見出し画像

ChatGPTを使った物語創作実験

はじめに

この記事がめちゃくちゃ面白く興味深かった。感情の模倣がChatGPTでできるなら、ある感情を喚起するような物語をChatGPTに書かせることができるのでは?と考えた。以下はその実験記録である。

実験の意図

今回の実験のポイントは「読者の感情を喚起できるかどうか」である。登場人物の感情の発露ならばおそらく容易であろう。しかし、登場人物の感情の発露を受けて、読者は必ずしもその感情と同一の感情を喚起されるわけではない。
例えば、悪人が懲らしめられて怒りの感情を表現するとき、読者はむしろ喜びや楽しさの感情を感じると思われる。このような状況をChatGPTはどのように表現するのか、調べてみたいと考えた。

実験の設定

以下のプロンプトで各種パラメータを設定する。

これから以下の条件で物語を作ってもらいます。
指定した舞台と登場人物を使ってください。
指定した感情パラメータは物語の展開に影響を与えるものとします。
数値の大きい感情は、読者のそれがより喚起される展開となることを意味しています。
想定する読者を指定しますので、文章のトーンや内容も対象読者に合わせて調整してください。

文字数:500文字程度
舞台:暗い森
登場人物:12歳の男の子と女の子、それぞれ一人ずつ
感情パラメータ:喜び 5, 怒り 0, 哀しみ 2, 楽しみ 3
想定読者:小学5~6年生

実験結果

結果1

最初の設定で出力を行った結果は以下である。

末尾になにやらくどくどと説明がなされている。「読者に対してこんな感情を与えられますよ」とわざわざ説明をしているようだ。しかし、実際に見てみると登場人物が指定された感情パラメータをもつような行動、展開になっているように見える。
そこで次に、感情パラメータのみを変更した場合にどうなるかを実験した。

結果2

感情パラメータのみを変更した以下の条件で物語を生成した。今回は怒りと悲しみのパラメータを大きくしている。1つめの条件とはパラメータが大きく異なるので、内容も大きく異なることが期待される。

文字数:500文字程度
舞台:暗い森
登場人物:12歳の男の子と女の子、それぞれ一人ずつ
感情パラメータ:喜び 0, 怒り 5, 哀しみ 5, 楽しみ 0
想定読者:小学5~6年生

こちらも変わらずくどくどした説明が加えられている。
怒りの感情を男の子が持つが、果たしてこの内容で読者は怒りを感じるだろうか?また、哀しみの感情はどこにいったのだろうか?
こうしてみると、どうもChatGPTは読者に対する感情喚起ではなく、登場人物の直接的な感情表現を、設定されたパラメータから反映しているようにみえる。
では、想定読者の年齢を上げてみたらどうだろうか?

実験3

最後に、実験2と同じ感情パラメータで想定読者の年齢を上げた。対象年齢が上がることで内容がより大人向けに変更されることが期待されるのと同時に、もしChatGPTが「読み手の感情を喚起する方法」を理解あるいは模倣できるのだとするならば、読み手の年齢に応じて表現を変化させられるはずである。

文字数:500文字程度
舞台:暗い森
登場人物:12歳の男の子と女の子、それぞれ一人ずつ
感情パラメータ:喜び 0, 怒り 5, 哀しみ 5, 楽しみ 0
想定読者:25歳の独身女性

確かに物語の内容はやや大人向けになり、直接的な表現が減った。しかし、感情パラメータは相変わらず登場人物の行動として表れており、読者の感情を喚起するものにはなっていない。

考察

対象年齢の影響

対象年齢の影響は確実にみられた。低年齢向けに生成された物語は直接的な表現であり、また道徳的な内容でもある。一方で対象年齢が上がると物語の内容はやや複雑かつ婉曲表現が用いられるようになった。
ChatGPTに対象読者を指定すると、それに合わせて説明文の表現が変わる、というのはよく言われており、それが物語文でも同様に発揮されている。

感情パラメータの影響

3つの事例から見たように、指定した感情パラメータは読者の感情喚起よりも登場人物が発露する感情に影響を与えているように見える。物語本文中に怒りや哀しみ、といった直接的な単語が使われていることからもそれが理解される。
今回の実験意図からすると想定した結果は得られなかったが、プロンプトを工夫することによってパラメータをより効果的に反映する方法があるのではないか、とも考えられる。

プロンプトの影響

指定した感情パラメータは物語の展開に影響を与えるものとします。
数値の大きい感情は、読者のそれがより喚起される展開となることを意味しています。

今回は上記のようなプロンプトを使用している。感情パラメータが物語の宴会に影響する、と指定しているため、それが登場人物の感情の発露として使用すると受け取られた可能性がある。
また、プロンプトで直接的な感情表現をしないように指定することで、本文における表現が変わってくる可能性も考えられる。

感情分類の影響

今回は喜怒哀楽の4つを利用したが、この設定の適切性については疑問が残る。人間の感情は、特に年齢を重ねるごとにより微細かつ複雑になっていく。物語展開上の雰囲気や感じといった「機微」については、より詳細な感情分類を行う必要があろう。
例えば結果3においては「不思議な感じ」「不安定な感情」「共感」「癒す」といった語が出てくる。これらは喜怒哀楽の4分類では十分に満たせない要件である。これらを微細にコントロールできるようになれば、ChatGPTが生成する物語はより豊かになるものと考えられる。

まとめ

以上、ChatGPTを用いた物語創作実験を行った。
読者の感情喚起は十分には達成できなかったが、物語展開上の感情の発露を一定程度コントロール可能であることがわかった。今回は喜怒哀楽の単純な4分類によるパラメータ設定であったが、より微細なコントロールが可能であれば、より豊かな物語表現をChatGPTにより生成できることが期待される。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?