ネット投稿者の責任についてのまとめQ&A(+ネット上の誤解)
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新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
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ネット投稿者の責任についてのまとめQ&A(+ネット上の誤解)

*初版:令和2年3月28日。最終更新日:令和3年3月22日
ご自身の件について必ず弁護士に相談してください。
私への相談はコメント欄ではなくて「問い合わせ」か,i@atlaw.jp,まで,氏名住所電話番号を明記の上,メールでお願いします。
また,発信者情報開示に係る意見照会書と非開示の事例については,「【発信者側】発信者情報開示請求に対して非開示にできた事例」をご覧ください。

はじめに

※法律相談は守秘義務等の問題がありますので,コメント欄ではなくて上記の連絡先までメールでお願いします。無料電話法律相談を実施しています(全案件への対応をお約束するものではありません。)。

インターネットの表現に関するトラブルは,年々増加傾向にあります。
私も,よく取り扱う分野で,なんどか論考や書籍も出しているところです。
以前は,投稿された側の相談や依頼が多かったのですが,最近は投稿をした側の相談も増えてきており,下手したら半分くらいがそうである,という時期もありました。
なお,中には,適法な表現に対するスラップ訴訟に近いのではないか,違法であっても過大請求ではないか,請求の内容と方法に問題があって,請求者(投稿された側)にとっても利益になっていないのではないか,というケースも散見されました。

このあたりの経験を踏まえ,賠償請求の訴訟外交渉や訴訟の実務をまとめた書籍が「インターネット権利侵害 削除請求・発信者情報開示請求“後"の法的対応Q&A」です(なお念のため,この書籍は弁護士向けの専門書です。)。

これは,ネット上の表現トラブルに限ったことではなく,法律問題全般,もっといえば,医療関係についてもいえることですが,ネット上には,それぞれの立場にとって都合の良いデマが流通しています
法律問題の当事者は,特に訴えられた方は不安になりますので,そういった中で,自分に都合の良い「ネットde真実」に目覚めてしまうのは,やむを得ないこともあります。ただ,そのせいで,本来あるべき権利救済を受けられなかったり,逆に,投稿者が,それ以上に責任を認められてしまうことは健全なことではありません。
最近,複数の相談者から,そういうネット上の情報をいくつか教えてもらいましたが,ネットde真実のオンパレードで,誰かのいたずら?(そんなことないでしょうが)と疑うレベルでした。

前置きが長くなりましたが,同じような誤解に繰り返し答えるのも非生産的ですので,上記書籍の情報を一般向けにまとめ,かつ,相談者や,ブログのコメント欄からよく寄せられる誤解について,これにハマらないように情報をまとめました。

Q1.発信者情報開示請求ってなんですか?

大雑把にいうと,ネットで投稿をした人の個人情報(住所・氏名)を特定する手続きです。最初にコンテンツプロバイダ(掲示板などの管理者)からIPアドレスを取得します。その後,IPアドレスから割り出した経由プロバイダに対して,住所氏名等の開示を求めます。あくまで,被害を主張する者が,プロバイダに請求をするという点が特徴です。なお,裁判外でも,裁判上でも請求が出来ます。

Q2.発信者情報開示に係る意見照会書ってなんですか?

Q1の請求があったときに,投稿者(発信者)に対して,プロバイダから送られる書面です。
Q1のとおり,発信者にとっては,自分の個人情報が開示されるかどうかは重大事です。
ですが,匿名で請求や裁判に関わることは出来ません。事実上,プロバイダが相手をする代理戦争になります。
そこで,プロバイダとしては,開示をしても良いか,してもダメな場合は,裁判外で自分の判断材料にするために,裁判の場合は,裁判所に出す主張の参考にするために,意見を発信者から受け取るということになります。

Q3.裁判外だったら拒否すれば,開示されませんよね?

いいえ。されることがあります。
特に,特定のプロバイダや特定の権利ですと,しばしばあります。
このあたり,都合の良いデマが多いですが,プロバイダに応じた対応が必要です。
特に,一定のプロバイダは,積極的に開示に応じています

Q4.必ず意見照会はくるのですか?

いいえ。来ないことがあります。
プロバイダの法律上の義務ですが,その義務を履行しないケースもあります。
また,発信者情報開示請求以外の方法で開示が認められるケースも増えており,この場合は,そもそも意見照会の制度はないので,来ません。

Q5.投稿者ですが,開示・非開示になったら連絡はもらえますか?

非開示の場合は連絡がなく,開示の場合は連絡があることが多いです。
ただ,最近は,開示になっても連絡しないケースも増えています。

Q6.開示請求が来てから,どれくらいのタイミングで結論が出ますか?

ケースによりますが,請求の内容,文面から予測は可能です。
ただ,裁判になれば,少なくとも3ヶ月とか時間がかかります。
危険なのは,相場だのなんだのと決め打ちをしてしまうことです。

Q7.開示判決について,プロバイダは控訴してくれますか?

基本的にはしてくれませんが,ケースによります。プロバイダにもよるところが大きいです。
最近ですと,「荒らし行為」について開示を認めた事件について,控訴がされたケースがありました(結論は控訴棄却,つまり荒らし行為についても発信者情報開示請求は認められる,というものでした。)。

Q8.名誉権侵害(名誉毀損)ではなくて,名誉感情とか,プライバシー,著作権侵害だったら,開示の可能性は低いですよね?

そんなことありません。むしろ,逆です
名誉感情は事実の摘示の要件がないですし,プライバシーは,有名人でも認められますし,むしろ,有名人だからこそ認められるプライバシー侵害も存在します。つまり,一般人だったら同じことかいてもプライバシー侵害にならないのに,著名人だとなるケースもあるということです。
著作権侵害も同様に一般化できません。
法律問題全般の「ネットde真実」に多いのですが,無理矢理類型化してわかりやすくすることで,誤りに陥るという典型です。

Q9.意見照会ですが,延期してもらえるのですか?

基本的にはしてもらえます。
すぐに連絡をするようにしましょう。

Q10.発信者情報開示請求を検討していますが,弁護士費用の方が高くついてしまわないでしょうか。

そのリスクは高いです。
ですが,高額の賠償を狙う方法,それが可能な投稿,ケース,あるいは,そもそも弁護士費用を節約して,投稿者を突き止める方法など,いろいろあります。
弁護士には,「発信者情報開示請求をして賠償請求をしたい」と固定して相談をするのではなくて,被害の実情とか,希望を述べて,むしろいろいろな方法を提案してもらうといいでしょう。

Q11.慰謝料は判例で決まって,相場は○○ですよね?

勘違いです。ネット上の表現トラブルには,いわゆる赤い本(交通事故の慰謝料額をはじめとする賠償基準を集めた書籍)がありません。無いのは作れないからで,それは,賠償額は,投稿の内容だけではなくて投稿の場所でも変動するからです。
同じ投稿,同じ場所というケースはめったにありません。交通事故であれば,一週間の入院という事件は沢山あるので類型化できますが,ネット上の表現トラブルでは,それが出来ないからです。
ネットde真実の法律情報には,「判例が,判例が」というのが多くありますが,判例というか,裁判例は,そういう使い方をするものではありません

Q12.発信者情報開示請求に使った弁護士費用は発信者に請求できる/できない,と聞きましたが,本当のところは?

数年前は,認められる傾向が強かったのですが,最近は,認められない傾向があります。
もっとも,事案に応じますし,それぞれの主張と反論の内容次第といえます。
投稿者が本人訴訟だと,認められる傾向が強いようです。たとえば,近時,20万円の慰謝料に対して90万円の弁護士費用が認容された事例がありました。近時で,発信者情報開示請求の弁護士費用実費が認められたほとんどの事例は,被告が本人訴訟のケースのようです
ですから,被害(を主張する)者としては,発信者が本人訴訟で応訴するかどうか,その見通しも大事ということになります。そうしてくれたら,「しめたもの」といえるでしょう。

Q13.発信者としては裁判前に示談しない方が安く済むよね?

そんなことはありません。
交渉というのは自分ではなくて,相手方のことを考える必要があります。このあたり,なかなか弁護士でないとわからないポイントですが,交渉で大事なのは,相手方の利害です。
請求をしている側からすれば,裁判をすれば,別に費用がかかるので,損益分岐点が動きます。となると,裁判中に安く和解することは難しくなってしまいます。
一方,裁判前に和解できるのであれば,そういうリスクが回避できるので,安く和解するというインセンティブが生じます。
実際に,当初は200万円300万円といった請求であっても,20万円程度や,0円で解決できたケースもあります。

Q14.立証責任は請求者(被害を受けたと主張する者)にあるから,全部否認すれば,大丈夫ですよね?

そんなわけありません。ネットde真実の法律情報の中には,立証責任のことを,直接証拠で立証しない限り不存在が推定されるとか,そういう誤解があるようですが,大間違いです。
あと,請求の趣旨に対する答弁は別としても,単に全部否認,といっても,肝心なものに争いがあっても否認にならず自白扱いになります。このあたり,不親切なことに,裁判所から送られてくる答弁書の書式にも入っていません。
以上を別としても,立証責任があっても,原告が一応の根拠を持って主張立証をしている場合,これについて,合理的な反論が出来なければ,全体的な裁判所の心証として,その事実の存在を認める方向に傾くでしょう。また,仮に証明が出来た,というレベルに達していなくても,ネット上の表現トラブルにおける慰謝料算定の実務といて,証明ができない=賠償が認められない,と単純にいうことができるものではありません(ただし,主張立証責任の原則を動かすものではありません。)。
このあたりを勘違いすると,高額な慰謝料になったり,あるいは,Q12の様に,数倍の弁護士費用を払うことになります
逆に言えば,請求する側からすると,請求される側が,ネットde真実に目覚めたり,あるいはその他の理由で,本人訴訟をしてくれるかどうかは,重要なポイントになります。

Q15.ネット上の情報は,書き込まれた人/書き込んだ人が,書き込んだ人/書き込まれた人をだまして,自分が有利になるように工作しているのですよね?

そこまで暇な人がいるか,かなり微妙な話だと思っています。
ただ,同種事件の取り扱い経験,関係者からの相談をこれまでずっとやってきた経験からいうと,概ね,次のようなことがいえると思います。
つまり,参加者は情報工作をするというよりも,「自分にとって都合の良い情報を真否確認せずに投稿し,賛同し,逆に,都合の悪い情報は嘘だと決めつける」,そういうことをお互いに繰り返しています。
そういう中で,せっかく自分が見つけた都合の良い情報が否定される,それは「工作員」の仕業だ,と信じたがる,そういう構図があるのではないか,と思います。
それにしても不思議なのが,自分の敵が偽情報を流しているかもしれない(と思い込んでいる)にもかかわらず,そういう情報を集めてネットde真実に目覚め続けるのか,ということです。
そこまで工作だのデマだのがあると思っているのであれば,早くちゃんと,法律上の守秘義務や善管注意義務のある法律事務所に相談に行った方がいいと思うのですが・・・。

Q16.ネットで「○○という判決だったよ!」とか聞いたのですが,本当ですか。

この種の事件に限りませんが,基本的に信用できません。
基本的に,発信者が匿名かつ裁判所・判決日・事件番号・掲載誌といった情報が入っていない判決は,エア判決,エア判例であることが多い,というかほとんどです。
私は,インターネットの表現トラブルについて,自分の担当事件以外でも,沢山の判決を収集しています。以前,この種の事件の判決の例について,ネットの情報を人に見せてもらったことがありますが,一つとして一致する,類似するものはありませんでした(もちろん,全ての判決を集めているわけではありませんが,余りに実務上の通例と,理由も結論も齟齬があったので,実在しないと判断できます。)。

Q17.相手の弁護士は東京の法律事務所のようですが,私は地方在住です。裁判はどこでやることになるのですか?

発信者情報開示請求については,プロバイダが被告であり,その場合はプロバイダの所在地です(なお,別の場所で裁判をする方法もありますが,あまり一般的ではありません。)。したがって,ほとんどの場合は東京地方裁判所で,一部については会社が大阪ですので,一部は大阪地方裁判所になります。
次に,開示後の裁判(損害賠償請求の裁判)についてですが,これは,幅広く管轄が認められています。インターネットの投稿は,日本中で閲覧が可能だからです。基本的に,発信者情報開示請求の管轄が東京であることが多く,東京の弁護士が担当することが多いので,損害賠償請求の裁判も東京地方裁判所で行うことがほとんどです
私は,この種の事件の判決を(自分が担当した以外のものも)片っ端から収集していますが,約95%は東京地方裁判所です。当事者双方が地方在住の案件でも,東京地方裁判所で行うというケースも珍しくありません(私の経験上も,ほとんど全てそうなっています。)。
ネット上の表現トラブルについては,尋問が不要なことがほとんどですので,その点からも,東京地方裁判所で行うことが合理的であるといえます。

Q18.投稿者で開示されてしまい,賠償請求の内容証明郵便が来ました。示談は不利ですので,判決に従いますとだけ返事しようかと思いますが,それでいいのでしょうか。

よくないです。というかもったいないです。
示談,すなわち合意による和解が有利か不利かなんて議論はナンセンスもいいところです。
和解そのものに有利不利なんてありません。有利不利は和解の問題ではなくて,内容の問題です。つまり,条件に有利なものがあるか,不利なものがあるか,ということです。
ですから,和解(示談)そのものに有利も不利もなく,有利な和解もあれば不利な和解もある,ということです
ただ,もちろん,請求者代理人弁護士の中には,驚いて高額支払いをさせることを狙って,やたら恫喝的な書面をだして支払わせるという手法を使う者もいます。そういうのに驚いて高額支払いに同意することは「損」ということです。もっとも,こういう手法は,倫理的な問題もありますし,請求者と弁護士との共同炎上につながりますので,請求者代理人としても私はやりませんし,おすすめもしませんが。
なお,実際に,請求を受けて交渉をして,数十分の一,あるいは0円で解決が出来たケースもいくらでもあります。
和解は不利だと頭から決めてかかるのは,せっかくの,こういう低額解決のチャンスを捨てるのでもったいない,ということです。裁判になれば,相手方つまり請求者は,さらにコストを投じることになるので,その後の和解も難しくなるリスクもあります。

Q19.Q18について,いくらにすればいいか,よくわからないので,裁判にしてもらって本人訴訟で対応しようと思いますが,どうでしょうか。

金額について判断も出来ないのに,裁判でまともな対応が出来るわけありません。
物の価値がわからないのにその物を買うでしょうか?しかも,相手はお店の人ではなくて,あなたの敵です。カモにされるのがオチです。というか,実際に各種判決をみればわかるようにいいように高額判決を取られています。
自己責任の問題ですので,本人訴訟するなとはいいませんが,そういう考えでは,重病になったのに医者にかからず,ネットで検索して見つけた民間療法に頼るようなものです

Q20.開示請求をして無事に開示されましたが,契約者は自分は投稿者ではないといっています/自分は投稿していないのですが,回線の契約者ということで開示されました。

まず,原則論からいうと,投稿の責任を負う者は,投稿をした人つまりは発信者です。
ですから,回線の契約者は責任を負わないのが原則です。
もっとも,回線を契約しているとなると,通常,回線の契約者以外は回線を利用しませんので,事実上,契約者が投稿をしたことが推認されることになります。
もっとも,この推認というのは,実務上,さほど強いものではありません。
また,これは弁護士でも勘違いするのですが,プロバイダ責任制限法でいう「発信者情報」というのは,発信者の情報と同一の意味ではありません。あくまで,発信者にたどり着くのに役に立つ情報も含まれています。ケースによっては,わざとそのあたりを誤解させて請求するケースもありますが,さすがに,こういう請求は,弁護士としては問題がある可能性もあると思っています。
さて,実際にあった判決としては,遠隔操作の反論をしたが認められなかった事例や,回線契約者だが投稿者ではないという事例で責任を否定した事例,逆に,回線契約者ではないが投稿者であるとして責任が認められた事例,回線契約者で家族で回線を共有していたが,誰も投稿に覚えがなく,かつ,不正アクセスの可能性を認めて責任を否定した事例などがあります
ですから,請求をする者も,される側も,そういうケースを念頭に置くべき,ということになります。

Q21.原告に立証責任がある。だから釈明を求めまくれば大丈夫ですよね?

