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【感想】直木賞候補 坂上泉「インビジブル」(後半のみネタバレあり)

【この本のみどころ!!】
・デジタル化や、ソーシャルディスタンが叫ばれてる令和の時代に、松本清張を思わせるミステリーが読めるだなんて!!
➡舞台は昭和30年代、キーワードは"満蒙開拓団!" ロックすぎます!

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【この本を読むのにおすすめな人】
・ミステリーが好きな人
・松本清張作品が好きな人
・近現代史(特に、第二次世界大戦や戦後の動乱に関心)がある人
・裏社会やノンフィクションに関する書籍が好きな人
・「丸山ゴンザレスさん」(TVやYouTubeで活動されている方です)の扱うテーマが好きな人

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【著者について】

坂上泉さん
1990年、兵庫県生まれ。東京大学文学部日本史学研究室で近代史を専攻。

2019年、「明治大阪へぼ侍 西南戦役遊撃壮兵実記」で第二十六回松本清張賞を受賞。
同作を改題したデビュー作『へぼ侍』で第九回日本歴史時代作家協会賞新人賞を受賞。

直木賞は初ノミネート!!

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【あらすじ】
昭和29年、大阪城付近で政治家秘書が
頭に麻袋を巻かれた刺殺体となって見つかる。

大阪市警視庁が騒然とするなか、
若手の新城は初めての殺人事件捜査に意気込むが、
上層部の思惑により国警から派遣された警察官僚の守屋と組むはめに。

帝大卒のエリートなのに聞き込みもできない守屋を、
中卒叩き上げの新城は厄介者を押し付けられたといら立ちを募らせる――。


はぐれ者バディVS猟奇殺人犯、戦後大阪の「闇」を圧倒的リアリティで描き切る傑作長篇。

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【作品のキーワード】
・戦後の大阪
・満蒙開拓団

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【ここからネタバレあり!!!!!】

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【良かった点】

・デジタル化、ソーシャルディスタンス、人と人の距離が気迫になりつつある、令和の時代に、この本を執筆されてとても驚きました。

・作中では、"満蒙開拓団"や戦後のシベリア抑留の話が出てくるのですが、前提知識がなくとも読み進められる点は良いと思った。

・また、歴史オタクの私かたらしても、戦前戦後史に関する記述は正しく描かれていると思った。

・2人のバディがとてもよかったです!
新城洋(しんじょうひろし・中卒の叩き上げの青年)と、
守屋恒成(もりやつねなり・東京帝大卒のクールなインテリで、将来の出世が約束されているエリート)
の二人の掛け合いがとても面白かった。

物語が進むにつれ、二人を応援したくなった。この二人を他の作品で見てみたいと思った。

・近現代史、特に戦中の"満州"を取り上げている点が非常に魅力的だと思う。
➡ここ数ヶ月前にも「シベリア抑留者名簿」の公表があったり、戦後の満蒙開拓団の引き上げ時に開拓団の女性をロシア人の性接待の相手をさせたという証言がなされたりと、近年関心が高まっているテーマであると思う。

この歴史の闇を抽出するあたり、著者の作家としてのセンスを感じた。

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【個人的に悩んだ点】
・タイトルが相応しくないのではないか。
➡本著は"昭和30年代"、"戦後の大阪"の様子が描かれている。
戦後の匂いが残る大阪を描いており、なおかつ"戦中の話"が出てくる。
どちらかと言うと、泥臭く、男臭く、ディープな話なので、漢字のタイトルでどしっと決めた方が良かったのではないか。

・作者も一般ウケは狙ってないだろうが、読む人を選ぶ作品だと思う。
➡作中では、その時代に沿った表現が多数見られる。例えば、浮浪者を"ルンペン"と呼ぶといったことだ。
それらの言葉が多数使われていることで、物語に強く引き込まれ、非常に効果的だと思うが、令和の時代誰でも彼でも受け入れられるものでは無いかと思った。

・大きなスケールで描かれているわりには、最後あまりまとまりがないような気がした。
➡この作品は、歴史の闇や政治資金などの非常に大きなテーマを取り扱っている。その割には、最後がおそまつな気がした。
・犯人の動機が抽象的にもかかわらず、計画的犯行が緻密になされていて、私は多くの疑問が残った。

・作品を読んで新鮮味を感じられず、どこか既知感がした。
➡まるで松本清張作品を読んでいるようであった。
清張作品でも、刑事が夜行電車に乗って調べに行くシーン(点と線)があり、「インビジブル」でも同様のシーンがあった。

・作品では、"満蒙開拓団"や、「シベリア抑留」の話が出てきているが、歴史好きの私からすれば物足りなかった。もう少し歴史の闇に踏み込んでも良方と思う。

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【あとがき】
いろいろ書いたが、私は著者の自作が読みたくなった。
作品で興味を引かれたのはもちろんだが、私は彼の彼のインタビューを拝見しとても驚いてしまったからである。

「インビジブル」を書いた作者をイメージすれば、大男、がさつ、男臭い人を想像していたのだが、著者の姿を拝見し非常に驚いた。

彼は今どきの色白でスマート(というより、ひょろっとしているように見えた)で、一瞬「インビジブル」の著者であると結びつかなかった。
また彼は、東京大学を卒業している。

人を見た目で判断する訳では無いが、あのような著者のどこから「インビジブル」のような世界観が出てくるのだろうと、私は驚いた。

彼の中に秘めているものが、もっとほかにあるかもしれないと思い、私は彼の今後の作品に注目したいと思った。。。

色々描きましたが、素晴らしいミステリーでした!

おわり。

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