見出し画像

自分の代わりに弟が新婚旅行に行った話

やんわりと話していた夫の地元への引っ越しの予定と、やんわりと話していた「新婚旅行に行くなら香川でうどんを食べよう」という予定が、なぜか一気にふりかかってきた2年前の3月。

私はそもそも夫の地元への引越しには積極的で、「引っ越しちゃおうぜ」と渋る夫を後押しするほどだった。

2月はじめに夫から「もしかしたら4月に引っ越しするかも」という相談をされ「職場にも伝える必要があるから早めに教えてね」と私は言っていた。

夫が引っ越しへの意思を固めたのかどうかよくわからず、確認しても「まだ職場には言わなくていい」と言われたまま、ついには2月20日になり、そこで初めて引っ越し決定を告げられた。

当時の私は介護施設で働いていて、3月の希望休提出の締め切りはもう過ぎていた。

介護職経験者ならだれでもわかると思うが、介護施設はどこも人員不足で、例に漏れず私のところもそうだった。

転勤とは違い、引っ越し先での新しい就職先だって探さないといけない。
引っ越しの準備と転職活動に並行して通常通りのシフトで出勤するのは苦しい、だけど職場にはこれ以上迷惑をかけたくない。

そんな私とは対照的に、夫は2月末での退職が決定しており、3月は自由に行動できる身だった。

(詳しくは省略するが、当時の私の夫への感情は"ブチ殺すぞ"に近かったと思う)



夫は「1日でも休みがあれば日帰りで香川に行ける」という考えで、もちろんそうなのだが、当時の私にはそんな精神的・身体的余裕がなく「この3月ではない!」としか思えなかった。

しかし、夫にとって旅行に行く絶好のタイミングなのもよくわかっていた。せっかくなら一泊と言わずゆっくり楽しんでもらいたい。

「絶対に今は行きたくない」という気持ちと「夫に旅行を楽しんでもらうなら今しかない」という気持ちがちょうど均等なバランスで綱引きをしている。お互いが強い力で引っ張りあっていて、綱は微動だにしない。

そこで思い浮かんだアイデアが

「そうだ私の弟に行ってもらおう!」

私と夫が"親子でもおかしくない年齢差"なら、弟と夫は"親子ほどの年齢差"がある。
年齢差はあるものの、サッカーという共通の話題があるようで、数回会ったなかで、弟が夫に気を許しているのはなんとなくわかっていた。

このあたりから記憶は曖昧だが、とにかく弟が合意してくれて、夫と弟の2人での新婚旅行が決まった。

(もはや新婚旅行ではなくない?と思われてしまうかもしれないが、義父から「新婚旅行に」といただいた旅行券か何かを旅費にあてたはずなので、やっぱり新婚旅行という認識は捨てられない。)

3月7日、夫と弟による大阪から四国・九州への2泊3日の長距離車移動・フェリー旅が決行された。

出発の時、夫はお気に入りの水色のブランケットを持って弟の車に乗り込んだ。


夫と私の性格の違いについてや、交わした会話など、ここには書いていないことがたくさんある。

読む人によっては「そもそも引っ越しの段階でもっと計画的に」とか「大事な新婚旅行なんだからきちんと話し合って2人で行くべきなんじゃないか」と思うかもしれない。もちろんそれは正しい。

しかし、広く共有された社会の共通認識にとらわれて、相手を恨んだり自分を責めたりするより、その時、自分たちがよりご機嫌でいられる方法をサッと手に取ってしまえるほうが、人生は楽しいに決まっている。


「自分は行きたくない」という気持ちと「夫には行ってほしい」という気持ちを伝えられたこと。
夫がきちんとその気持ちを汲んでくれて、"新婚旅行を弟に代行させる"という私の暴挙を許してくれたこと。
弟は弟で、関係の浅い夫との旅行に不安を示さずに、楽しんだ様子を私に見せてくれたこと。

今でも私の大切な思い出の一つだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?