「(求)釈明」とは,ちょっと用語がややこしいのですが,相手方の主張立証について,それを明瞭にして欲しいという求めをいいます。
たまに本人訴訟で,これを連発する人がいるのですが,どっかにそういう元ネタがあるのでしょうか。
なお,相手方の主張立証が不明瞭な場合に,こちらの反論がやりにくいときに釈明を求めるのは別格,そもそも,原告の主張立証が不十分なら,それはそのままにしておけばいいだけです。なんで,わざわざ敵に教えてあげるのでしょうか。
ということで,意味の無い行為です。ちょっと古い資料ですが,攻撃的に釈明を求めるとか,意味ないよね,という話は,東京地裁の裁判官アンケートでも出ている話です。

Q22.支払いの判決が出ても破産すれば大丈夫ですよね!

何が大丈夫なのかよくわかりませんが,ネットの違法な投稿については,非免責,つまり破産しても,責任を免れないとした裁判例があります。
なお,免責されるかどうかは,個別判断です(ケースによっては免責されるものもあると思います。)ので,ネットde真実に目覚めるだけではなくて,弁護士に相談した方がいいでしょう。

Q23.意見照会ってどうやって来るのですか?内容証明郵便?

基本的に特定記録郵便でくることが一番多いです。とにかく,プロバイダとしては第三者的な立場であるにも関わらず,コストをあまりかけたくないからです。特定記録郵便というのは,通常の郵便のように郵便受けに入れられますが,その配達の事実が,記録をされるという郵便です。特定記録と書いてありますので,わかります。
書留のように,手渡されるということはありません。気がついたら入っていた,ということで,実際に受け取るまで時間がかかってしまうこともあります。
特定記録郵便にするというのは理由があって,意見照会は到着後2週間以内,と設定するプロバイダが多いところ,その起算日を確定するためです。ただ,最近は,その確認も手間だということで,発送日の2週間+αくらいの日数を固定して,「●月●日必着」みたいに記載することも多いです。
丁寧なプロバイダや,地方のプロバイダですと,わざわざ書留にしてくれるところもあります。
また,意見照会の時点からプロバイダに弁護士がつくと,なんと内容証明郵便になる,ということもあります。そこまでする必要は基本的にはないのですが,特別な事情があるか,不慣れであるか,という問題があります。
なお,この送り方とか,文面とかから,プロバイダの傾向と対策がわかったりしますので,全く無視できない情報であったりします。

Q24.被害者(請求者)ですが,複数名から投稿されたので,賠償請求訴訟ではまとめて訴訟をしようと思います/投稿者ですが,他にも投稿者がいるようで,その場合,他の投稿者にも私の住所氏名は知られてしまうのでしょうか。

投稿者が複数いる場合,請求者としては,まとめて訴訟を起こすことが効果的ですし,現によく行われています。
まとめてやることで,被害立証の手間がかなり省けます。また,基本的に認められません(認められた事例もあります。)が,共同不法行為といって,全員に連帯責任を追及するという方法もあります。
この手の事件では,費用倒れになることもかなり多いのですが,複数名を同時に訴えることができれば,そうなるリスクを下げることが出来ます。
そういうことで,複数名をまとめて訴える,というのは請求者にとって良い方法であるといえます。
なお,そもそも,誰が投稿者かわかっていない,つまりは発信者情報開示請求の時点でも,複数の投稿に対して,まとめて開示訴訟をすることは,通常のことです。
一方で,投稿者側からすると,まとめて訴えられることは,よくあることである,ということになります。特に自分以外に同じ人について投稿をしている人が沢山いる場合,そうなるリスクは高いといえるでしょう。
また,そういう場合,裁判外交渉を続けていて,全員について裁判外で解決できるかどうか,結論が出てから,最後にまとめて訴えることが通常です。ですから,裁判を起こされるまで時間がかかる,という傾向もあります。
その場合,自分の住所氏名が,請求者原告だけではなくて,他の投稿者被告にも知られてしまうのでしょうか。
これについては,訴状に被告全員の住所氏名が記載されることになります。ですから,他の投稿者全員にも知られる,ということになります。
また,訴状の記載から,「この○○という投稿をした人は,○○に住んでいる○○である。」ということまで,相互に被告全員が知る,ということになります。
なお,このように,本来,お互いに住所氏名を知らないし,知らせたくもない他の被告(共同被告)に,住所氏名を知らせる結果になることについて,違法なプライバシーの侵害といえるのか,という問題もあります。
結論からいうと,基本的にならないと思われます。被告複数のケースでは,そもそも民事訴訟制度そのものが,こうなること,つまり他の被告の住所氏名を記載されて送達することは,予定されているからです。そもそも法律で予定されているのであるから,それによるプライバシーの侵害は甘受するべきで,違法ではない,ということになります。
もちろん,全く関係ない事件を一緒に訴えて,プライバシー侵害のために訴訟するとか,そうなれば別でしょうが,基本的に,このような訴訟をすることについて,原告がプライバシー侵害の責任を負うケースは稀だと思われます。

Q25.請求者「事業上の損害は請求できますか?」被請求者「事業上の損害も請求されるのですか?」

事業上の損害は請求されるケースがほとんどです。ただ,実際に認められることはかなり稀です。もっとも,それらの事情について,具体性やそれなりの信用性がある場合,「一切の事情」として考慮されて,慰謝料が算定されることになります。
要するに,基本的に請求するケースが多いが,実損は認められないけれども,それなりに根拠があるなら慰謝料の増額事由ということで考慮してもらえる,ということです。
損害賠償制度においては,被害については,被害者がその被害と因果関係を立証する責任があります。
となると,事業上の損害については,被害の算定も難しいのですが,その因果関係の立証は難しいことがほとんどでしょう。
実際に売り上げが下がったとして,それが,問題の投稿が原因であるかなど,基本的には明らかではないですし,実際に請求をするケースでも,その点について十分な主張立証があるケースは稀です。
なお,実際にあったケースとしては,女子トイレ盗撮というかなり悪質性の高い投稿がされた事案において,契約を切られるかもしれない,という事情が出ており,それについて正面から事業損害を認めたわけではないですが,考慮の結果,それなりに高額な賠償が認められたというものがあります。
また,私が被告を代理したケースでは,事業上の損害も含めて300万円程度が請求された事案で,かなり,具体的な支障とか,経費の増大とかを主張立証されたのですが,争った結果,判決では数万円程度に落ち着いたケースもありました
そういうことで,事業上の損害は無視できませんが,がんばれば慰謝料増額事由になることもある,という話になります。

Q26.この単語だったらいくらとか,「アホバカ」レベルなら○○万円とか,聞くのですが,本当でしょうか。あと,判例で賠償額は決まるとか聞きますが。

いずれも間違いです。前者については,損害賠償制度,それもネット上の表現トラブルの事情を考慮すれば,明らかに間違いなのは,すぐにわかるところです。
判例で賠償額が決まるというのも,誤解を招き,非常に不正確です。「ネット上の表現トラブルで判例で賠償額が決まる」という表現はミスリーディング極まりないと思います。

Q27.今、発信者情報開示請求の制度について、政府が改正を検討していると聞きましたが、どのような影響はあるのですか?簡単に開示されるようになると聞きましたが。

総務省が現在検討しています。
あくまで現在の検討課題からの推察ですが、権利侵害が明白であるにもかかわらず、発信者が特定できない、あるいは、そこにたどり着くのに不相当な時間や費用がかかるというケースを減らすことに主眼があります。
つまり、これにより、これまで適法であった表現が違法になるとか、開示が認められるべきではなかった投稿について開示が認められるようになる、というものではありません。「権利侵害の明白性」という要件の緩和は、現在は検討されていない可能性が高いです。
この研究会の主眼は、権利侵害が明白であるにもかかわらず、何度も裁判を繰り返す必要があるとか、プロバイダの保有している情報、開示された情報では発信者が特定できない、そういう不都合を解消しようとするところにあります。今まで自由にできた表現を違法化するというものではありません。要するに、本来は開示請求が認められるものであるが、費用や時間、開示される情報の内容の問題から、開示ができない、あるいは断念する、ということを減らすというものです。
まとめると、泣き寝入りするケースを減らす、というものです。
なお、発信者情報開示請求をする側からは、時間や費用が節約できるというメリットがあります。一方で、発信者にも隠れたメリットがあります。それは、請求者が費やす費用が減るということで、和解がまとまりやすくなる、というものがあります。請求者にとっての損益分岐点が下がるからです(低額で和解しても「黒字」になるためです。)。

Q28.ネット上の体験談、武勇伝で、「真実性や公共の利害関係性、公益性が認められて非開示になったぞ!」ってよく聞きますが、本当でしょうか。

そういう結論になる事件はそれなりにあります(転職サイトなど)が、発信者がそれを武勇伝で語るケースでは信用性が極めて低いでしょう。なぜなら、発信者はそれを知ることができないことがほとんどだからです。発信者情報開示が行われた場合、「発信者情報開示請求にかかる意見照会書」というものが、プロバイダから発信者(なお、発信者に限らないのですが、話を簡単にするために、そういうまとめにします。)送られてきます。
そこで、発信者は、請求があったこと、あるいは提訴があったことを知るわけですが、その後の結果については、プロバイダは、教えてくれるとは限りません。
傾向として、開示になった場合は教えてくれることが多く、非開示の場合は連絡がないことが多いのですが、それも確実ではありません。
さらに、開示の連絡があったとしても、判決文を転送してくれることはありません(少なくとも、同種案件を3桁はやっていますが、一度もありませんでした。)。
また、自分で判決文を閲覧しようにも、事件番号など特定できる情報をプロバイダが教えてくれるとは限りません。それがわかったとしても、判決文を閲覧すれば、自分の申請書が綴られることになりますので、せっかく非開示になっても自分で開示しちゃう、ということになりかねません(書記官に言われて思いとどまったケースもあります。)。
ということで、そもそも、判決文に触れる可能性が極めて低いので、非開示の結論以上の理由について、わかるケースもほとんどないでしょう。
ネットde真実の法律情報の中には、例えば、勤務先に職場に内容証明郵便を送りつけて破滅させるとか、明らかに嘘っぽい武勇伝が溢れているので気を付けましょう。
そして、不安が大きければ大きいほど、そういう粗末な嘘に引っかかりやすいです。特に、請求を受けている側で顕著です。

Q29.最近は、裁判所は簡単に発信者情報開示請求を認めると聞きましたが、本当でしょうか。

はっきりいうと、認知の歪みによるデマです。
いろいろ理由はあります。
まず、発信者からすれば、自分の投稿程度で開示が認められたのは納得がいかない、だから、最近は、簡単に裁判所は開示を認めてしまうに違いない、という感情的な思い込みに陥っているケースが、しばしばあります。
しかし、それは実態に合致しません(そもそも、自分自身の1件の経験から判断することは不合理です。)。
また、他の理由として、裁判所の判決文データベースによると、開示を認めた判決がたくさんある、だから、開示請求は認められて当然、と誤解されているケースもあります。
しかし、これには掲載されている判決が偏っているという問題があります。
まず、そもそも、裁判所のページに掲載される判決は、全体のごく一部です。民間の商用判例データベースについても同じことはいえますが、裁判所のページに掲載されるのは、本当にごくごく一部です。
ただ、最近はそれでも掲載数を増やす傾向があり、特に、知的財産関係の事件については、大量に掲載されています。
ここが問題なのですが、著作権侵害を理由とする発信者情報開示請求事件についても、知的財産関係の事件として、積極的に掲載されている、という点です。
そして、著作権侵害に関する発信者情報開示請求は、これが認められやすいという傾向があります。投稿内容から著作物を掲載したことは明らかであることが多く、名誉毀損のように、社会通念上の判断とか一般読者の基準とかの判断が不要だからです。
そうなると、発信者情報開示請求の中でも認められやすい著作権侵害の案件ばかりが掲載される結果、認められて当然、と誤解してしまうことが原因であると思われます。
なお、少し話はそれますが相談者から教えてもらったのですが、「裁判官ガチャ」などといって、不運にも開示されることが多い、と信じ込んでいる人もいるみたいです。
もちろん、この種事件に限らず、そういう裁判官次第、ということは多くあります。ありますが、そうそう結論が大きく変わる、不自然に変わることは稀です。
さらに、不思議、もっといえば滑稽なのは、「判決は判例で決まるから、本人訴訟でOK」という言説(少なくとも、ネット上の表現トラブルの慰謝料について判例と表現できるものはありません。)と裁判官ガチャという言葉が並存して語られている点です
裁判官ガチャ、つまり裁判官の気分次第で簡単に結論が左右されるのであれば、判例で決まるとはいえないですし、その説得は重要になるはずです
そういうわけで、どちらも矛盾して間違っているといえるでしょう。ただ、法的トラブルというのは、感情的になりやすい、インターネットでは感情的になっている、似た境遇の人たちが情報交換をするので、矛盾はしていても、耳障りの良い、都合がいいだけのデマが流通するのは、やむを得ない側面もあると思います。

Q30.請求を受けた側の対応が悪い,ということで,慰謝料は増額になるの?

