなムラが点々と存在します。そこは黒曜石を求めて遠くの地域から訪れる縄文人との出会いの場となり、東西文化の交流ネットワークができたのです。
信州産の黒曜石は良質なものが多く、割れ口が鋭く加工しやすいため、矢じりやナイフをはじめとする多彩な石器づくりの材料として当時の人々に好まれ、広く利用されていました。
神津島ならびにすぐ隣の恩馳島(おんばせじま)の黒曜石はより良質とされています。今から2万年ほど前に神津島の黒曜石が神奈川県大和市の月見野遺跡神奈川県相模原市の田名向原遺跡まで運ばれ加工されていました。また、縄文時代早期の9千年前から縄文晩期の4千年前には、伊豆半島中心に千葉県成田市の空港や佐倉市の遺跡から神津島産とされる黒曜石が出土しています。

漆は、日本で縄文時代より古代から利用されていた可能性があります。土器の接着や装飾に使われているほか、木製品に漆を塗ったものや、クシなど装身具に塗ったものが出土しています。2000年に北海道函館市の垣ノ島遺跡の調査で出土した漆塗りの副葬品が、約9000年前の縄文時代前期に作られたものであったことが判明しています。

辰砂

辰砂中国の辰州で多く産出しました。辰砂鉱石の鉱山は日本にも多数存在し、縄文時代から朱の採取に利用されてきたと推定されています。朱の産地を知ることで、古代における朱の流通状況が明らかになっています。古代は中国産の辰砂を主体的に利用していましたが、縄文後期から古墳時代には国産の辰砂の調達・流通が確立したことが明らかになってきています。

縄文時代(約3,500年前)出雲市京田遺跡出土の朱の産地推定:2019年11月理化学研究所、近畿大学による

経済学の視点から辰砂の調達と物流を分析することで、卑弥呼や天照大御神の動きを推定できる可能性もあります。

辰砂の物流については、現地を訪問して自然神との対話の足跡④にも整理したところです。

情報伝達網(ネットワーク)

焚き火・狼煙(のろし)

火を使うことが人への進化の証であるといわれています。夜活動するためには灯りが必要ですが、人はそのために焚き火をしました。焚き火をすることで周りを点すだけではなく、仲間や周りにいる動物に自分の存在・位置を知らせたり、煙により蚊などの虫の攻撃を防いだりすることができます。このように人はそもそもの存在証明として火や煙を利用しています。
焚き火・狼煙は、古くからあった煙や火を使った情報伝達の方法ですが、古代中国や中世イギリスで工夫され、現代の情報伝達網として進歩した記録があります。
日本の文献に残されているものとしては、飛鳥時代(7世紀)に外寇の侵略や内乱に備えるために狼煙を使った記録が『日本書紀』にあります。664年に、対馬・壱岐・筑後国に防人と烽を置いています
腕木通信(うでぎつうしん)は、18世紀末から19世紀半ばにかけて主にフランスで使用されていた視覚による通信機、およびその通信機を用いた通信網で、テレグラフの原型となりました。これが情報伝達網への展開の始まりです。

鏡石

古代の人々は、おしゃれのために鏡を使ったのではなく、太陽や月の光を反射する鏡に畏怖の念を抱き、魔よけやまじない、祭りの道具として使いました。そして簡単には向きを変えない鏡石は、祭祀の道具を越えてさらに実用的に利用されたのではないかと考えます。
剣山の太郎笈から次郎笈には表面が鏡のように磨かれた石が点在しています。これらの巨石の方向を合わせて、太陽の光を反射させたり情報を伝達する道具(光通信)として利用されていた可能性があります。

山から立ち上がる光の柱は自然神との交信の印であり、太陽信仰のリアル現場のように見えます。四国では古代より剣山を中心としてアマテラス族が山々で暮らし、鏡石を利用して情報伝達を行なっていた痕跡が残っているのではないかと思います。
一方、東日本に数多く残されている環状列石や巨石遺構の石も、それらが情報伝達の道具として利用されていた可能性について、配置や位置関係をよく確認してみたいところです。

光の柱は自然神との交信の印:AI画像合成による

あとがき

古の文明の利器についてレビューしてきましたが、テレパシーを体現すれば情報伝達網は不要であり、テレポーテーションや瞬間物質移動の装置を操れれば移動・物流網も不要です。そもそも精神(魂)の世界では情報伝達網も移動・物流網も必要ありませんが、人が物質世界で生きるために文明の利器が求められ、実際に発明され構築されてきています。
技術革新が文明の利器の構造(材料、機械、しくみ)を変え、さらには利用の方法(制度)を変えてきています。利用の方法を一歩間違えば自ら文明を崩壊させる技術(原子核や細胞核を操作する技術)も実際に現れています。引き続き文明を深耕していくことができるかどうかは、利用する人間の精神が握っています。

人生は宝石箱をいっぱいに満たす時間で、平穏な日常は手を伸ばせばすぐに届く近くに、自分のすぐ隣にあると思っていた……