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サナギ。

私の自転車を寝床に選んだ芋虫。
彼(もしくは彼女)を見つけたのは2週間前。
3日後には立派なサナギになっていた。

その後、
無理に引き離すのは忍びないと思い、
しばらくそのままにして、様子をみていた。

通勤用でもある自転車の為、乗るときには
名刺サイズの小さなジップロックでサナギを覆い、
風のリスクを最小限に抑えて
一緒に通勤した。

雨の日も、台風の日も、
彼(もしくは彼女)はその殻の中でじっと耐え、
次の世界へ羽ばたく準備をしていたんだろう。

そして、2週間後の今日。
陶芸へ出かける準備をしているときに
ふと窓の向こう側、遠くの空で
ひらひらと動く小さな生き物をみつけた。

「いやぁ、あそこは遠すぎる。」
そわそわした気持ちで駐輪場へ降りていくと、
彼(もしくは彼女)はまだそこにいた。

しかし、よくよく覗き込むと、
昨日まで普通だった後頭部が割れている。
まもなく出てくるものと思い、少し様子をみたが、
実はもう既に、彼(もしくは彼女)はいなかった。

今朝降っていた雨の水を殻の中に残し
サナギは私にその姿を見せることなく
新しい次の世界へと旅立っていった。

自転車をこいで、工房へむかう。
まだ脱け殻は付いている。

近所のコンビニの前を通ると、
サンクスが今日、ファミリーマートに変わっていた。

ふと自転車の、いつものサナギに目をやると、
からっぽなんだけど、そのカタチは昨日までと同じ。
それを見てなんだか、置いていかれたような気がした。

新しい次の世界があるのかどうか、私にはわからないけれど、
変身していく芋虫やサナギやコンビニをみて
自分たちもそういう無常の世界に生きているんだなと思った。
私たちは変わりゆく一瞬の時間の中で
生きて、そして死んでいくんだと。

さっき見かけた窓の向こうの小さな生き物は
残念ながらおそらく、私が望む存在ではなかったと思う。
なぜならそれは、あまりにも遠い、
遠い、空の向こうの蝶だったからだ。

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