基本的になりません。
というのも,損害賠償請求,特に慰謝料請求は,責任の有無はもちろん,金額について争いがあることがほとんどです。
要するに,争われて当然,ということです。
争って当然のことを争って,それで自分の義務が増える,ということになると,請求を受けた側からすれば,非常に不公平な話ということになります。
特に裁判においては,お互いの主張に食い違い,相違があるから裁判になるわけで,これについて,争ったら責任が重たくなる,ということになると,裁判を受ける権利(憲法32条)の問題にもなりかねません。
そういうことで,あえて虚偽の主張を繰り返すとか,法的に到底あり得ない主張をすることで,不当に相手方の負担を増したとか,そういうかなり極限的な場合でない限りは,争ったことを理由に慰謝料が増額されるということはないでしょう。
なお,交渉段階での提案であるとか主張というのは,なかなか判決文には現れません。ただ,稀に現れることもあります。原告がネット上の投稿について慰謝料請求したある訴訟において,謝罪をしていないということは慰謝料算定において考慮するべきとの主張がありました。これに対して裁判所は,和解の提案をしていること,その提案金額と判決金額の近いことを指摘して,その主張(増額)を斥けています。
あくまで事例判断で,一般化は出来ませんが,争い方が下手で重い責任を負担することはあっても,争ったことそれ自体で責任が重くなるということは,稀なケースでしょう。
また,ネット上の表現トラブルではありませんが,性犯罪の事件において,被告の応訴態度(裁判での争い方)を指摘して,慰謝料を増額した事案もあります。ただ,これはかなり例外的な事案です。少なくとも,ネット上の表現トラブルにおいて,争い方が原因で慰謝料が増額されたケースには接したことはありません。

Q31.被告側で本人訴訟は否認するのが大事,気をつけないと否認ではない,つまり自白と扱われるので注意!と聞いたけれども,本当?

Q14でも指摘しましたが,そんなことありません。
裁判所は,たしかに,答弁書も出さないで欠席すると,全部自白扱いで判決を出します。
しかし,この点を除くと,裁判所は,本人の意思に反して自白扱いにならないか,非常に気をつけます。
これは当然のことで,控訴して争われれば簡単にひっくり返ります。また,裁判官というか法曹一般の認識,思考として,裁判は究極の自己責任の世界ではありますが,その自己責任の前提として,手続保障,つまりは争う機会をしっかりと保障しないといけない,という考えがあります。
自白というのは,争う機会を放棄するものですが,これを誤って認定すると,争う機会を一方的に奪うことになります。
ですから,「本人訴訟ではちゃんと否認・争うことが大事」というのは間違いではないのですが,極端に神経質になる必要はありません。また,本人訴訟で当事者に不利な結果が出たことを「ちゃんと否認しなかったからだ」と思うことは間違いです。特に,ネット上の表現トラブルにおいて,発信者情報開示請求の弁護士費用を負担させることが出来るか,という論点があります。被告本人訴訟では,これの負担が命じられるケースが少なくないのですが,これは,争わなかったことが原因ではなく,争った上で,その主張が通用しなかった,ということです。
なお,実際にも,否認・争うという記載を書面にしなかったが,請求額より低い金額での和解の提案をしていることから,「争うという意思だろう」と裁判所があえて認定して,その上で審理して判決したケースもあります。
他にも,被告は欠席をしたが,他人名義の書面が返事として提出されている(もちろん,これは被告の書面という扱いにはなりません),という事案で,裁判所が欠席判決を避けるために4回も呼び出しを繰り返した,という事案もあります。この事案では,結局,被告は欠席を続けたので,欠席裁判ということで,判決がされています。

Q32.発信者情報開示請求をする弁護士は仕事のない底辺弁護士だ,ビジネスにしようとしている,と聞きましたが,本当ですか?

そんなわけありません(笑)そもそも,事案の性質上,何か非難されるような事件ではありません。もちろん,個別の事件処理については,例えば共同炎上の問題であるとか,そういうことはあります。
ですが,事件自体,類型として非難されるとか,そういうことはありません。少なくとも弁護士間で,そんなことは聞いたことはありません。
ただ,こういう事件に限らず,「自分たちにとって都合の悪い事件をやる弁護士,相手方になる弁護士は,悪い,酷い,底辺弁護士であると信じたい」という人は少なからずいます。そして,そういうこという人たちの事件というのは,基本的に負け筋です。理論的に自己の正当性を主張できないから,そのフラストレーションを相手方代理人弁護士にぶつけて自己催眠をしているに過ぎないのです。
私も,残業代未払いやハラスメントをする会社への賠償等の請求を代理したとき,その会社の人からそういう趣旨のことをいわれたことがあります。まあ,「そういうとこだぞ」,という話なのですが。

Q33.尋問で裁判所に呼び出されることはあるのですか?

基本的にはないです。尋問というのは,裁判所に出廷して,その上で,裁判所や相手方,自分の代理人から質問を受ける手続きです。
通常は,主張や書証が出尽くした,最後の仕上げに行われます。この前後に,和解の話が出ることも多いです。
裁判は,通常は事実の有無,内容に争いがあります。その場合,事実の有無や内容を確定するために,証拠を調べるわけですが,都合良く書証(書類の証拠)があるとは限りません。
ある人の供述しか証拠がないことがあります。そういう場合,話を聞いて真否を確定するということになるわけです。
要するに,「この事実の認定は,当事者や関係者の話を聞かないとわからないよね?」という場合に,行われます。
ところが,ネット上の表現トラブルにおいては,話を聞く必要が無いことが多いです。問題の投稿は,書証で明らかですし,通常は争いがありません。その評価については,双方の主張書面で議論がされています。
したがってネット上の表現トラブルで尋問というのはめったにありません。あるケースとしては,そもそも投稿の事実を争っている,遠隔操作や無線LANの不正使用などの主張があるケースです。

Q34.開示費用について,最近は発信者の負担にしない裁判例が多いが,被告本人訴訟の場合は,発信者負担になるケースが多い傾向だと聞きました。これは,控訴で逆転するのでしょうか。

基本的に,控訴で逆転はしないと思われます
少なくとも,負担,不負担,いずれのケースでも,控訴でひっくり返ったケースを,私は自分が担当した事件も,担当していない事件でも,目にしたことは一度もありません。
裁判において,どの論点についてもそうですが「勝負は控訴審から」とか思うのは禁物です。恐ろしい間違いであると思います。
さらにもっといえば,よくネットでいう,「所詮は地裁」などという,地方裁判所を二軍裁判所とする考えは,明白に誤りです。裁判所は,そういう人事システム,つまり,簡易裁判所の裁判官がレベルアップして地方裁判所に,地方裁判所の裁判官が同じくレベルアップして高等裁判所に,というような仕組みを採用していません。これについては,「「所詮は地裁だし」は正しいの?控訴審のルールって?」で解説しています。

Q35.発信者情報開示請求が簡略化すると聞きましたが,「法の不遡及」だから,過去の投稿は関係ないですよね?

立て続けに,この質問が来ましたのでお答えしますが,仮に新制度(発信者情報開示請求の簡略化)が出来たとして,過去の投稿にも適用される可能性が高いでしょう。
少なくとも,「法の不遡及だから,過去の投稿に適用されることはあり得ない」,という考えは間違いです。
もとより法律で,過去の投稿に適用しません,と明示すれば別ですが,そういう明示が無い限りは,当然,過去の投稿にも適用する,というのが通常の解釈です。
こういう手続き上の法律については,過去に遡及し,実体的な権利義務の問題,つまり権利の中身については,遡及しないのが通常です。
たとえば,民法改正でも,法定利率の変更がありましたが,これは過去の債権に遡及して適用されていません。一方で,改正民事執行法での財産開示制度は,過去の債務名義(確定判決等)についても適用されます。また,公訴時効という刑事責任に深く関わるものについても,時効完成前の事件に限定されていますが,遡及適用されています。
発信者情報開示請求は,実際に発生した損害賠償請求権を前提にして,それの追及のための手続きですから,手続き上の問題であるとして遡及する,というのが通常の考えでしょう(もちろん,逆の立法をすることも可能です。)。
「法の不遡及」という言葉だけから議論すると,以上の検討は不可能です。これは,法律用語だけを知って考えると,うまく答えが出せない,という典型例だと思います。ネットの法律情報は,こういう用語を振り回す誤りや偏りがあることも多いので,注意が必要です。

Q36.和解と示談って,どう違うの?

基本的に違いはありません。裁判ではなくて,どちらも合意により事件解決することをいいます。
ただ,刑事事件ですと,和解ではなくて示談ということが多いです。どちらも,紛争について合意により解決をする契約の一種です。
なお,ネット上の表現トラブルについて,和解は不利という話は,デマです(Q18)。和解が不利なのではなくて,和解に不利なものも有利なものもある,ということです。和解できなくても,交渉過程で有益な情報を得ることが出来たりもします。これは,請求者(被害者),発信者の両方にとっていえます。
なお,最近,「判決に従います」という趣旨だけで返事をするケースが散見されますが,こういう返事は,とある証拠として有利に使えたりしますので留意が大事です。

Q37.賠償請求訴訟になったら,お互いの住所はわかるの?

まず前提として,請求者(被害者)は,賠償請求をするためには,発信者の住所氏名が必要です。開示請求が認められた段階で,それは知っていますので,問題になりません。
となると,問題は,「賠償請求訴訟になったら,請求者原告の住所は,被告発信者に知られるのか」という点です。
結論から言うと,原則として原告請求者の住所は被告発信者に知られます。訴状には,住所の記載が求められるからです。
ただし,住所の代わりに,原告代理人弁護士の法律事務所の所在地を記載することが認められることもあります。経験上,ほとんど裁判所に認めてもらえます
また,同じ手続きで一度に訴えるとなると,複数の被告が同じ訴状に記載されます。したがって,他の被告つまり発信者の住所氏名も,被告発信者は知ることになります。
発信者は,相手原告の住所がわかるかどうかより,他の投稿者に自分の住所がバレないかどうかを心配した方がいいでしょう
なお,原告が本人訴訟で住所を隠すのは,簡単ではありません。訴状に書かないで,別の書類に記載するなどしても,被告を含む裁判の当事者は,裁判所に出された記録を自由に閲覧できるからです。
また,閲覧制限の手続きを取らないと,第三者にも閲覧される可能性はあります。
もちろん,これらを,みだりに公にすると不法行為の問題が生じることもあります。

Q38.ログの保管期限はどれくらいあるのですか?保存期間を延ばすことはできますか?

基本的に3ヶ月以上であり,プロバイダや時期により区々,1年程度のことも珍しくはない,ということになります。
延長については,プロバイダに任意(裁判外)で発信者情報開示請求をし,「開示をしてくれないのであれば,訴訟をしますので,その結果がでるまでログを削除しないでほしい」と付け加えれば,削除しないでくれることが通常です。
プロバイダによっては,任意でログの保存に応じないところもあります。そういうところは,有名で,弁護士にとっては周知の事実ですので,民事保全という略式の手続きで,ログを保存して欲しいと裁判で主張する,ということが通例です。

Q39.発信者情報開示請求をする場合,発信者に意見照会があるとのことですが,これは,(裁判外での請求ではなくて)開示請求訴訟をした場合もそうなりますか?

はい。開示請求訴訟の場合も「訴訟を起こされました」ということで,発信者に意見照会がされます。
ただし,裁判外で請求をうけて意見照会をしており,かつ,それに続いて訴訟が提起された場合は,再度の照会を発信者にしないこともあります。
裁判外の発信者情報開示請求の場合は,意見照会に対する発信者の回答書は請求者に渡らないことが通常です。
一方で,裁判上で発信者情報開示請求をして,それで意見照会に対して発信者から回答がされた場合,その回答書は住所氏名をマスキングの上,裁判において提出されます。
したがって,原告である請求者にもコピーが渡ることになります。
また,これは裁判のルールですが,自分が提出した証拠は,自分にとって不利な証拠にもなり得る,ということがあります。そういうことで,発信者が不用意な回答書を作成すると,かえってそのせいで開示につながる,その後の賠償請求裁判でも証拠として使われることがよくあります。
発信者情報開示請求訴訟ですと,裁判所が,「かえって提出された回答書によれば【発信者に不利な事実】が認められる」みたいな感じで事実認定をすることがたびたびあります。
実際に私も,請求者の代理をしていて,不用意な回答書が出てきたおかげで,非常に助かったという経験があります(それが無かったら負けていた可能性もありました。)

Q40.請求者(被害者)です。発信者情報開示請求を検討・実行しています。事件進捗について、いろいろとネットに書き込んで報告をしたいのですが。逆に、発信者・投稿者の立場から留意することはありますか?

