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違和感のあるおじさん(arata)

春になると、ダチョウ倶楽部のリーダーのせいでひどい目にあったことを思い出す。

当時僕は新しい町に引っ越したばかりだった。新しい町に引っ越すということは、新しい行きつけを作るということだ。スーパーマーケット、コンビニ、クリーニング屋、本屋、パン屋、ジャズバーなど、日常的に使う店を決めていくことになる。

問題は、散髪だった。

新しい美容師さんにあーしてくれこーしてくれ言うの、めちゃくちゃ嫌じゃないですか?嫌ですよね。わかります。そうなるとどうなるかというと、わざわざ前に住んでいた町に髪を切りに行くことになる。前に住んでいた町までは自転車で30分ほどの距離で、めんどくさいと言えばめんどくさいけど、散歩がてらちょうどいい距離と言えなくもない。天気もいいし、行くか。となる。

“自転車にのって 自転車にのって ちょいとそこまで 歩きたいから”

なんでSpotifyに高田渡入ってないんですかね。しょうがないから息子バージョンをお送りします。別に聴かなくても大丈夫です。

その美容室ではいつも同じKさんという人に切ってもらっていた。Kさんは特にカットが上手なわけでもなく、終わると細かい髪がシャツにいっぱい付いている。チクチクする。それも毎回。あと無言で切ってくれるから楽とかでもなくて普通に話しかけてくるし。だからわざわざ30分も自転車こいで来るほどのことでもないのはわかっています。それ以上に新しい美容師さんにあーしてくれこーしてくれ言うのが嫌なのだからしょうがない。チクチクもやむなし。ひとつを選んだらひとつ捨てなければならない。僕はそれを麻雀から学びました。
そして帰りも自転車に乗って帰ります。なぜなら自転車に乗って来たから。

“チャリンコ最高。自分でこがねーと イケねーから”

インターネットで見つけた好きな詩です。引用するときは出典元を示さなくてはならないと聞いていますが、残念ながら著作権者の方がわかりませんでした。ご存知の方いらっしゃいましたらご一報いただければと思います。
それはそうと、僕はだいたい半年にいっぺんくらいしか髪を切らないので、ジョン太夫セガールぐらいの長髪からイジリー岡田くらいまで一気に短くなります。ジョンダ流なかなか髪切らない開運法です。切りに行くまではほんとめんどくさいし、切ってるときはKさんが話しかけてくるのでめんどくさいですが、切り終わってしまえば清々しい気持ちでいっぱいです。こんなに気持ちいいのなら次回はもっと早く切ろう。2ヶ月後くらいに来よう。Kさんびっくりするかなフフフ……なんて毎回思いますが、気づくとジョン太夫になっちゃうんだよな〜とかひとりごちつつ軽快に自転車を飛ばしていると、道の向こう側、とあるマンションのベランダに、違和感のあるおじさんの姿が見えました。違和感のあるおじさんだなーと思って少しスピードを落としてみると、それがダチョウ倶楽部のリーダーでした。僕は思いました「ダチョウ倶楽部のリーダー、ここに住んでるのか〜」ってね。そういうことを考えていると自然と自転車の速度はゆっくりになります。そしたら脳天に鳥の糞が落ちてきました。

マジ最悪。鳥の糞くらったことあります?すごい臭いんすよ。しかも髪切ったばっかりなのに。そんで腹立たしいのは自転車のスピードを落とさなければこの鳥の糞は僕のはるか後方に落下したはずだったということ。つまりもしあのときダチョウ倶楽部のリーダーがベランダにいなかったら鳥の糞はスルーできてたはずっていうことなんですよ。ダチョウ倶楽部のリーダーのせいでこんな目に合うとは思いませんでした。でもね、逆に考えてみてください。もしあのときダチョウ倶楽部のリーダーがベランダにいなかったらどうだったでしょう。僕は一生ダチョウ倶楽部のリーダーが住んでいる家を知ることはなかったでしょう。そう、ひとつを選んだらひとつを捨てなければならないのです。だったら絶対後者のほうがよかったなっていう、そんな春の思い出でした。

家に帰ってすぐシャワーを浴びた。切った毛もチクチクしてたしちょうどよかった。


プロフィール
厨房を通り抜けて逃げるシーン愛好家であるとともに、誕生日を祝うシーン愛好家でもあるという。あと映像ディレクターでもあるという。
https://twitter.com/arataito

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