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発信者情報開示で手強い・頼もしいプロバイダとそうでないプロバイダ

最近増えている、そして気をつけないと行けない点ですので、解説します。

はじめに

発信者情報開示請求は、プロバイダに対して行うものです。

発信者情報の開示の要件は、基本的に権利侵害の明白性です。また、通常、裁判外でプロバイダは開示に応じません

なので、請求者は原告(民事保全なら債権者)として、プロバイダを被告(債務者)として、発信者情報開示請求をする、ということになります。

裁判所は、双方の主張立証、反論を踏まえて、権利侵害の明白性があれば開示を命じますし、そうでないならこれを棄却(民事保全なら却下)します。

プロバイダの役割

プロバイダとしては、開示を命じられても直接の不利益はありません。賠償請求を受けるのは、発信者であって自分ではないからです。

もっとも、プロバイダは、顧客の個人情報(やそれにつながるヒント)を握っているわけですから、それをちゃんと守らないと行けません。適切な対応をとらない、ちゃんと争って顧客の情報を守らない場合、プロバイダは、民事、行政上の責任を問われることになります(これは概ね所轄庁も同見解です。)。

具体的には、プロバイダは請求者の主張を争いますし、発信者情報開示請求に係る意見照会を契約者に送って、それで、その返答を元に、コピーを出すなどして、対抗する必要があります。

プロバイダ対応が区々であること

プロバイダは、発信者の権利利益の擁護者として、適切な対応が求められています。ですが、どの程度争うかは、プロバイダや受任弁護士にも裁量がありますので、それぞれです。

要するに、請求者にとって手強く、逆に発信者にとって頼りがいがあるところもあれば、請求者にとって「当たり」であり、発信者にとって頼りないところもある、ということです。なお、余り争わない、ということについて、批判もあり得ます。一方で、本来、賠償の裁判で争うべきではないか、という考えもあり得るので、一概にそれが絶対駄目とはいえないのではないか、と思います(発信者情報開示請求の要件を緩和すべきとの意見も根強くあります。)。また、もちろん、プロバイダ・弁護士には裁量があります。

なお、発信者情報開示請求に係る意見照会があり、それへの返事を出した場合、基本的には、そのコピーは裁判所に提出されます。期限徒過でも出すとところが多いです。回答書を出したのに使ってもらえないケースは、私の経験上も稀です。
これは、私のプロバイダ弁護の経験からもいえるのですが、プロバイダとしては、出さない理由がないからです。発信者の自己責任で主張をしてもらえるということですから、メリットしかないのです。ですから、期限徒過でプロバイダに届いても、私の場合は、積極的に出すことにしています。他のプロバイダの弁護士もそうでしょう。

プロバイダ対応の実例

以下、いくつかの事例を挙げていきます。なお、実際に私が体験した真実に基づきますが、都合により、サブブランドをひとまとめで評価したり、やや事案を抽象化・再構成をしています。

大手のAプロバイダは、無理な反論はしませんが、争えそうなところは争ってきます。また、基本的に、反論は手を抜かないで丁寧にやる、そして、ボーダーラインにありそうなケースでは、かなり力を入れて反論してきます。
微妙な事案であると、手強い印象です。

発信者側にもかなり親切で、発信者情報開示請求に係る意見照会の場面においては、詳しく案内を出したり、あるいは、期限延長にも非常に柔軟対応をしてくれます。

Bプロバイダは、かなり有名なところですし、そこへの請求を受けることも多いのですが、開示請求に対して、大した反論をしません。書面もほとんど出さないことが多く、弁護士が手ぶら(?)で来ることもしばしばです。また、意見照会については、これをしないことも多いです。

ざっと見た感じ、本来、開示にならない案件でも開示になっているのではないか、ということはしばしばあります。実際問題、私が発信者側で、開示後を担当した場合、結論がひっくり返る割合が一番高いと感じているところです。

Cプロバイダは、非常に争ってくるところです。少しでも可能性がある論点は徹底的に争い、それ以外の論点もダメ元で争い、さらに、独自に事情を収集して争います
また、開示の裁判が出ても控訴・抗告で争うこともしばしばです。
ただ、意見照会については、期限は短いですし、裁判外請求(任意請求)から裁判をする場合、意見照会を再度してくれない傾向があります。

もっとも、争いすぎが問題なのでは?というような事案は、過去にあったようです。

なので、請求者としては、最初は裁判外請求から始めると有利といえます。非開示に○だけつけて返すって事をしてくれれば、裁判にした後に有利に進められるからです。特に、請求者が公に活動している、その活動、言動への批判的要素を含む投稿が問題になっている場合は、とても大事なポイントです。

Dプロバイダは、以前は、裁判外でも氏名住所を開示していたようですが、最近はそうでもなく、裁判でもちゃんと争ってくるところです。

もっとも、意見照会は非常に不親切で、期限は延長に応じないことも多く、しかも、短いものです。また、案内も、不正確なことがあり、場合によっては、契約者が誤解をしてしまうリスクもあるのではないか、ということがあります。

そこそこ有名なところなので、請求する場合は、初動に迷うところです。一方で、発信者側ですと時間に余裕がありません。どちらにとっても、手強いプロバイダです。

Eプロバイダは、最近、特に地方の案件で増えているところです。

ここも、以前は、Dプロバイダと同じく、裁判外でも開示に応じていましたが、最近はそうでもなく、ちゃんと争ってくれます。また、発信者にも、Aプロバイダほどではありませんが、親切な案内をしています

もっとも、争い方として、基本的には、独自に調査するとか、そこまではしてくれません。ただ、そこまで要求するのは過大といえるでしょう。

Fプロバイダは、最近、事件が増えているところです。

発信者には丁寧に対応するほか、裁判でも徹底的に争います。ケースによっては、独自調査をしたりして、その結果を証拠提出するなどもしてきます。

他のプロバイダでは開示の可能性のある案件でも、非開示になることがあります。
もっとも、意見照会の期限が厳しいことも多いので、その点は大変なところです。

まとめ

以上、いろいろと語ってきましたが、結局、プロバイダどころか、時期によっても区々である、ということがいえます。

大手、有名どころであれば、ある程度パターンは読めますし、そのようなケースが大部分です。もっとも、情報がないところもあり得ます

こういう場合ですが、プロバイダが送ってきた書類に、色々とヒントが隠れています。これは、この手の事件に限りませんが、弁護士に相談する場合は、届いたものは、「全て」持参・送信しましょう。あなたがいらないとおもったものに限って、大事なものだったりします。

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