基本的にお勧めしません。仮にやるにしても、全て事件が終わってからするべきでしょう。
まず、不用意な言動は、相手方に余計な情報を与えることになります。それが事件処理において不利な要素になる可能性も否定できません。
弁護士として、たまにこういうものを目にすることがありますが、正直、なんでわざわざ敵にヒントを与えているのだろう?と、呆れることもあります。
また、発信者情報開示請求において請求者の言動を理由に開示を否定した裁判例、その後の賠償請求においても、言動を考慮して賠償額が引き下げられた事例、いずれもあります。要するに、請求者は、相手にヒントを与えるだけではなく、それを発信者情報開示に関する意見照会書への回答書や、裁判上の書証で提出されると、不利になってしまう、ということです。
弁護士の中には、ネットでの投稿だけではなく、やたらと記者会見を進める人もいるみたいですが、下手すると広告塔にされてしまう、それで個人的に被害を被ることもあるので、要注意です。
逆に発信者・投稿者の立場からは、そういう請求者のオウンゴールは有益ですので、いろいろと集めておくといいでしょう。
また、弁護士がついているのに、そういう言動を繰り返しているとなると、弁護士とのコミュニケーションがうまくいっていない可能性もあるといえます。

Q41.訴訟の大部分は本人訴訟ですよね?判決は判例に従って決まると聞いたので「ネットde真実」の法律情報を集めて挑みたいと思うのですが。

本人訴訟するなとは言いませんが、そういう考えで挑むことはお勧めしません。本人訴訟がダメなのではなくて、そういう考えがダメという趣旨です。
まず、ネット上の表現トラブルにおいて「判決は判例に従って決まる」という考えが誤りであることについては、Q11とQ26で解説した通りです。
次に、訴訟の大部分は本人訴訟という点ですが、これは①本人訴訟の定義と②本人訴訟、もっといえば弁護士がつかない理由、この2つを考慮しないと数字から意味を見出すことはできません。
まず、①についていうと、確かに簡易裁判所では本人訴訟率が高いですが、ネット上の表現トラブルは、ほぼ全て地方裁判所で行われます。ですから、これを区別しないと意味がありません。
加えて、「本人訴訟」といった場合、原告と被告の両方とも弁護士がついていないのか、片方だけなのか、その区別をしないと、これまた割合の数字としては意味がありません。
さらに②についていうと、裁判はそもそも争点がないケースでも多数提起されています。これは、例えば家賃を払わない人を追い出すためには、判決を得ないといけないからです。また、金銭債権についても、判決を得て強制執行を試みないと損金として算入が難しいこともあり、税務上の問題で提訴することもあり得ます。
件数だけ見れば、実質的に紛争ではない裁判も多数提起されており(件数だけ見れば、それの方が、むしろ圧倒的多数でしょう。)、そのようなケースでは、特に被告には弁護士がつかないケースが普通でしょう。例えば、100万円貸し借りしたことに争いがなく、返していないというケースでは、そもそも弁護士をつけても結論が変わらないのが通常です。
そういうことで、上記の理解は、地方裁判所と簡易裁判所の実態、裁判が紛争ではないケースでも起こされるという実態、いずれも看過しており不用意というほかありません。
病気で例えれば、「風邪という病気にかかっても病院に行かないことが多いのだから、癌にかかっても病院に行く必要はない」というような立論で、自分だけならともかく、他人を巻き込むのは迷惑な話です。
本人訴訟を絶対にやるな、とは言わないのですが、「本人訴訟が大部分だから大丈夫」みたいな言説を安易に信じてしまう程度のリテラシーでは、自分の正当な権利を守ることはできないでしょうから、本人訴訟をすることは絶対にお勧めしません。

Q42.匿名掲示板の投稿について,名誉毀損に当たるかどうか,同定可能性(本当にその人についての投稿であるのか)は,前後の投稿も考慮して判断されると聞きましたが,本当でしょうか。

基本的にはそうです。
名誉毀損の成否については,一般読者を基準として判断するというのが判例であり,あるいは現在の実務です。
そしてスレッド型の掲示板であれば,一般読者は問題の投稿一つだけを読む,ということはありません。通常はその前後の投稿も見ます。
ですから,一般読者を基準とする以上,一つの投稿だけではなく,前後の投稿も含めて,名誉権侵害のあるような投稿なのか,対象を同定できるのか,判断をするべきである,ということになります。
ところが,実はこれと反対,つまり別の投稿を考慮に入れることについて制限するという見解の裁判例も存在します
私としては,その妥当性には少し疑問がありますが,裁判例の説明も非常に論理的です。
ネット上の表現トラブルは,この論点に限らず,色々な裁判例がありますので,自分の主張を裏付けるものを的確に選ぶ,特に発信者情報開示に係る意見照会書の段階では重要である,ということがいえます。

Q43.現在,電話番号を発信者情報開示請求で開示される情報に省令改正で加える,という話があります。これで開示は簡単になるのでしょうか。

多少は簡単になるかもしれない,という位であって,飛躍的に楽になるとか,そういうことはありません
まず,そもそも電話番号の開示が認められると発信者の特定につながるのは,電話番号から住所氏名を割り出す方法があるからです。弁護士会照会という制度があるのですが,これは弁護士が,弁護士会経由で質問状を送るという制度です。法令に定めのある制度ですので,個人情報保護法などの例外として,適法に,個人情報を取得することができるというものです。交通事故事件で捜査資料を入手するとか,そういう活用もされています。
そうすると,電話番号の開示=氏名住所の開示ということで,強力な様に思えるかもしれません。
しかし,これを利用するには,前提としてプロバイダが電話番号を保存していないといけません。経由プロバイダ(接続に使うプロバイダ)は料金の決済のために住所氏名をもっていますので,わざわざ電話番号を聞く必要はありません(住所氏名を聞けばよい。)。ここで問題になるのはコンテンツプロバイダ(SNSや掲示板管理者)です。
コンテンツプロバイダが電話番号を持っているかというと,SNS事業者の中には,電話番号を認証のためにつかっていることもありますので,持っていることは珍しくはありません。
もっとも,電話番号を登録しなくても利用は可能ですので,必ずしもSNS事業者が電話番号を持っているとは限りません。
更に根本的に問題になるのは,ほとんどのSNS事業者は海外法人であるということ,そして電話番号の取得には,民事保全ではなくて,通常訴訟が要求されるであろうということです。
民事保全は略式で素早く手続きの進む裁判手続きです。特に海外法人の場合は便利で,通常訴訟ですと訴状を送達しないといけませんが,民事保全は,国際スピード郵便で申立書を申し立てた者が自ら送ればいいとされています。したがって,送達という国境を越えると途端に難しくなる手続きを使う必要はありません。
コンテンツプロバイダからIPアドレスを入手する場合には,「急がないと経由プロバイダからログが削除されてしまう」と主張して,民事保全手続きを利用することができます。民事保全は,急ぐ必要,これを保全の必要性といいますが,それがあることは必要なのです。
一方で,電話番号の場合は,「急がないと電話会社から記録が消えてしまう」という事情がありません。そうしますと,民事保全は使えずに,通常訴訟が要求され,その結果,訴状の送達に時間がかかる,ということになります。
しかも,電話番号をSNS事業者が有しているかは,外からはわからないという悩ましい問題もあります。
以上をまとめると,要するに「電話番号を得ることが出来る様になれば,確かに役に立つ。しかし,電話番号を持っているのはSNS事業者で,これはほとんど海外法人である。そして電話番号の開示を求める場合は,民事保全という略式の裁判ではなくて,通常の裁判が必要になる可能性が高い。民事保全と違って,通常訴訟は訴状の送達が必要なので,非常に時間がかかってしまう。おまけに,SNS事業者が電話番号をもっているかどうかはわからない。」ということです(まとめても長くなってしまいました・・。)。
もちろん,何か理由を付けて,あるいは立法で,電話番号の開示についても民事保全を利用可能にする,ということも考えられますが・・,ここまで来ると,ADRとか特別の裁判手続きを用意するべきだと思います。

Q44.創作に関するトラブルです。創作物について「パクリ」ということは名誉毀損になりますか?

これについて,立て続けに質問があったので,お答えします。
原則としてなりますが,裁判例は,かなり厳格に考えており,発信者情報開示請求が認められないケースもあります。
「パクリ」とは,創作物について剽窃,盗作をするということをいいます。
このような行為は,創作者としては不名誉なことですから,原則として,名誉毀損には該当します。
しかしながら,発信者情報開示請求においては,権利侵害の明白性が必要であり,単に不名誉な事実を投稿されただけでは,認められないケースも少なくありません。
そして,創作に関してはネット上の表現トラブルが非常に多いです。そして,中には「パクリ」であるとかなり揶揄して非難する内容であっても,発信者情報開示請求を否定した裁判例があります。
また,これ公にされた創作物が盗作つまりパクりであるかどうかは,社会の正当な関心事ということになりますので,真実であるとの証明か,少なくとも相当な根拠があれば,違法性が阻却されることになります。
「パクリ」の立証については,やはり,具体的な創作物などが証拠として重要になるでしょう。
また,一方で,このあたりの悪口については,裁判所はかなり消極,つまり発信者情報開示請求を認めない傾向もあります。「パクリ」呼ばわりについては,発信者情報開示請求を棄却した裁判例もあります。また,投稿の前後について,これを考慮するべきではないという裁判例(Q42)もあります。そうすると,自己の主張を補強する方向で裁判例を引用していくことも重要になる事案といえます。
このあたりは,最新情報も必要ですので,できれば,詳しい弁護士に相談をしてみるといいと思います。

Q45.傍聴とか事件が知られてしまうのですか?相手方が有名人で心配なのですが。 

この問題は,訴訟の内容を公にすることの適法性の問題と,そもそも第三者はどういうルートで知ることができるのか,という問題,それぞれ分けて考える必要があります。さらに,それを防ぐにはどうしたらいいのか?という問題もあります。
まず,訴訟の内容を公にする行為は,プライバシー侵害,名誉毀損の問題が生じます。紛争があるということは,普通は不名誉な事実ですし,プライバシーでもあるからです。ただ,社会の正当な関心事であるとして,適法化の余地があります。
よく言われるネットの法律知識ですが「裁判は公開!だから公開しても大丈夫!」はデマです。これについては裁判例もあり,裁判の公開の制度は,裁判所が法律の手続き内で公にすることを認めているだけであり,第三者が公にする行為を免責するものではありません。
次に,どうやって第三者が知るかについてですが,傍聴と記録閲覧,という方法がありえます。
傍聴により知るという点については,民事の裁判は,尋問でもない限り法廷でいろいろ話さないので,あまりこれで情報を得ることはできません。もっとも,本人訴訟ですと,提出書面が不十分・不明瞭であったり,あるいは,そうであっても意思確認をするため,裁判所は口頭でいろいろ尋ねます。ですから,そういうケースでは内容を知られるリスクがあります。
記録閲覧の点についてですが,これは,誰であっても裁判記録,この中には提出書面や証拠書類が含まれますが,それの閲覧を請求することができます。それにより知られる可能性があります。
では,これらの防ぎ方ですが,まず,記録閲覧について言えば,閲覧禁止を申し立てることが出来ます。
法律上,判例上,例外的な場合にしか使うことができない手続きなのですが,実務上,特にインターネット事件においては,やや緩やかな運用がされているというのが私の印象です。
更に,閲覧者は閲覧した記録が訴訟記録に残りますので,その覚悟がある人がいるか,という問題もあります。
傍聴については,これは基本的に防ぐことが出来ません。
もっとも,双方弁護士代理の場合,2回目以降の期日では,弁論準備手続きといって,非公開の会議室での手続きにしてくれることが大部分(経験上は9割以上)ですので,傍聴を防ぐことは可能です(法律上,この手続きにしてもらうのに弁護士を付けることは必須ではありません。ただ,本人訴訟の場合は,裁判所はトラブル防止や,あるいは書記官を列席させて口頭のやりとりを記録するためなのか,この手続きに付することは珍しいです。)。
以上まとめると,第三者に知られるリスクはあるけれども,公にされれば責任を追及できるし,防ぐ方法もある,ということになります。

Q46.「発信者情報開示に係る意見照会」に対して,開示に同意すると慰謝料が上がると聞いたのですが,本当でしょうか。また,逆に下がるとも聞いたのですが本当でしょうか。

いずれも不正確です。結論としては,慰謝料は基本的に動かないが,開示に同意することで発信者情報開示請求に使う弁護士費用が減少するので,その分賠償額が減る可能性は低いけれどもある,ということになります。
基本的に慰謝料というのは,日本の不法行為法上,投稿した時点で発生しているという建前です。ですから,事後の対応で大きく動くということは,基本的にありません(例外的な裁判例はあります。)。
ですから,開示に同意をしたり,同意をしなかったり,そういうことで投稿内容に変化があるわけないので,慰謝料が変動することはまずないでしょう。
一方で,発信者情報開示請求をした側からすると,ここで同意されると速やかに発信者情報を得ることができます。
裁判外で請求をしているのであれば,その後に続く裁判がいりませんし,裁判を起こしている場合であっても,速やかに取り下げで終了することができる,ということになります。
そうすると,弁護士費用が本来より安く済む,という可能性があります。
これは,投稿者(発信者)には関係なさそうですが,実は関係があります。
現在,いろいろと見解は分かれていますが,発信者に,慰謝料だけではなくて,発信者にたどり着くまでに使った弁護士費用も請求できるという考えがあります。
ここで請求できるのは,あくまでも実際に弁護士に支払った金額です。そうすると,開示に同意をすることで,請求者が使う弁護士費用つまりは請求できる費用も安くできる,つまりは賠償額も減額できる,という可能性がある,ということです。
もっとも,このあたりも裁判例があるのですが,裁判を起こした後に同意をしたケースで減額を否定した事例があります。また,そもそも,開示に同意をされた場合に弁護士報酬が減額される,というような契約がなされることも稀です。
もちろん,開示に同意することで請求者の支払総額が減少するということで,和解交渉がしやすくなる,というメリットはあります。ありますが,確実ではありませんし,本来開示されないのにこれで応じてしまうとやぶ蛇ということになります。
そうすると,基本的に開示に同意するメリットは少ないといえるでしょう(最もケースバイケースです。一部,そちらのほうが,明らかに賠償請求の段階で有利になるケースもあります。)。

Q47.発信者(投稿者)です。プロバイダが裁判を起こされた,ということで,発信者情報開示請求に関する意見照会が届いて,拒否で連絡をしました。しばらく時間がかかると聞いているのですが,進捗などは教えてくれるのでしょうか。

原則として教えてもらえません。開示になった場合には,連絡をしてくれることが多く,非開示の場合は,連絡をしないことも珍しくありません。
まず,そもそもの問題として,裁判はプロバイダに依頼された弁護士が行います。弁護士からすると,発信者は依頼者ではないので,特に報告をする義務を負いません。
また,訴訟の進捗を報告するというのは,相当に労力がかかるということです。また,その報告に対して,訴訟進行についての要望が出されるのであれば,なおさらのことです。
そういうことで義務もないし,プロバイダの弁護士も,そのインセンティブがないので,進捗は報告されない,ということになります。
なお,私は,プロバイダの弁護もやっていますが,やはり,そういう扱いをすることが通常です。
プロバイダによっては,問い合わせが余りに多いので,「プロバイダとしては訴訟進捗については問い合わせに応じられない。今後について,よくある質問は『パンフレット』を同梱したので,それを見て欲しい。それ以上は,自分で弁護士に相談を」と意見照会に案内を同封することもあります。
どれくらい時間がかかるか,このあたりは,事件次第ですが,短くても3ヶ月弱,長いと半年とか,もっとかかることもあり得ます。
このあたりは,プロバイダの応訴態度次第です。また,意見照会への回答が手厚いかどうか,も,かかわります。
私がプロバイダを担当する場合は,比較的,争うべきケースはしっかりと争うことにしています。スラップ的なケースも,最近は無いわけではなく,その場合,表現の自由は守る必要があるからです。また,そうすることが,プロバイダのブランドを守ることにもなります。
もちろん,無用な争い(方)はもちろんしません(過去に,それで賠償責任を負担することになったプロバイダもあります。)。

