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どうなる在宅勤務? -Amazon「週5日出社」の衝撃-

そのニュースは発表された。突然に。

アメリカ時間9月16日。米Amazonは従業員の在宅勤務(リモートワーク)の廃止を発表した。2025年1月から原則として週5日オフィスで働くことが義務付けられた。

ぼくはこの発表を知った時、出張先のアリゾナのオフィスにいた。朝からミーティングだらけでドタバタと仕事をしている中、Amazon社長のアンディー・ジャシーさんのメモが全社員向けに公開された。「なんだろう?」と思って隙間時間にさっと読んでみると、そこには週5日出社義務の話とマネージャーの比率を15%減らすという2つのことが書かれていた。ぼくだけでなく周りの社員が特に反応していたのはやっぱり「在宅勤務が出来なくなる」ということについてだった

「さて、どうしたものかな」というのがぼくの最初の反応。昨年初めにぼくは「イカ釣りがしたい」というすごく立派な理由でオフィスからほど遠い海の近くに引っ越していた(詳しくは以下の記事参照のこと)。なので通勤しやすくするためにまたオフィスの近くに引っ越すとかすると、気軽にイカ釣りが出来なくなるじゃないか。第一にそれが心配だった。

まあでも「オフィスに来て欲しいという意向は十分わかったし、なんとかしなきゃな」と思うぐらいでぼくはすぐ仕事に戻った。ただぼくのチームメイトのエンジニアたちはこの新しいルールについて結構激しくリアクションしていた。みんなの仕事や生活に対して極めて大きな影響を及ぼすものだということは明らかだった。

チームの反応

ここで少しだけ時計の針を戻したい。そもそもAmazon社長のアンディー・ジャシーさんは2023年5月に週3日の出社義務を発表した。それまでは基本的にずっと家で仕事をしていても問題がなかったわけなので、これは非常にショッキングな通達だった。

このときのチームの反応はすごかった。エンジニアもPM陣も激しく抗議していた。アメリカ人もインド人もほんとずっとブーブー言っていた。チーム全員を集めたミーティングでも若いエンジニアたちがお偉いさんたちに対して「一体どんなデータをもとに在宅勤務が悪いというのか?」と激しくまくしたてていた。でもお偉いさんもタジタジで言葉を濁すだけだった。というのもこの週3日出社のルールはアンディー・ジャシーさんとその取り巻きの間だけで決められたことなのだろう(想像に過ぎないけど)。その証拠に米Amazonの相当偉い人でさえ、このルールのことが発表されるまでその存在を知らず、公表されると彼ら自身もショックを受けていたからだ。

全社的にも大きな話題になり、ある日には「立ち上がれ社員!」といったタイトルのメールが知らない社員から送られてきた。そこには「〜月〜日に抗議集会をするから参加してくれ」と書いてあった。ぼくはこういう時のアメリカ人の本気みたいなものを間近にして結構震えた。

そして今回の発表で「週5日毎日オフィスに来てください」となったわけなので、やはりみんないろんな反応を見せていた。シンプルにガッカリしている社員もいたし、ぼくと同じく「新しい家を見つけなきゃな」と言っている社員もいた。

毎日の出社に抵抗する理由はいくつもあるだろう。何時間も集中してコードを書きたいエンジニアやドキュメントを作りたいPM陣にとっては家で仕事をする方が生産性が高いと考える向きもある。また通勤時間も頭が痛い問題だ。アメリカは車社会なので一斉にオフィス出社となると渋滞が凄まじくなり、通勤時間は大幅に膨れる。そして家族持ちの人にとっては、仕事と子育てのバランスを保つために在宅勤務は実に効果的なオプションだったわけだ。

もちろんみんなオフィスで働くことを全面的に否定しているわけではない。オフィスで働くことの効用、つまりチームメイトと良好な関係を築いたり同じミーティングルームで活発にアイディアを出し合ったり出来る良さは誰もが認めるところ。PwCの以下のレポートには「在宅勤務とオフィス勤務のハイブリッドが最も従業員の満足度が高い」と書かれているけれど、これが非常にリアルな実態だろうと思う。「オフィス勤務の良さは分かるけれど在宅勤務もその良さがあるからどちらも活用すべきだ」というのがきっと共通見解なのではないだろうか。

なんでそんなにオフィスに来てほしいのか?

