買ってきた冷凍の肉うどんを早く冷凍庫に入れたいんだから。
家の近くにあるマックスバリュで冷凍の肉うどんを手に取った。
今日の晩御飯はこれにしよう、
普段よく食べている冷凍ちゃんぽんをスルーしてしまったのは、単純に気分じゃなかったからだ。
けれど、人間とは不思議な生き物である。
ちゃんぽんのことを考えながらこの文章を打つわたしは、どんどんちゃんぽんが食べたくなってきていた。
はあ、
ついため息が出てしまう。
帰宅して、わたしは買ってきた冷凍うどんをIHヒーターの上に置いた。
夜な夜な枕を叩きながら泣いたことを君は知らないんだろう。
一歩間違えば、指の隙間からすり抜けていきそうなか弱い手が、
私たちによってそこにとどまっていることも、きっと君は知らない。
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クラスで、やんちゃなことをする子がいた。
好きな格好をして、
ふざけて、馬鹿騒ぎして、
毎日のように笑いまくって、
他クラスからは見放されて、
学校にはよくクレームも入っていた。
そんな状況を見て担任の先生は何を思っていたのだろう。わからなかった。
「自由でいいね〜!」と言うだけで。
僕達は一生懸命ふざけた。
先生方に怒られようと、他クラスの生徒から馬鹿にされようと、ひたすらふざけていた。
僕達は
ふざけたかったから
ふざけたわけじゃなかったんだ。
楽しいからふざけていたわけじゃない。
大切なものを守りたかったから、ふざけていたんだよ。
各地から寄せ集められた同じくらいの学力の子たちは、みんなそれぞれ生活環境が違っていた。
生活環境だけでなく、
性格も全く違っていた。
心をなかなか開けない子や
グループに打ち解けられない子もいれば、
誰とでもすぐに仲良くなる子もいた。
お互いのことをまだ信じていない信じられていない中で、僕達はみんな心の中に壁を作って過ごしていた。
それはとても不穏で、
僕は息が詰まりそうだった。
次は誰が学校に来られなくなるか、
それは自分だろうか、隣の席の子だろうか、
次は誰がいじめられるだろうか、
次は誰が耐えられなくなるのだろうか、この空気に。
次は一体誰が、、、
僕達は常に緊張していた。
あの頃はみんな真面目で、
お互いに話すこともないから、うるさいと学校にクレームが入ることもなかったし、先生方や他クラスから見放されることもなかった。
でもこの状態はまずいとみんなが思っていた。
はじまりは、誰だっただろう。
勇気ある者が、行動を起こしたんだ。
ふざけて怒られる、
そんなでっかい化学反応をクラスに起こしてくれた子がいた。
『おい何してくれてんだよ〜』
「へへ。すまねえ」
そんな会話をした。
ふざけてくれた子にありがとうという気持ちを込めながら。
僕達は、ほっとしていた。
ほっとした空気は伝染して、
いつのまにか僕達の対話はクラス全体に広がった。
それはまるで、戦争の終わりのような希望だったよ。
それからはみんながふざけるようになった。
ふざけることで生まれる対話を皆が楽しんだ。
僕達はふざけようと約束するわけでもなく、また悩みを打ち明け合ったりすることもない。
けれどふざけるということが、
クラスの空気を変えるために必要なことだと理解して、その波を大きくするためみんな必死に動いていた。
暗黙の了解だったのかもしれない。
クラスを守るために、ひたすら行動した。
叱られるのはそりゃあ嫌だったけど、頑張って行動していたんだ。
たった1人を除いて、、、。
学級代表が言った。
「ふざけるな、静かにしろ!」
「今までの真面目さはどこにいったんだ!」
「他クラスからも、地域の人たちからも苦情が来ているんだぞ!」
「なぜわかってくれないんだ!」
「クラスが崩壊してもいいのか!」
クラスの崩壊を防ぐため、そう言って学級代表は、権力を使い、2つのルールを設けた。
【私語禁止】
【自由行動禁止】
それを見て僕達の担任の先生は、
「真面目でいいねえ〜!」と言った。
その日、僕達の努力は一瞬で崩れ去ってしまった。
誰も、学校に行くことができなくなった。
ついにクラスが、崩壊してしまったんだ。
クラスを守るために必死に闘っていた僕達の足掻きが君には見えていなかった。
せめて見ようとしてほしかったな。
どんな思いで僕らが毎日学校に通い、
叱られる覚悟でふざけていたのかを、
泣きながら電話で励ましあっていた夜のことも、
きっと君は知らない。
約束したわけじゃないけど、
お互いに歩み寄ったからこそ生まれた僕達のおふざけは、
何よりも綺麗でかっちょいいものだったよ。
か弱い手が、僕の指からすり抜けた。
もう2度と捕まえることのできないその手に、
ごめんねと僕は謝る。
クラスを守れなくてごめんね、
君を守れなくてごめんね、と。
今日も
学級代表は優等生コースを歩んでいるんだろう。
まじめに学校に通っている学級代表は、きっと内申点だけで推薦が貰えるのかな。
いま僕達のクラスにクレームは入っていないだろうし、先生方から怒られることもないのだろうよ。
真面目な生徒が集まった学校は
世間からの評価が高くなった。
クラスを守れなかった僕は
もう学校に行くことはない。
仲間がいない学校なんて行っても意味ないのかだから。
ああ、一体何人の仲間が去ったのだろう。
権力によって、何人の仲間が去ったのだろう。
みんな今日も泣いているだろう。
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わたしはようやく冷凍うどんを冷凍庫に入れた。
すっかり溶けてしまった冷凍うどん。
消えてしまった形を、
少しでも取り戻したくて。
一度壊れてしまった形はもう元には戻らない。
だからこそ、今に想いを馳せるんだ。
こんな未来にさせるものか、と。
君の手を離してしまわぬようにと決意する。
生きよう、
周りの目なんて気にせずに、
全力でふざけて、
共に、生き抜いてやろうよ。
丸なのか、四角なのか、台形なのか、
なんとも言えない歪な形で固まった冷凍うどんをレンジで温める。
5分経って取り出すと、
そこには湯気がもくもくとしているいつもの姿があった。
変わらぬ味の、
トップバリューの肉うどんがあった。
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