Q48.Q47について,プロバイダが,プロバイダの弁護士に支払った弁護士費用は請求されるのでしょうか。

実例は聞いたことがありません。理論的には,どちらも考えられます。
プロバイダが発信者情報開示請求訴訟を提起されたのは,発信者の投稿が原因です。また,実質的に,プロバイダは,発信者の個人情報を守るために,応訴するということになります。そうすると,実質的には弁護士に依頼するのは,発信者のためである,ということになります。
そうすると当然の帰結として,発信者がプロバイダの弁護士費用を負担するべき,ということになります。
一方で,プロバイダが発信者情報開示請求に対応をしないといけないのは,条理上(社会通念上の帰結)の義務です。自らサービスを提供している以上は,それに関わる紛争は,自己の負担で争うべき,ということになります。
私としては,格別に違法な投稿であれば別格,そうでない場合は,発信者に費用負担義務はないのではないか,と考えていますが,まだまだ理論的に詰められてはいません。
なお,プロバイダによっては,弁護士費用負担を予告する,つまり,「今後,訴訟に使った弁護士費用を請求するかも」みたいなことをいうところもあります。そういうプロバイダは,裁判外でも開示する傾向があったりもします。
ただ,少なくとも,今のところは,現実に請求したとの実例に接したことはありません。
このあたりは,プロバイダ毎に区々ですので,先例も活用しつつ,対応が必要な分野です。

Q49.「この人,○○したんじゃないの?」の様な,疑問形での投稿について,発信者情報開示請求は認められるでしょうか。

立て続けにこの質問がきたので,お答えします。
こちら,意外にも認められない傾向があります。一般読者の感触として,その疑問部分が真実と取られかねないかというと,基本的には難しいからです。
さらに,Q42でも触れましたが,「前後の投稿を考慮する」という見解に対して,反対の判断をした裁判例もあります。
これら,つまり,疑問形なら権利侵害の明白性はない,かつ,前後の投稿を考慮するべきではない,という判断を組み合わせると,この種投稿で発信者情報開示請求を認めてもらうのは,かなり難しい,ということになります。
ただ,上記の考えは,被害者からすれば,少し不合理です。ですから,反対の結論も十分にあり得るので,トライする価値はあるでしょう。
更に,裁判所は全ての裁判例を知っている訳ではなく,しかも,この手の事件での判断はその事例限りの,いわゆる事例判断がほとんどです。
「裁判所は,判例にしたがって判断する」という思い込みは,この種事件では,ほぼ誤りです(Q11,Q26,Q41参照)
ということで,自分の事案に適用できる,かつ,こちらの主張に沿う裁判例を的確に引用することが,発信者情報開示請求訴訟と,慰謝料請求訴訟での,重要ポイントになるといえるでしょう。

Q50.遅延損害金って何ですか?名誉毀損は普通は認められないって聞いたのですが。

遅延損害金とは,本来,金銭を支払うべき期限より支払が遅れた場合に,遅れた期間に応じて発生する債権です。そして,その聞いた話は大嘘です(立て続けに,このデマに騙されている相談があったので,念のため。)。
どんな債務でも,その履行が期限より遅れた場合には,その損害を賠償する責任があります。たとえば,イベントまでに必要な機材が届かない,というのであれば,それでイベントが遅れる,中止になった場合の損害を賠償する責任があります。
そして,これは金銭債務でも同様です。
もっとも,金銭については,代替性があります。ですから,お金が届くのが遅れたからどれくらい損害があったのか,それの算定は困難です。
そこで,法律上,金銭の支払いの遅れについては,遅延損害金ということで,機械的に発生することが原則となっています。
では,名誉毀損の場合は,どうなるのでしょうか。
名誉毀損の場合は,不法行為に基づく損害賠償債務,ということになります。
こういう損害賠償債務については,その不法行為があった日が,支払期限になるとされています。
ネットの投稿であれば,まさに投稿をした日が支払期限であり,そこから遅延損害金が発生することになります。
その金額ですが,令和2年3月31日までは年利5%,4月1日以降は年利3%になります。判断基準は,あくまで投稿をした日です。投稿をした日から発生しますし,かつ,5%か3%の切り分けも,投稿をした日で決まります。
今の超低金利時代からすると,結構な高率ですが,金額的には高額になることは稀でしょう。
名誉毀損だから認められない,なんてことはありません。むしろ,不法行為に基づく損害賠償債務ですから,他の債権よりはるかに発生しやすい(というか,発生しないケースは想定出来ない),ということになります。

Q51.投稿者(発信者)ですが,発信者情報開示請求がされ,開示がされました。内容証明郵便で金銭を請求されたので,「裁判判決に従います」とだけ書いて返事をしました。もう半年くらいになりますが,諦めたと考えていいでしょうか。

その可能性もありますが,まだまだ提訴されるリスクはあります。民事の時効は,相手方が被害と加害者を知ってから3年であり,名誉毀損罪の告訴の期限は,知ってから半年以内,ということになっています。
ただ,後者についていうと,あくまで,告訴の期限であり,捜査機関が動く期限ということではありません。ですから,5ヶ月経過後に告訴,そしてその3ヶ月後つまりは8ヶ月後に捜査機関から呼び出しを受ける,というリスクはあり得ます。
また,あえて提訴を待つケースはありえます。典型的なのは,大勢で投稿し,大勢に対して発信者情報開示請求が為された事案です。
まとめて訴えてしまえば,手間暇は大幅に削減出来ます(極端な場合,5人を同時に訴えて,一人を訴える場合と比べても手間暇は1.5倍程度で済むことすらあります。そうすると,一人当たりのコストは3割程度ということになります。)。ですから,大勢に裁判外請求をして,それで,応じないのであれば,その人数が一定に達した後に提訴する,ということもよくあることです。
このあたりは,周辺事情や,相手方代理人の書面などから,ある程度予測が出来ることもあります。
なお,「裁判判決に従います」というような返事をするのが一時期流行っていましたが,本人が出すと不利な証拠に使われる可能性も高いので避けるべきです(Q18参照)。

Q52.投稿の賠償金については「仮差し押さえ」できるの?/「賠償金を払わないと仮差し押さえするぞ」といわれたんだけれども。

できません。絶対ということはいえないのですが,まず仮差し押さえは不可能です。
仮差し押さえは,基本的に,「金銭支払の請求権を保全するために,正式な裁判抜き,支払義務者の意見を聞かずに,財産を凍結する」という手続きです(わかりやすく大雑把にいっています。)。
これが認められるのは,財産隠しや費消のリスクがあるとか,あるいは,払ってもらわないと生きていけない(賃金など)というケースであることが基本的に必要です。加えて,もちろん,権利の存在についても疎明(証明の簡単なもの)が必要です。
ネットの投稿については,そもそも,投稿者が財産を隠すとかそういう事情を見いだすことは難しいでしょう。
また,慰謝料がすぐに得られないとこまるとか,そういう事情も基本的には考えがたいです。
ですから,仮差し押さえができる可能性はほとんどないでしょう。そういう請求方法は,一種の脅しではないか,とも思います。
そもそも,仮差し押さえは一種の奇襲ですから「奇襲するぞ!」って言い出すような話で,奇妙な請求の仕方であるともいえます。
もちろん,ケースによってはできるかもしれませんが,少なくとも私は,そういうケースには一切触れていません(こういう請求を受けている人の代理はなんどもやりましたが,全部,口だけなケースでした。)。

Q53.「発信者情報開示に係る意見照会書」に対して,開示に同意で回答すると,その後の権利侵害を争えないって本当?

いいえ,そんなことはありません。
開示に同意するということは,自分の情報を開示することに同意をするというだけで,違法性について認めるとか,そういう意味までは含まれないからです(もっと,開示に同意する文脈次第,というところもありますが・・。)。
そもそも,違法性云々については,これは法的評価ですので,その後の裁判所の判断を拘束することはできません(当事者の事実に関する主張は裁判所を拘束するが,法解釈や法的評価については,裁判所を拘束しない,というのが訴訟の原則です。)。
もちろん,実際に同意してメリットがあるかどうかですが,早期解決,請求者の開示費用が安くなるので,特に開示費用の負担が命じられやすい傾向のある本人訴訟で挑む場合はメリットである,という点があります。
一方で,開示に同意をしても開示費用の負担が命じられた裁判例もありますので,このあたりは,微妙なところです。照会書をよく読んで,事情を分析することが大事でしょう。

Q54.請求者側:投稿者を見つけ出し,賠償請求訴訟を経て,判決が確定しました。しかし,払おうとしないし,差し押さえるべき財産も見当たりません。財産開示とかいう制度があるみたいですが。/発信者側:判決が確定しましたが,払いたくありません。どういう差し押さえのリスクがあるでしょうか。

メール等で頻出の質問です。結構前から聞かれています。ただ,ネット上の表現トラブルプロパーな話ではないので,書くべきか迷いましたが,最近また多いので,お答えします。
ただし,悪用・誤用を避けるため,一部省略しています。この手の話は,弁護士もあえて積極的に発信しないのも,そういう理由があるのではないかと思います(ただ,このQ&AではQ18,19など,かなり突っ込んだ話もしています。また,差し押さえについても,調べれば分かることばかりかもしれませんが・・・。)。差し押さえについて,ご自身の個別の案件については,弁護士に相談することを強くおすすめします。
まず,賠償を命じる判決が確定しても,自動的に支払いが行われるわけではありません。被告が支払わないのであれば,原告は差し押さえをしないといけません。このように強制的に判決の内容を実現する手続きを民事執行といい,差し押さえる側(基本的にもと原告)を債権者といい,差し押さえられる側(基本的にもと被告)を債務者といいます。
さて,差し押さえの原則ですが,これは債権者が債務者の特定の財産を特定して指定する必要があります。裁判所に,「とりあえず,何でもいいので,差し押さえてください。」ということはできません。どこの銀行であるとか,どの不動産とか,給料ならば,どこからもらっている給料か,要するに勤務先を指定する必要があります。
これらは他人の財布の中ですので,そう簡単にわかりません。差し押さえが大変だというのは,まさにこの点です。
また,差し押さえについては,基本的に裁判とは別の契約が必要で,更に弁護士費用を費やす可能性もあります。これは,債権者にとっては大変なことです。
もっとも,このような状態は,あまり正義にかなう,というものではありません。判決が紙切れになる,ということですから,これは法治国家にとって由々しき事態です。
そこで,財産開示という制度が導入され,さらに今年の4月1日から,より強力な手続きになりました。
基本は債務者に刑事罰の強制力付きで,裁判所への出頭と,財産内容の説明を義務づける,というものです。他にも,裁判所から銀行等へ問い合わせを出す,という手続きも新設されました。
ネット上の表現トラブルとの関係では,(中略1)という制度も重要です。これがあると無いとでは,大幅に債権者の立場,強さがはるかに違います。債務者も「踏み倒す」ことはかなり難しくなるでしょう。これについては,(中略2)を見れば,割合,容易に分かりますので,ちゃんと確認しておくべきです。
更に,他にも財産を調べる方法があります。典型的なのは弁護士会照会です。これは,弁護士「会」照会とあるとおり,弁護士が弁護士会経由で質問状を特定の団体に送る,というものです。弁護士会を経由するのは,弁護士会がその質問をしてもよいか,審査をするからです。
これは,個人情報保護法に優先し,通常,秘密にされている情報も(正当な理由があれば)得ることができます。
民事執行との関係では,銀行に対して,口座残高などの情報を質問する,というのがよくある活用方法です。
以前は,なかなか銀行は応じてくれませんでした。特に,(中略3)の銀行は,なかなか応じてくれず,逆に(中略4)の銀行は,応じてくれる傾向がありました。
現在は,かなりの割合の銀行が,(中略5)のハードルさえ超えれば応じてくれますので,大分債権者には有利になったといえるでしょう。
また,この点について,そもそも(中略6)のケースですと,大幅に差し押さえが容易になります。最近かなり増えている,意外とあることなので,ちゃんと確認するべきです。
弁護士会照会は,まだまだ弱点もあるのですが,財産開示とことなり,一切債務者に知られないままに進めたられるというのが,最大のメリットです。判決の確定で時効は10年に延長されますので,いつでも,積もり積もった遅延損害金と一緒に,差し押さえをするチャンスをうかがう,ということになります。
いろいろ述べましたが,やはり差し押さえで一番効くのは給与の差し押さえです。一度押さえれば,継続的に回収出来るからです。
ですから,債権者にとっては債務者の勤務先を知っているかどうか,債務者にとっては債権者に知られているかどうか,これが大事になってきます。

Q55.コロナ禍の影響で,裁判が遅れています。これは,原告と被告,どちらに有利でしょうか。

まず,ネット上の表現トラブルに限定せず一般論をいうと,どちらに有利かどうか,ということはあまりないと思います。
結論が先に伸びるだけであり,結論が出ることには,変化はないからです。
さて,まず,原告の立場からいうと,結論が伸びれば,遅延損害金(Q50)が増加します。
年利で3%または5%ですから,市中の金利よりはるかに高額です。
そういうことで,法的理論的には,原告が有利ということは一応いえます。
一方で,事実上の問題として,原告からすれば,現在,現に存在する権利の実現が遅くなるわけで,それまでに事情が自分に不利に変化する,たとえば,すぐにお金が必要なのに手に入らなくて経済的に破綻する,逆に被告がそうなる,という問題があります。
現在存在するはずの権利の実現に時間がかかってしまうのは,原告にとって負担なことであり,不利なことです。
被告は,上記の遅延損害金の問題はありますが,後回しにできるので,それは有利なことかもしれません。ただ,個人であれば,それまでの精神的な負担,という問題もあります。

そして,上記の他,ネット上の表現トラブルにおいては,時間がかかることは,請求する側つまり原告にとって不利で,請求される側つまり被告にとっては有利になることが多いです。
このあたりは,詳しくは差し支えるので,あまり書けませんが,時間がかかった案件ほど,最終的な「解決金額」が低く(0円も含む!)なる傾向があります。
なお,上記は賠償問題の話です。発信者情報開示請求においては,仮処分においてはコロナ禍でもあまり長引かないようになっていますし,経由プロバイダへの開示請求は,いくら遅れても,そもそも経由プロバイダは一度請求を受けると,原則としてログを削除しませんので,問題は基本的にありません。

Q56.仮処分だと発信者情報開示は簡単に認められるのですか?一方の言い分しか聞かないから簡単だと聞きましたが。

間違いです。基本的に,プロバイダの意見も聞きますし,聞かない場合,そして聞く以前から,かなり裁判所は慎重に判断します。
仮処分(民事保全手続き)を利用した発信者情報開示請求においては,概ね,次のような流れとなります。
最初に,申立書を債権者(申し立てる側,請求者を民事保全手続きではこういいます。)が裁判所に提出します。その上で,債権者と裁判官とが面接し,内容について話し合いを行います。裁判所としては,発信者情報開示請求を認める可能性が相当程度あるのであれば,債務者(申し立てられた側,プロバイダを,民事保全手続きでは,こういいます。)を呼び出して,その意見を聞く,という流れになります。
つまり,仮処分でも,プロバイダの意見を聞くのが原則です。ですから,一方の言い分だけで簡単に認めるというのは誤りです。
そもそも,発信者情報開示請求の仮処分は,仮の地位を定める仮処分といわれる中でも,断行の仮処分といわれるものです。
これは,「仮」処分であっても,債権者がそれによる満足を得る,つまり,正式な裁判と同じ結果を得ることができるという類型です。それもあってか,裁判所は,相当に慎重に判断します。
全く開示の見込みがなさそうなら,そもそも債務者つまりプロバイダを呼び出さない,取り下げを促す,ということもあり得ます。
民事保全というと,一方の言い分だけで決定を出しているかのように思えますが,それは,金銭債権の保全のための仮差し押さえなどのケースです。本件には当てはまりません。
ネット上の法律情報の中には,形式的・表面的な用語をネットで検索してなぞった結果,誤りに陥ることが多いのですが,これも,その類いであるといえるでしょう。
おそらくは,「仮処分で開示されたけれども,これは簡単に開示されているんだ!だから,自分はまだ大丈夫!」と安心したい人が流布する・飛びついているのでしょうが,実際は異なります。これまでも何度か触れてきましたが,ネットで自分に都合がいいデマをかき集めることは,状況を不利にし,相手方を有利にするので避けるべきです。
なお,事案によっては,プロバイダを呼び出さないケースもあります。ありますが,そのようなケースでも,裁判所は,言い分を聞かないからこそ,その点も踏まえて,慎重に判断します。
おって,発信者情報開示請求に係る意見照会ができない,できても不十分,ということで,真実性が問題になるケースでは,開示されやすいケースもあります。ありますが,とても,「一方の言い分だけで決定するから,簡単に開示される」というわけではありません。

Q57.家族が契約している回線で書き込んだら,誰がどんな責任を負うことになるのですか?契約者は?投稿者は?立証責任は原告(請求者)にあるからシラをきれば大丈夫?

