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FGOとグラブルから考える文体の話

最近、ままならない現実にカッとなって巷で話題のグランブルーファンタジー(FGOとよく比較されるおそらく日本最大規模のソシャゲ)を始めた。

ひとまずメインストーリーをサクサクと進めてみたのだけども、文体が奈須きのこ氏(とそれを模倣したFGOシナリオライター陣)のそれと真逆で呆然とした。

グラブルの文体はとてもわかりやすい。基本的に主語がはっきりとした能動態で表現されている。
シリアスな空気を和ませる為に挿入されるコントも適切な量で、脱線してもスムーズに本題に戻ることができる……などなど。

以前の投稿で野口晴哉の体癖論について触れたけれど、彼の思想体系を教授してくださった先輩は「体癖は身体だけでなく、その人がアウトプットした文章にも表れる」と仰っていた。


体癖 -Wikipediaより引用
体癖(たいへき)とは、野口整体の創始者である野口晴哉がまとめ上げた、人間の感受性の癖を表す概念。
身体の重心の偏り・腰椎のゆがみと個人の生理的・心理的感受性(体質、体型、性格、行動規範、価値観など)が相互に作用していることを野口は診療から見出し、その傾向を12種類(10+2種類)に分類した。


思いがけず、私はこの新たなソシャゲとの出会いによって、その実例に触れることができた。

先輩が仰るには、「奈須きのこ氏の文体は偶数体癖の特徴が見られる。とても受動的で、対話的。第三者からのアプローチが無いとスムーズに話が進まない」とのことだった。

グラブルのテキストに触れた今になって、なるほどコレか!と膝を打っている。

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これは先の投稿で触れたヒトの情報に対する特性にも関わってくる話なのだけども、当然ながら読者のタイプによってどんなテキストに感情移入しやすいかという点は違ってくる。

私はといえば、グラブルのテキストには、FGOほどの没入感は得られませんでした!

決してストーリーがつまらない訳ではない。けれどもグラブルのテキストは、ゲームの要素として読まれることが前提となってまとめられているのを強く感じる。

奈須きのこ氏の文体とそれを模倣するシナリオライター陣の描く、登場人物たちの生々しい懊悩やどうしようもない衝動、ひとことで言ってしまえばカオスが全くない。
これはロゴスが支配する物語で、それこそ読者が没入する為の余地が剪定されているのだ。

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もちろん、これはFGOの文章の方がグラブルのそれよりも優れている!という話ではない。

先ほど述べたように読者の特性によって没入しやすいテキストは違う。どちらが巧みかというのは判断がつけられないし、そもそも比較するものでもない。

(現に奈須きのこ氏の文体は癖が強く好みが分かれるという認識は、型月wikiなどを参照するにFateシリーズファンの間でも広く共有されている)

グラブルのキャラクターが抱える懊悩や煩悶の背景は、テキストの読者にもスムーズに把握できるように構成されている。
その背景に共感できなくても、論理として筋が通っているので、理解はできるのだ。

これは紛れもなく美点ではある。けれども言い換えれば、読者の嗜好や、性癖、あるいは地雷案件を引っ掛けるフックの無い、つるりとした文体であるとも言える。

対してFGOには、読者からすれば全く行動理念が理解できないキャラクター、これは必要あるのかな?という本筋を脱線したエピソードがそれはもう沢山登場する。

読者は彼らの思想や、過度なコントに反発したり共感したり、ひどく心をかき乱されることになる。
テキストによって何らかの感情、ときにはひどいストレスを誘発される。フックしかない文体とでも表現すれば良いだろうか。

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話をまとめよう。グラブルもFGO、両者ともに、物語の紡ぎ手=シナリオライターが異なる体癖(行動理念、価値観)にもとづいて行動するキャラクターを同時に描けるタイプではない、という点では共通している(と思う)。

が!その表現がものの見事に対極なのだ。

読みやすい文体はどちらか? と問われれば、それはグラブルだ!と即答できる。
グラブルのテキストがもつ滑らかさは、始めからソーシャルゲームのベースとなるテキストとして設定されている点に起因するのではと推測する。

しかし、心に爪痕を残すテキストがどちらか? と問われれたなら、私はFGOを選ぶ。

奈須きのこ氏は一次創作小説の同人誌作家だ。その文体は、月姫やFateシリーズというノベルゲーム化を経てもなお、物語の書き手としての範疇から出ていない。

おそらくソーシャルゲームに適した文体に手直しするという器用な芸当はできない不器用なライターだと思う。
けれども、だからこそこの混沌とした文体によって紡がれる物語は非常に魅力的なのだ。


わかりやすい文体=没入しやすい文体ではなく、没入しやすい文体≒魅力的な物語である。

この辺り、情報のアウトプットについて論じる折には更に掘り下げて行こうと思う。
(そのうち、たぶん!)

#文体 #シナリオライター #ソシャゲ #情報リテラシー #体癖

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