世界的なテクノロジー企業はコロナ禍が落ち着く前からオフィス出社を促す傾向にあった。Appleは2021年に、Alphabet (Google)とMeta (Facebook)は2023年に週3日の出社を規定している。Amazonのアンディー・ジャシーさんも早くから在宅勤務に懐疑的だったし、米JPモルガンのトップを務めるジェイミー・ダイモンさんも声高にリモート・ワークを批判していた。テスラのイーロン・マスク氏に至っては在宅勤務を「道徳的に間違っている」とまで言い放ち激オコしているぐらいだ。You Tubeには彼がほんとにプリプリ怒りながら「在宅勤務なんてあり得ない」と言っている動画も転がっている。

経営者は社員になんでこんなにもオフィスに来てほしいのだろう?出社を強制するとなると、ぼくが上に挙げたような社員のネガティブな反応はもちろんお見通しだったことだろう。それでもお構いなしにオフィスに来てほしいと強く催促する。なぜだろうか。

今回のAmazonの発表では週5日出社を義務付ける理由として"企業文化を強化すること"を挙げており「発明し、協力し、互いに十分なつながりを持つことができるようにする」としている。それは本当にそう思っていると思う。ただ根底にはもっと生々しい経営者の本音があるんじゃないだろうか。

平たく言えば経営者は不安なんじゃないだろうか?在宅勤務によって仕事の生産性が著しく下がることを危惧しているのだろう。在宅勤務が「社員が仕事をサボる手段として機能してしまっている」という疑いが拭えないのじゃないだろうか。これは完全にぼくの個人的な意見だし、想像に過ぎないけれど、そう思ってしまう節がある。そしてそれは十分に理解できる心情だと付け加えておきたい。

というのも世界的なテクノロジー企業のトップはみんなめちゃめちゃオフィスで働いてきたからだ。Appleのティム・クックも、Amazonのアンディー・ジャシーも、テスラのイーロン・マスクも数十年に渡ってオフィスであくせく働いてきた人間だ。イーロン・マスクなんかオフィスに寝泊まりしながら仕事しているという有名な話まであるぐらいだ。長い期間に渡ってオフィスで仕事をしてきて、そしてイノベーションが生まれる現場にいたこれらの経営者にとっては「社員が自宅にいて仕事をしているかしていないか分からないような状況」を生み出すことに抵抗があるんだと思う。

もちろん社員からすると「在宅勤務でもめちゃめちゃ仕事してきたよ!」と思う人もたくさんいるだろう。ぼくもその一人ではある。ただ経営者側からすると実感としてそれは伝わりにくいものだ。代わりに彼らが自分自身のキャリアで肌で感じていたことがこれらの意思決定に色濃く影響しているとぼくは推察する。

どうなる在宅勤務?

このフォーブズの記事は示唆に富むもので興味深い。平たくいうと「オフィス出社を強制するというその事実以上に、会社が働き方をマイクロマネージメントすることによって社員、特に若い世代が離れていく可能性がある」ということが主張されている。

これはとても説得力のある意見だと思う。イーロン・マスクさんなどは今の20代前半の社会人とかからすると"おじさん"の域に入るわけだ。そういう"おじさん"といわゆるZ世代 (1990年代半ばから2010年代序盤に生まれた世代)には認識の差があると思う。いわゆるZ世代は軍隊的な働き方よりも自由な働き方を志向するだろうし、最初からオプションとして存在していた在宅勤務がなくなることには当惑しかしないだろう。

きっとこれからはオフィス勤務を重視するクラシックな企業と自由な働き方を重視する若い企業で分断が進むのではないだろうか?そういえば世界的な投資家であるマーク・アンドリーセンが「最近上場した会社には本籍がないところもあって面白い」と発言していた。つまりZ世代が興した最近のスタートアップには本社というものを構えずに自宅 (もしくは好きなところ)で働くことが前提になっているところも出て来ているという話だ。これはいわゆるビッグ・テックやGAFAMといった大企業が定めている出社ポリシーとは鮮やかな対をなすわけなので非常に興味深い。

アメリカのテクノロジー企業に"世代の差"というのが生まれてきていて面白いですよね。皆さんはこれからどうなっていくと思いますか?



最高傑作『American Idiot』からキラー・チューンが連発!

今日はそんなところですね。ここまで読んでくださりありがとうございました。少しでも気に入っていただけたらスキしていただけると嬉しいです。

シアトルでGreen Day (グリーン・デイ) のライブを観ながら。"Wake Me Up When September Ends"ということで10月になったら新しい家探しまっす。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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福原たまねぎ
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