Q20で説明をしていますが,発信者情報開示請求では,回線契約者が投稿者つまり発信者でなくても,契約者の氏名住所の開示が認められることになっています
なお,実務上,プロバイダが任意に,発信者情報開示請求事件に関する意見照会の際に,投稿者と契約者が違う場合はこれを使うようにと,独自の回答書を用意しているケースも珍しくはありません。
この場合は,契約者ではなくて投稿者の情報が開示されることになりますが,法的に正しい扱いであるかというと,少し疑問がないではありません。
さて,責任の問題ですが,基本的に回線契約者には責任はありません。投稿者についてだけ責任がある,というのが原則です。
次に,立証責任の問題ですが,もちろん,請求者には誰が何を投稿したかの立証責任があります。これが立証出来なければ,賠償請求は棄却される,つまり1円も認められない,というこになります。
そうなると,契約者が自分は投稿していない,と言い張れば,それで勝てそうに思えますが,そんなことではありません。
ネット上の法律情報でよくある勘違いなのですが,立証責任がある,証明しないと請求が認められない,ということと,証明の程度や方法は別の問題です。
証明の程度については,一点の疑義も許されないような自然科学的な証明は必要ではありません。
基本的に,通常一般人が疑いを差し挟まない程度に確からしい,という程度で足ります。
また,証明の方法についても,特に民事裁判においては非常に自由です。ある事実を推認させるような前提事実,いわゆる情況証拠を沢山集めて証明することも,(これは刑事事件もそうですが)よく行われます。
ネットの投稿ですと,回線の契約者というだけで,相当程度,その人が投稿者であることが推認されます。他の誰か,例えば家族の投稿ということであれば,その年齢とかから情況証拠を重ねていくことになります。
Q20でも触れましたが,契約者以外が投稿者として認定された事例もありますし,不正アクセスの主張が認められて責任が否定されたケースもあります。
特に,投稿者でないにも関わらず契約書ということで意見照会がなされた,そこから投稿者であることを否定するのであれば,発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いた段階から,いろいろと準備をする必要があります。このあたりは,ちゃんと弁護士に相談をした方がいいでしょう。
なお,この問題については,法曹向けの専門書ですが「インターネット権利侵害 削除請求・発信者情報開示請求“後”の法的対応Q&A」のQ71からQ73でも解説しています。

Q58.発信者情報開示請求をやるぞ!といわれているのですが,これについての発信者情報開示請求に係る意見照会書は,いつ頃届くのでしょうか。

事案によりますが,仮処分の場合(掲示板やSNS事業者からIP開示を求める場合)は,申し立てから1週間から10日程度の場合が多いです。
私はプロバイダの弁護もすることがありますが,仮処分の場合は,プロバイダに裁判所から連絡があった時点で,2週間程度しか時間がありません。ですから,大急ぎで,意見照会をすることになります。
逆に,訴訟の場合(インターネット接続サービスを提供するプロバイダに,住所氏名の開示を求める場合)は,訴状が送達されてから1ヶ月以上は余裕があります。ですから,そこまで急ぎません。
また,原告が訴状を出した後,裁判所から修正を求められるので,すぐに送達というわけには行きません。
もろもろ含めると,訴状を出してから3週間程度が平均ではないか,と思われます。
なお,以上の予想は,海外会社であるとか,いろいろな事情で変化しますので,あまり意味のあるものではありません。改めて記録を確認してみましたが,結構バラバラです。コロナ禍の現状でいえば,なおさらです。
タイミングによっては,「連休中に来た!弁護士の陰謀だ!!」とか思われる方もいますが,そのような調整は容易なことではありません。
法的紛争,特にネット上の表現トラブルにおいては,「ネットde真実」に目覚めてこういう陰謀論にハマりやすいのですが,自分が不利になるだけですので注意しましょう。

Q59.企業に関する投稿についてです。暴言やパワハラ,不祥事などについての投稿なのですが,それについての証拠がありません。こういうケースでは,どのように判断されるのでしょうか。

結論から言うと,説明の巧拙がポイントになります。
通常の名誉毀損の場合,「社会的評価を低下させる表現でも社会の正当な関心事であり,真実性ないし相当根拠があれば適法」というルールがあります。
企業について,顧客や従業員への暴言とか,パワハラ,不祥事については,基本的に社会の正当な関心事とされます。裁判例もほぼその傾向です。
となると,この種の企業の不祥事等の場合,発信者情報開示請求が認められるかどうかは,相当根拠があるかないか,という勝負になります。
ここでややこしいのですが,一般的な名誉毀損と,発信者情報開示請求において求められる名誉毀損とでは,実はハードルの高さが大きく異なります。
一般的な名誉毀損であれば,社会の正当な関心事であり,かつ,真実性ないし相当根拠があることは,表現者において主張立証しなければいけません。これは当たり前のことで,要するに,裏を取ってから発信しなさい,ということです。
しかし,発信者情報開示請求における名誉毀損の場合は,その要件が異なります。
発信者情報開示請求をする側において,社会の正当な関心事でないか,相当根拠もない,という主張立証が必要になります。企業の不祥事等の場合は,社会の正当な関心事であることを否定することは難しいので,実質的には,後者,つまり真実でない,相当根拠もない,という主張立証が必要になります。
存在しないことの証明は,悪魔の証明であるなどといわれるとおり,非常に大変なものです。実務上,そういう事実の存在が窺われない程度,であればよいという扱いですが,それにしても大変です。
実際には,従業員教育であるとか,社内体制であるとか,そういうものを根拠として出すことになります。
一方で発信者側,この時点では発信者情報開示に係る意見照会書を受け取っていますが,その回答書においては,真実でないとはいえない,相当根拠もないとはいえない,という程度の主張立証が必要であり,それで足りる,ということになります。
これは非常に重要なポイントです。普段と立証責任が逆だから,請求者企業としては大変でしょうし,発信者としては発信者情報開示に係る意見照会の回答次第で,開示を阻めるチャンスが十分にあるからです。
請求者側としては上記の通りの証拠を出すことになります。
問題は,発信者側です。暴言であるとか,ハラスメントは,録音録画があるわけではないことがほとんどです。そうなりますと,真実ではないとはいえない,相当根拠もないとはいえない,とするのは,難しそうです。
ですが,裁判所もこのあたりの問題意識はあります。なぜなら,発信者側に根拠や真実性を求め過ぎると,職場の不満とか,接客の問題とか,カメラやレコーダーを持ち込んだ客でもなければ,一切否定的なレビューが出来なくなり,不合理極まりないからです。
ですから,客観的証拠がなくても,発信者情報開示に係る意見照会の回答において説得的に主張をすることで,開示を阻めるチャンスは十分にあります。
実際に私が発信者側で担当した案件でも,お店の店長が,客のことを底辺呼ばわり,動物並みであるかのような暴言をしていた,という事案で,何ら物的証拠はなかったのですが,その立証を工夫して非開示の判決が得られたケースもあります。
こういうケースでは,裁判所を十分に説得出来る ,説得的迫真性のある書類が作れるか,というのがポイントになります。
逆に,請求者企業としては,上記のリスクは重大でしょう。特に判例データベースには,企業名の実名が掲載されることが通常ですので,お客さんに向かって,酷い暴言を吐いていた,それが真実らしいと,裁判所で認定されてしまった,ということになるからです。
これは,下手すれば投稿そのものより企業の社会的評価を低下させかねない,ということになります。
ですから,弁護士としては,企業側で発信者情報開示請求をする場合は,上記リスクを踏まえて慎重な検討が必須ということになります。

Q60.発信者情報開示請求に係る意見照会書が届きました。開示に同意しようかと思いますが,メリットを教えてください。逆に,しないほうがいいのでしょうか。迷っています。

基本的におすすめ出来ませんが,内容次第でしょう。明白に違法である,開示が認められる蓋然性が極めて高いのであれば,開示に同意をすることもあり得ます。
開示に同意をした場合のメリットは,①早く済む可能性がある,②相手方の被害感情が改善する可能性がある,③開示費用が負担になった場合の賠償額を引き下げることができる可能性がある,ということがあります。
しかし,いずれも,確実なメリットではありません。
①についてですが,早く済むことは,こちらにとってのメリットではありますが,相手にとってのメリットでもあります。ですから,これで有利になる,ということではありません。
また,②についてですが,通常,この手の事件の被害者(被害を受けたと主張する者)の被害感情は,極めて峻烈です。同意をしたからといって,これが改善すると期待することは厳しいでしょう。むしろ,当然だ,と思うだけの可能性が高いでしょう。
次に,③ですが,Q12,Q34で解説しましたが,法的紛争においては弁護士費用は各自負担が原則です。ですが,発信者情報開示請求の場合,開示に使った弁護士費用を損害額として,慰謝料とは別に請求出来る,という考えがあります。
ただ,あくまで請求出来るのは,当たり前ですが実際に使った費用です。
ですから,開示に同意することで,相手方が費やすであろう弁護士費用を下げて,負担を命じられ場合の金額も減らす,あるいは,裁判前の交渉をスムーズに進める(相手方が使う弁護士費用が下がれば,損益分岐点も下がりますので,少ない金額で和解出来る可能性も上がります。),という考え方もあり得ます。
しかしながら,たとえば裁判になっていた場合,その時点で開示に同意しても,それは途中で裁判が取り下げで終了をするだけで,提訴に使った費用,労力は戻ってきません。となると,弁護士費用が安くなる可能性も低いでしょう。
逆に,裁判外請求の時点で開示に同意をするのであれば,裁判までもつれた場合よりも,弁護士費用は大幅に安くなる可能性もあります。
ただ,相手方がどういうシステムで弁護士費用を負担しているか,ということはこちらからは分かりません。加えて,現在,ネット上の表現トラブルにおいて被告側(賠償請求された側)が,弁護士を付けて徹底的に争えば,開示請求の弁護士費用の実額そのものの負担は命じられないケースが大部分です。
そうなると,開示請求について同意することによる経済的メリットは少ない,といえます。
逆に,メリットがそれなりに見込めるケースとしては,訴訟になれば開示される可能性がかなり高いこと,裁判外請求の段階であること,相手方が弁護士を付けていて訴訟による開示請求がされる可能性が高いこと,発信者としては最後まで弁護士を付けない本人訴訟でやるつもりであること,という場合が考えられます。
つまり,かなり稀なケースであるといえます。
なお,Q46とQ53で触れましたが,開示に同意したからといって賠償義務・違法性を争えなくなる,ということはありません。また,慰謝料本体が変化する可能性も非常に低いでしょう。

Q61.誹謗中傷って刑事告訴できるの?/されたらどうなるの?

