わざと終電を逃した後のくだらなくて愛しい時間

皆さんは福岡に行ったことはあるだろうか?
行ったことがないなら、是非おすすめしたい。
食べ物は大体なんでも安くて美味しい。お肉を食べるもよし、魚を食べるもよし。観光スポットも点在しているがそれなりにある。最近は糸島などが人気だろうか。

かくいう私は旅行で行ったというより、福岡に住んでいたことがある。23歳から28歳の間の5年半、福岡市内の中洲という場所から歩いて15分程度のところに家があった。福岡に行ったことがない人でも、中洲という名前は知ってる人も居るかもしれない。

大学を卒業し、東京に本社がある会社に入社した。同期の数は数百人。ほとんどは東京、千葉、神奈川に配属されるのだが47都道府県に営業所があり、数百人いる新入社員の10%程は東京以外に配属されるような感じだった。
そう、私はその10%に選ばれ晴れて地方配属。福岡へと行くことになった。 

配属発表日当日。戦々恐々とする同期たち。実際に地方配属を泣いて悲しむような同期も居た。地方に行くことを泣いて嫌がった同期の中には、こういった理由を話す人もいた。「友達も居ないのに、どうすれば良いんだ。」

実は私、こういう悩みに共感ができない。理由は、新しいコミュニティで新しい関係が築けるもんだ、と過去の経験で身に染みて理解しているからだ。

実際、福岡に行って新しい関係が色々築けた。特に会社の先輩や同期、後輩は福岡に知り合いが居ない独身者が多かったこともあって、たくさんの時間を一緒に過ごした。
しかも私と同じように、天神や中洲といった飲み屋が多い場所からタクシーで2000円以内で帰れるくらいの場所にほとんどのメンバーが住んでいて、終電を(わざと)逃して時間を気にせず飲むみたいなことは日常茶飯事だった。

見る人が見れば時間の無駄だ、とか、遅くまで飲み明かすなんて馬鹿馬鹿しい、とか一蹴されてしまうかもしれない。確かに大した話をしてない時の方が多かったくらいだし、くだらないと言えばくだらなかった。でも、私にとってはかけがえのない関係と時間だった。

さっき新しいコミュニティでは新しい関係を、なんて書いたが、人付き合いは本当は苦手だ。友人と呼べるような人はそこまで多くないし、そもそも友人を作るのは時間がかかる。
感じは良い方だと思うし、誰とでもそれなりの会話をし、それなりの関係にはなれるのだが、いわゆる表面的な関係止まりになることが多かった。深い関係になれなかったのだ。

私が今思う深い関係というのは、「相手に人としてのリスペクトを持った上で、自分の感情や性格の核に近い部分を曝け出して接し、お互いにそれを受け入れ合う」ということなのだが、私は肝心の自分の核を他人に曝け出すのが怖くて苦手だ。そして、それが結果的に相手に踏み込ませないバリアになってしまっていた。学生の頃なんかは特にそうだったと思う。

でも社会人になり、色んな経験や年齢を重ねる中で、私も自分を出すということが少しずつ、でも大胆にできるようになった。(今も苦手ではあるけれど。)
そしてさらに運が良かったのは、人としてリスペクトできて、自分を飾らず開放していて、そして人を受容するような同僚に福岡で出会えたことだった。
どちらも欠けることがなく人と繋がれた私は、今までと一味違う人間関係を築くことができたのだった。

先ほども書いたように、彼らとは終電を逃してよく飲んだ。そんな私たちが最後に行き着くのは、決まってカラオケだった。濃いハイボールで酔っ払って、声が枯れるくらい歌って、皆音程も合ってないけど大合唱したりもした。
この時間がなくたって別に死なないし、何事もなく時間は流れていくと思う。
けど、それがやっぱり私にとっては愛おしい時間なのだ。死ぬ時に思い出す瞬間の一つかもと思ったりする。
金曜日なんかはそのまま朝を迎えて、ようやく眠りに着いたのか朝を迎えたのかの狭間に居るみたいな街を、エネルギーを出し切ったボロボロの体で歩く。
体は気だるいのに、楽しさで満たされてるような不思議な感覚だった。

先週の土曜日、久々にプライベートで福岡に行き、やっぱり彼らと日が落ち切る前から飲み、終電を逃してカラオケに行き着いた。一年半ぶりくらいの時間。
相変わらずすごく楽しくて、その時間を満喫した。過去彼らと明かした夜を思い出したりもした。
皆変わっていないようで、少しずつ変わっていて。私も前以上に自分を出せるようになっていて、ちょっと驚き嬉しかった。
そして、やっぱりこの時間は私にとってくだらなくて、愛おしくて、かけがえのない特別な時間だ、って改めて思った。

楽しかったねまた飲もうね、って、声をかけて解散する。
次会う時は、また皆少しずつ変わってるんだろな。変わらないことは無理で、このまま同じはずっと続かないと思う。
でもきっと、確証はないけど、皆ちょっとずつ変わっても、またこんな特別な時間を過ごせるんだろうな、って思ってる。

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