マガジンのカバー画像

新型コロナ千夜一夜

4
コロナウイルスの感染対策で、ついに緊急事態宣言が出ました。コロナにどう対応して、どんな世の中を築いていけばいいのか、妄想をふくらませながら、ときどきショートショートを書いてみます…
運営しているクリエイター

2020年4月の記事一覧

会いたいね [ショートショート]

会いたいね [ショートショート]

 ぼくは間に合わなかった。

 ルリとパートナーになる前に、《繭》の季節が始まってしまったのだ。
 一緒に《繭》に入っていいのは、家族やパートナーだけ。そうでなければ、ウイルス感染を広めてしまう恐れがあるから。

 一年前にぼくらは出会った。
 カフェのテラス席で、ルリは友達とお茶を飲んでいた。彼女の友達は、ぼくの友達でもあったのだ。
 ぼくが子どものころ、covid-19という感染症が猛威をふる

もっとみる
シリアルキラーに最悪の星[ショートショート]

シリアルキラーに最悪の星[ショートショート]

「やあ、ハニー」
 笑顔で店に入ってきた彼女を見て、私はにこやかに声をかけた。キスしようとして、彼女がまだ、ヘルメットのバイザーを下げていることに気がついた。
 私のほうは、とっくにバイザーを上げて、彼女に口づけしようと待ち構えていたのに。
「こんにちは」
 彼女は何も気がつかない風情で、指先をバイザーの唇近くに当て、キスのサインを送ってきた。まっすぐカウンターに行き、ドリンクを注文した。密閉でき

もっとみる
繭の季節が始まる [ショートショート]

繭の季節が始まる [ショートショート]

 出勤途中に、路上でひどく咳き込む人を見かけた。
 それが、わたしの知る限り、最初の《繭の季節》の兆候だった。
 考えてみれば、前回の《繭》がいつだったか、すぐには思い出せないくらい時があいている。いつ次が始まってもおかしくはない。
「缶メシ、いま何日ぶんあったかな」
 わたしはマルにメッセージを送り、仕事場に入った。
 わたしが勤務しているのは、お菓子メーカーの工場だ。ビスケットなどの焼き菓子を

もっとみる