投稿により被害を受けた方だけではなく,発信者(投稿者)からも非常に多い類型の質問です。
まず,刑事告訴というものについて説明します。簡単にいうと,これは,被害者が捜査機関に対して,特定人(不明を含む。)の犯罪を申告して処罰を求める行為,をいいます。
そもそも刑事事件というのは,(法的には)加害者と被害者の問題ではなく,国家と加害者の問題です。国家が刑事罰を加害者に科すものであって,形式的には,被害者は,この関係に入っていきません。
ただ,被害者は実質的にはまさに当事者です。そこで,被害者の意向を一定範囲で反映するために,刑事告訴という行為(制度)が存在するわけです。
もっとも,あくまで,刑事事件というのは国家と加害者との関係の問題です。ですから,刑事告訴をしたからといって,国家において,必ず処罰する義務があるわけではありません(そもそもえん罪かもしれません。)。
刑事告訴の対象になるのは,犯罪です。誹謗中傷罪という罪はありませんので,問題は,名誉毀損等になります。
ですから,誹謗中傷が名誉毀損に該当すれば,刑事告訴は可能である,ということになります。
名誉毀損とは,事実(嘘を含む。)を摘示して,社会的評価を低下させる表現を行うことをいいます。
いわゆる悪口であれば直ちに名誉毀損になる,ということではありません。自分が読んでどう思うか,というのではなくて,一般読者が読んでどう思うか,がポイントです。これは,法律相談の時でもよく強調するのですが,読まされる被害ではなくて,読まれる被害がポイントということです。
もっとも,実際に刑事告訴したとして,そして名誉毀損罪が成立しているとして,捜査機関が動くとは限りません。
実は,警察への相談の中でも,名誉毀損というものは非常に多いそうです。ということで,捜査機関は,それなりの悪質性がないと,なかなか動いてはくれない,というのが実情です。
もっとも,最近は,誹謗中傷問題への注目が高まるにつれ,捜査機関の動きもよくなりつつあります。ですから,難しいとはいえ,決して不可能ではないともいえます。
期間制限の問題については,Q51を参照してください。
投稿した側からすると,刑事告訴されたらどうなるか,という問題があります。
通常の事件と同じく捜査を受けることになります。
これは一般的な傾向の話ですが,逮捕される可能性はほとんど無く,家宅捜索される可能性も低く,ただ,電話で呼び出しをされて取り調べを受ける,処分としては,起訴猶予か罰金数十万円程度,というのが中心です。
もっとも,程度問題ですので,過度の類型化は禁物です。
発信者情報開示請求との関係ですが,通常は,発信者情報開示請求をして,手に入れた情報により刑事告訴をします。
もっとも,投稿内容によっては,発信者情報開示請求がうまくいかないケースもあります。ですから,これらを組み合わせる,あるいは,そもそも発信者情報開示請求をせずに,捜査機関の方で調査してもらう,という方法もありえます。
実際に私も,IPアドレスの開示だけをうけて,住所氏名については不明のまま警察に捜査をしてもらい,その上で,刑事告訴をした,というケースもあります。
この場合は,発信者情報開示請求に係る意見照会書が届かないまま,捜査機関からの呼び出しを受ける,ということになります。
誹謗中傷と刑事告訴の問題については,かなりネット上ではデマが多いです。
悪質性はもちろんのこと,悪質性のベクトル,つまりは方向も刑事処分になるかどうかでは,大きな影響があります。
ですから,かなり悪質であっても刑事事件にならない,さほど悪質ではないけれどもなる,ということがあります。
これは,投稿のテーマなどの事情が影響しますので,個別に弁護士に相談をするといいでしょう。
また,少し別の話になりますが,最近は,安易に「刑事告訴!即刻告訴!」と高圧的に内容証明郵便で予告するが,実際はしない,驚かして高額な和解に誘導しようとしているのではないか,と疑われるケースもあります。
このあたりは,内容証明郵便の文面を見れば分かることもありますので,あまり慌てず,早めに弁護士に相談に行くべきです。

Q62.発信者情報開示請求について,最近は,裁判外請求をしないので,最初からいきなり訴訟するケースが増えていると聞きましたが。

あくまで経験からの感想ですが,そういう傾向はありません
むしろ,裁判外請求からはじめる割合が多いです。
たしかに,特に経由プロバイダは,裁判外請求で発信者情報開示をすることはほとんどありません。
そうなると,裁判外請求をしても無駄な様な気がします。
ですが,Q38で触れたとおり,ログの保存期間には限りがありますので,その保存を要求する必要があります。
すなわち,どうせプロバイダには連絡をしないといけないので,発信者情報開示請求を任意で(裁判外で)行い,そのときに,ログの保存もお願いする,という扱いです(大部分のプロバイダは,ログの保存には応じてくれます。)。ただし,一定期間内に提訴しないと消去する扱いです。
なお,プロバイダが任意にログを保存してくれない場合,民事保全手続きでログ保存の仮処分を求めることになります。
また,最近は,発信者情報開示請求に対して,これに同意するケースも,多くはありませんが存在します。
もし,同意が得られれば,裁判が不要になり,かなり手間が省けますので,そのあたりを期待しているともいえます。

Q63.現在,発信者情報開示請求訴訟は止まっていると聞きましたが(だから,訴訟結果に関する情報はデマだと聞きましたが。)。

そんなことはありません。随時,期日は入っていますし,むしろ,他の事件よりも進みやすいと思います
中には,「発信者情報開示請求訴訟なんて下らない事件である。下らないので後回しである。下らないから書き込んだ自分は大丈夫(?)」みたいな思い込みに陥っているケースがあるようです。
ただ,どんな事件でもそうですが,例えば,残業代未払いやセクハラ事件などの使用者・加害者側でも顕著なのですが,「自分を相手方とする事件は下らない。そんな事件をやる弁護士も下らない。」みたいな思い込みをしても,無意味です。
下らないから大したことない,だから請求を受けている(被告)側の自分は大丈夫,と思い込みたいのでしょうが,判断を鈍らせることになり,自分に不利な事になりかねませんので注意が必要です。
むしろこういう思い込みをしている方は,(しばしば大きく)負け筋であったりします。
さて,少し話がそれましたが,発信者情報開示請求のコロナ禍の影響については,少し古いものですが,「発信者情報開示請求と緊急事態宣言」も参照してください。
これは,裁判所毎,もっといえば,各部毎の対応になっていますが,全体的に,発信者情報開示請求訴訟は裁判期日が入りやすい,という傾向があるようです。
これは納得のいくことなのですが,極力裁判所に人を呼びたくない,となると,証人尋問がある事件は後回し,というか期日がなかなか入らない,ということになります。
一方で,発信者情報開示請求訴訟の場合は,証人尋問は基本的に不要です。そうなりますと,やはり期日を入れやすい,ということになります。
更に,東京地方裁判所では,発信者情報開示請求訴訟は,単独つまり裁判官1名で行うケースがほとんどです。そして,ほとんどの開示請求訴訟は東京地方裁判所です。
裁判官一人となると,予定も立てやすい,ということで,ますます期日は入りやすい,ということになります。
そういうことで,全体的に裁判は遅れ気味ですし,発信者情報開示請求訴訟もその影響は受けています。
受けていますが,発信者情報開示請求訴訟は,あらゆる事件の中でも,かなり影響を受けにくい類型であるといえます。

Q64.開示の判決が出てから,どれくらいで発信者情報は開示されるのでしょうか。

IPアドレスの場合は,仮処分で行われますので,その決定が出てから数日中には開示されます。
一方で,住所氏名の場合ですが,これは判決確定後になります。
これについては,プロバイダとしては,「判決が確定し,強制執行で開示を強制される可能性があるので,やむなく開示しました。」という形式をとりたい,と考えています。
そして,発信者情報開示請求の場合,仮執行宣言(判決が確定する前に強制執行ができる旨,判決に付けられる宣言)がつかないのが通常です。これは,情報なのでお金と違って一度開示すると,あとで判決がひっくり返って非開示になっても取り返しがつかないためです。
したがって,判決は確定後に強制執行できるようになる,ということで,プロバイダとしては,判決が確定した後に開示を実行するのが通常です。
判決文の送達を受けてから2週間が経過すると,判決は確定します。
通常,民事の判決は当事者は出席しませんので,送達ではじめて結論を知ることになります。
そうなると,原告は弁護士から,発信者はプロバイダ(もし通知してくれるプロバイダの場合)も,結論を知ってから概ね2週間後に住所氏名の開示が実施される,ということになります。

Q65.多数の人から中傷投稿をされているので,大量の投稿について開示請求をしようと思います/自分の投稿について開示請求を受けましたが,どうやら「大量開示」の様です。留意点は?

まず,請求者の立場からすると,大量の投稿について開示請求をすることは,有効適切な手段です。
共通点が多ければ,弁護士の主張立証も容易になります。そうすれば,時間や費用も相当に節約出来ます。何か基準があるわけではありませんが,一件当たりのコストは,3分の1とか,もっと減らすことも可能なケースがあります。
そうすると,賠償請求をした場合,弁護士費用を充分に回収出来る可能性はあります。一件当たりのコストが低下するからです。
そういうことで,大量に開示請求をしないといけない投稿があるのは大変なことですが,一方で,法的措置の決断のしやすさでは,メリット(といっていいのかわかりませんが)があるといえます。
逆に投稿者の立場からすると,相手方が法的請求を決断しやすくなりますので,不利であるといえます。
なお,よく「これは大量開示だ。自分の投稿はさほど酷くないので大丈夫!発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたけれども,裁判外だし,どうせ諦めるはず」みたいな思い込みをするケースがありますが,そんなことはありません。大量開示は,逆にリスク要因です。
さらに,この手の事件で「請求者の住所を知ることができる!それは嫌だから諦めるだろう」というような気休めの情報もあるようですが,それも誤りです。裁判でも原告が住所を隠すことはさほど難しいことではありません。一方で被告はそれができません。しかも,同時に多数訴えた場合,被告同士はお互いに住所氏名を知られる事になります。
請求者の住所を気にする前に,自分の第三者に知られることにならないのか,自分の心配するのが先,ということになるでしょう。

Q66.未成年者が書き込んだ場合はどうなるのでしょうか?

未成年者とは,20歳未満(令和4年4月1日からは18歳未満)の者をいいます。そして,未成年者の投稿の責任については,法定代理人(通常は親)が,裁判の内外を問わず代理人として交渉をすることになります。
賠償責任は,親が負担する可能性もありますが,通常は,未成年者本人が負担することになるでしょう。

最近,いくつか相談を受けましたが,ネット上には,このあたりもデマが多いようです。おそらく原因は,未成年者は完全に有効な法律行為が単独ではできない,ということと,賠償責任の問題をごっちゃにしていることが主な原因だと思います。
ネット上の法律デマは,複数の少し似ている,関係のある制度を混同して生まれることがしばしばありますが,これも同じパターンだと思います。

さて,話を本題に戻しますが,未成年者は,原則として単独で完全に有効な法律行為をすることはできません。仮に行っても,事後的に取り消しをすることができる,というのが通常です。
また,意思表示を受け取ることもできません。
このことは,裁判でも同じです。ですが,そうなると,未成年者が契約出来ないということになりますし,未成年者に請求をする,訴えを起こす人も困ります。そこで,通常は親が法定代理人といって,代理人として法律行為をしたり,意思表示を受領することになります。

ですから,ネット投稿の賠償請求は,(請求者が投稿者は未成年者だと知っていれば)親宛に行きます。Yが未成年者で,Zが法定代理人の場合,Y法定代理人Z宛,ということになります。これは,裁判でも同じです。裁判ではもっと厳格で,未成年者でも法定代理人の同意があれば,その範囲で法律行為ができますが,裁判ではそういうことができないので,法定代理人が出廷して裁判をすることになります。

一方で,責任が誰に生じるかは,また別の問題です。まず前提として,仮に親など法定代理人に責任があるなら,Y法定代理人Z宛ではなくて,そのままZに請求が行く,ということになります。代理が問題になることはありません。
未成年者の責任について,法律は,次のように定めています。

(責任能力)
第722条
 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

要するに未成年者というだけでは賠償責任を負わない,ということではありません。「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったとき」という条件も加わっています。
ネットへの投稿については,こういうケースは稀でしょう。実際に,中学生の投稿について賠償責任を認めた裁判例もあります(また,その事件では,そもそも双方とも,責任能力を問題にしていません。)。
ですから,ネット上の表現トラブルにおいて,未成年者だから免責される,ということは稀であると思われます。もっとも,小学生になるとかなり微妙なところもあると思います。また,その場合つまり投稿者本人が免責されると,親の責任を追及する余地も生じます。

以上,まとめると,未成年者がネット上に違法な投稿をした場合,中学生程度以上であれば責任を負うことが原則である,ただし未成年者は法的に有効な交渉や裁判ができないので,親が法定代理人として交渉をすることになる,ということになります。

Q67.「売り言葉に買い言葉」みたいなケース,あるいは,請求者の言動が要因である場合,投稿者の責任はどうなるのですか?

結論からいうと,発信者情報開示請求においてそれが認められるかどうか,という点,そして,その後の損害賠償請求における賠償額の算定に影響をします
すなわち,売り言葉に買い言葉,というようなケースでは,発信者情報開示請求が認められないこともあります。また,開示が認められても,賠償請求において考慮つまり減額ないし責任そのものがない,ということになる可能性もあります。

実際に,そのように判断した裁判例も複数あります。
一例を挙げると,私が発信者側で担当した事件なのですが,ある人物について,反社会的勢力の関わりがある,それを利用して個人を攻撃する,自分の顧客の個人情報を悪用して脅迫する等の内容で,十数件の投稿をした,という事例がありました。この事件では,請求者の言動等に関する証拠を収集,作成することで,全件について発信者情報開示請求を棄却するとの結論を得ることができました。
もっとも,この事件では,私が担当していない他の投稿者については開示が認められたようですので,請求者の言動が問題になるケースでは,その主張立証がとても大事である,ということがいえると思います。

相手方の言動を理由として批判的発言をする場合,相手方の発言を記録しておくことはもちろんですし,それがなくても,発信者情報開示に係る意見照会書が届いた段階で,できる限り集めておくことが重要です。
逆に請求する側としては,問題の投稿を検討するにあたって,なぜ自分に対してそういう投稿をするのか,自分の言動との関係を再検討してから,請求を組み立てるとよいでしょう。

Q68.投稿者です。相手方が「訴える」と連呼しているのですが,一向にこちらには何も届きません。確認する方法はありませんか?

確認することは難しいです。というのも,こちらに書類が届くまで,こちらから知ることはできません。また,相手の準備の様子など,そんなことを聞いても答えてくれるわけがないからです。
さらにもっといえば,仮に答えてくれたとして,いつ方針を変えるかわからないからです。
要するに,教えてもらえないし,教えてもらっても気が変わることはあるのだから無意味でしょう,ということです。

ですが,本人の言動,その変化から,いろいろと事情がよみとれるということはあります。このあたりは弁護士に相談するしかないのですが,わざわざそうする価値があるかというと微妙です。
逆に,気にしたら負け,ということもいえるでしょう。基本的に,訴えると連呼している人に限って何もしてこないことはしばしばあることです。

なお,相手方がわかっているのであれば,こちらから訴える方法もあります。これは,債務不存在確認請求という方法なのですが,裁判で,投稿について賠償義務がない,仮にあるとしても,せいぜい○○万円以下,というような確認を求める裁判です。
請求を繰り返し受けていて,それで,不安定な状態にある人が,その状態を脱出するために使われたりします。
普通の裁判では権利がある,だから被告は義務を果たせ,ということで裁判をするのですが,これは,こちら原告から,被告には権利がないか,あってもせいぜい○○だから,裁判所は,それを確認してくれ,というものです。
もっとも,この方法は,お互いがわかっていないと使えないので,ネット上の表現トラブルで使える例はわずかでしょう。相手方にこちらが知られていないときは,こちらの住所氏名を明かすことにもなります。

通信記録の保存期間は限られていますし,時間が経てば立つほど,「お金をかけて開示請求したけれども,記録がなかったです。」となるリスクは上がり,法的措置,特に発信者情報開示請求をすることは難しくなります。
ですから,基本は気にしたら負け,というくらいで,落ち着いて待つのがよいでしょう。

Q69.SNSとか掲示板で「劇的勝訴しました!」っていう話をよく聞きますが,信じられるの?

請求者側はウソほんとどちらもありますが,請求された側つまり投稿者と称する人がいう「勝訴したよ」は,ほとんど信じられません

弁護士がちゃんと顕名でいっているのであれば,さすがにウソではないでしょうが,当事者が,それも匿名の当事者が言っているのであれば,ほとんど信用できません。

さて,私は,ネット上の表現トラブルについての裁判例は,片っ端から集めています。自分の事件だけではなくて,他人の事件についても,片っ端から集めて整理して保存しています。こういう投稿でいくらとか,発信者情報開示請求の弁護士費用が認められたとか,そういう観点で検討していますし,リストも作っています。
というわけで,ある程度,傾向には詳しいつもりです。
その経験からしても,特に投稿者がいう判例は,怪しいものが多いと判断します。

相談される方の中には,SNSと匿名掲示板の投稿のコピーを出して,こういう判決のようにしてほしい,ならないのか,あるいはなってしまうのか,という質問をされる方がいます(念のため,そういう相談がダメ,ってことはないです。)。
傾向として,請求する側がいう判決は,それに似た判決があることも比較的多いです。もっとも,重要なポイント(請求者にとって不利な部分)が省かれていることが多いです。
一方で,投稿者側がいう,「棄却になった!」というような判決は,ほとんどデタラメであることが多いです。判例データベースに全ての判決が掲載されるわけではないにしても,ほとんど見つかりません。
しかも,判決の内容であるとか,それに至る経緯とか,弁護士が読めば,すぐに矛盾に気がつく程度の稚拙な誤りも含まれており,一目瞭然です。

ネット上の表現トラブルに限りませんが,法的紛争の渦中にあると不安が強く,自分に都合の良いデマを信じ込みやすいです。「『ネットde真実』の判例に目覚めました」みたいなことになって,デマと心中する前に,自分自身のトラブルは,ちゃんと弁護士等専門家に相談することが重要です。

Q70.発信者です。交渉が決裂したのですが,訴状が届いてからどれくらいの猶予があるのですか?

概ね2ヶ月程度です。

まず前提として,基本的に通常の裁判は1ヶ月単位で進みます。1回期日が開かれると次は1ヶ月後,というような間隔です。

そして,初回の期日は,被告に訴状が送達されて概ね1ヶ月後か,それ+1週間程度に設定されます。この期日は,原告と裁判所が調整して決めています。なぜなら,裁判は出頭しないと提出した書面が主張した扱いにならないのが原則だからです。だから,原告は必ず出席出来るように調整しています。

訴状には裁判所の送り状がついています。なお,訴状は原告が2通作成しており,2通とも裁判所に提出します。うち1通を,裁判所は被告分ということで送ります。つまり,被告分の訴状の写しは原告が作成しますが,それを送る(送達する)のは,裁判所,ということです。ですから,裁判所の封筒で届く,ということになります。

そこには,第1回期日が記載されており,一週間前までに答弁書を出すように,との指示が記載されています。また,答弁書の書式(なお,ネット上では,全部争えばいい,なんて風説がありますが,とある事項については,これに全部争う,否認すると記載しても否認扱いになりません。)も添付されています。

そうすると,猶予は1ヶ月前後くらいのようにも思えます。しかしながら,初回の期日については,どちらか一方(通常は被告)が欠席しても,欠席者は出席して書面の内容通り主張した扱いとする,ということになっています。
これは,初回期日は,原告とは調整するけれども,被告とは調整しないので,被告の予定が合わないことがありうるからです。

くわえて,最初の被告の書面,答弁書においては請求は争うが,次回以降に詳しく主張します,という記載をすることができます。なお,これは裁判所の対応次第ですが,よっぽど特殊事情がなければ,それでは次回以降でお願いします,ということで進めてくれます(それでダメだと言われたことはありません。)。

そうすると,次回つまり第2回の期日は,その1ヶ月後,ということになります。最初の1ヶ月と合わせて2ヶ月程度,こちら側が反論するまで猶予が与えられる,という結果になるわけです。

ということで,意外と余裕はあります。ありますが,だからといって放置せず,かならず,最後までリスクを承知で自分で対応する覚悟がないのであれば,訴状が届いた時点で弁護士に相談しましょう

最悪のパターン,といっても相談しないよりマシですが,最も悪いのが,答弁書で上記のように争うことだけ記載しておいて,次の期日を決めて,それでギリギリになってから相談するパターンです。

2回目以降は,欠席は基本的にできません。しかも,実質的な反論をすることが求められています。となると,間に合わない可能性も高いです。更に弁護士としても,ギリギリまで放置する人だと,自分が受任しても,連絡が取れなくなったりしないか,と不安になって受任を回避されるリスクもあります。

ですから,絶対に,訴状が届いたらすぐに弁護士(簡易裁判所の場合は,認定司法書士も相談に乗れます。)に相談しましょう。

Q71.発信者情報開示請求について,裁判はコロナ禍で遅れているが民事保全は書面のやりとりだけなので遅れていない,と聞きましたが,本当ですか。

これも最近,よく相談されるトピックです。

「裁判はコロナ禍で遅れている」以外は全部間違っていますネット上の法律情報にありがちですが,伝言ゲームや,それぞれが断片的で分かりやすい情報を持ち寄りますので,最終的に不正確な情報ができあがるという好例です。

まず,民事保全は,一応書面のやりとりだけでできる,ということになっていますが,発信者情報開示請求においては,裁判所に出頭して裁判所から事情を聞かれる,相手方と議論する,というのが通例です。
この取扱いは,東京地方裁判所の方針なのですが,発信者情報開示請求においては,ほとんどのケースで管轄は東京地方裁判所です。ですから,結局,発信者情報開示請求の民事保全は,書面だけのやりとりでは済まないのがほとんどです。

その上で,コロナ禍の影響で,これまで東京地方裁判所の民事保全は,裁判官室で面接していたのですが,審尋室(当事者の意見を聞く会議室のような部屋)や,ラウンドテーブル法廷(法廷ではあるが,円卓が設置されている法廷)で行われることになっています。

その関係で,大幅に,とか,通常裁判ほどではありませんが,若干の遅れが生じています

Q72.発信者情報開示請求をする,されると,家族にばれるでしょうか。秘密にする方法はあるでしょうか

以下は,民事事件,それも弁護士に依頼した場合を前提にしています。

請求者(投稿により被害を受けたと主張する者)は,基本的に家族にばれないで進めることができます
もっとも,確実ではないですし,可能であれば,法的紛争ですので,家族に伝えて,協力を仰いだ方がいいでしょう。

基本的なルールとして,弁護士が代理人についている場合,相手方の弁護士は,その代理に就いている弁護士にしか連絡ができません弁護士を飛び越えて本人に連絡をすることは禁じられています

また,相手方に弁護士がついていなくても,基本的に弁護士宛に連絡するようにと(相手方は)要請を受けます。これに従わないケースは,基本的にほぼありません。

また,裁判についても,請求者は,訴えを起こす側です。ですから,弁護士が訴状を提出する,そして,一切の連絡先(送達先)は弁護士に指定しますので,結局,本人宛に裁判所から連絡が来ることは通常ありません

以上,要するに,請求者については,相手方や裁判所から連絡があることは基本的に考えにくいので,家族にばれない,ということになります。

一方で,発信者側の場合は,家族に知られるリスクがあります

最初に,発信者情報開示請求をされた場合,発信者情報開示に係る意見照会書は,自宅にプロバイダから直接届きます。このとき,自分が契約者であればいいのですが,同居人が契約者ですと,そこでバレる可能性があります。

次に開示された場合,その開示の通知でバレる可能性があります。また,そのあと,内容証明郵便などで賠償請求を受けた場合,これも家族にバレる可能性があります。

このとき,素早く弁護士に依頼してしまえば,以後の連絡は弁護士宛になります。ですから上記の,つまり発信者情報開示に係る意見照会書と損害賠償請求の内容証明郵便の時点でバレなければ,秘密にしたまま,交渉を進めることも可能です。

裁判になった場合,訴状は,弁護士がついている場合でも,直接被告に,つまり発信者宛に送られます。訴状は,裁判所から特別送達という特殊な形式で届きます。ですから,自分が受け取りをしない限り,家族にバレてしまう可能性は高いでしょう。

以上,要するに,発信者側で家族に秘密にするには,自分の契約回線であり,発信者情報開示に係る意見照会書の段階,開示通知の段階,賠償請求の内容証明郵便の段階,訴状の段階,それぞれで自分で受け取ることは必要になる,ということになります。
また,仮に秘密にできるとしても,法律問題ですから,家族にちゃんと伝えておくことは大事です。余り秘密にすることにこだわるべきではないと考えています。事件の性質にもよりますので,そのあたり,説明の仕方や適否については,弁護士と慎重に相談しましょう。

なお,以上は,相手方が違法に個人情報を流出させるとか,そういうことをした場合には,もちろん当てはまりません。
ただ,経験上,そういうことは稀です。ただ,傾向としては,請求者サイドが発信者に和解条件をのませるために,恫喝的に予告することが稀にあります(もちろん,違法行為ですが,弁護士の中にもそういうことをいう人がいて,驚いたことがあります。)。

Q73.仮処分決定で開示されましたが,これは欠席裁判で反論を聞かないから大きな意味は無い,というのは本当ですか

間違いです。

まず,欠席裁判という意味ですが,よく欠席裁判だと負ける,という話があります。これは,基本的に間違いではなく,かつ,通常訴訟(普通に法廷で行う裁判。仮処分は民事保全といって,これとは別になります。)では,原則はそうなります。
もっとも,欠席だから負ける,と直接に規定した法律はありません。次の様な決まりがあり,以下のようなロジックで欠席だと負けるのです。

大雑把な原則は,以下の通りです。
①裁判所は,法廷での主張だけに基づいて判断する。
②裁判所は,相手の主張に対して応答をしない場合は,双方に争いがないとして認めた(自白した)ものと扱う。
③裁判所は,双方に争いのない・認めた事実は,そのとおり認定して判断しないといけない。

欠席裁判だと負けるのは,①の原則で法廷に何も出さない,ということになるからです。そして,②の原則により,応答がない,ということになり,認めた扱いになります。最後に③の原則により,争いがない事実はそのまま認定して判断する必要があります。

ですから,原告は被告に100万円を貸し付けたのだから,100万円返せ,という裁判で,被告が欠席すると,100万円貸したという事実がそのまま認められ,その結果,100万円返せ,という判断になるわけです。

一方で,民事保全では,基本的に上記の三原則の適用がありません。
ですから,仮処分は欠席裁判だから簡単に開示される,というのは間違い,ということになります。

更に,実際の審理について,反論を聞かない,というのも間違いです。
実務上,発信者情報開示請求の民事保全事件においては,申立後,裁判所と債権者(申し立てた人のこと,なお,相手方であるプロバイダは債務者,と呼ばれます。)とで,審尋といって一種の打ち合わせが行われます。

このとき,裁判所は,債権者の言い分が不十分であれば指摘します。ですから,実質的に,最初に裁判所が反論をしてくれるわけです。反論なしで判断,というのは間違いです

更に,裁判所は,その後に債務者つまりプロバイダを呼び出して,債務者の話も聞きます。ですから,反論を聞かない,というのも間違いです
加えて,このとき,債務者が何も応答しなくても,上記の原則のように判断されるわけではありません。

なお,事案によっては,債務者が呼び出されないケースもあります
この場合,実務上,「反論を聞かないのだからこそ」ということで,入念に裁判所から主張や証拠の提出を要求されます。このあたりは,プロバイダ(掲示板,SNS事業者を含む。)毎の扱いですので,自分の事案については弁護士に見通しを相談しましょう。

ということで,仮処分は簡単に開示というのは間違いです。プロバイダの意見も聞きますし,実際に,私はプロバイダの弁護もしていますが,何もしない,反論しない,ということはあり得ません。プロバイダに責任が生じてしまうリスクもあるからです

さて,そういうことで,仮処分での開示の判断には,それなりの重みはあります。
ただ,ひっくり返すことも可能です。過去に私が,発信者側・プロバイダ側で担当した事件でもそういうことはありました。例えば,10件を超える書類偽造などの犯罪事実を指摘する投稿をして,仮処分では開示になりましたが,その後の裁判では,全部非開示の結論を得ることができた,ということもあります
このあたりは,【発信者側】発信者情報開示請求に対して非開示にできた事例を参照してください。

Q74.投稿内容が悪質であれば,発信者情報開示請求にかかった弁護士費用は,賠償の一部として発信者負担にできるというのは,本当ですか?

基本的に誤りといってよいでしょう。以下に述べるとおり,投稿の悪質性は理論的には関係ありません。

発信者情報開示請求の弁護士費用を賠償金として発信者に請求出来るかどうか,というのは,一つの論点です。

これに関する裁判例の傾向は「認められないのが大多数だが,認められるケースも存在する。被告本人訴訟であると認められる可能性が高いが確実ではない。」というものです。なお,以前は,認められるケースが大部分でした。

さて,認められるか認められないかは,これは一般的な不法行為法の問題です。
法律上,不法行為,つまりこの場合は違法な投稿ですが,これによって生じた損害が賠償責任の対象になります。

ここでのポイントは,あくまで不法行為によって生じた損害に限られる,ということです。不法行為と因果関係があることが必須です。
そして,法律上,この因果関係は相当因果関係であることが要求されています。これは,単に,その不法行為によって生じた損害であると判断することが相当である,もっと簡単にいえば,常識的に考えてどうであるか,というものです。

すなわち,発信者情報開示請求にかかった弁護士費用が賠償金に入るかどうか,という問題は,違法な投稿と発信者情報開示請求に弁護士費用をかけることとの間に,相当因果関係があるかどうか,という問題なわけです。

これについて,違法な投稿がなければ発信者情報開示請求をする必要も,そのための費用も使う必要は無かった,だから,弁護士費用と違法な投稿との間には相当因果関係がある,という考えがあります。これによれば,発信者情報開示請求にかかった弁護士費用は賠償の一部として投稿者負担である,ということになるでしょう。

一方で,発信者情報開示請求は弁護士を付けなくても理論的には可能ですし,現にそれが出来たケースはいくらでもあります。この点を強調すれば,相当因果関係はないということで,発信者情報開示請求にかかった弁護士費用は賠償金に含まれない,ということになるでしょう。

このあたりの議論は,以上にとどまりません。負担させた裁判例の傾向,負担させなかった裁判例の傾向,それぞれの理由,他の法令や制度のとの相関関係,そして,本件においてそれらがどの程度合致つまりは援用出来るか,そのあたりも踏まえることが,自分の望む結論を得るには重要です。単に,「○○だから負担だ/不負担だ」みたいな紋切り型の議論で済む話ではありません

このあたり,気にされる方が多いので,解説しました。もっと疑問質問が多ければ,ネット上では用語の用法が間違ってとんでもないデマが広がっている分野ですし,そういう被害を防止する観点からもさらに解説するかもしれません。
具体的には,「裁判費用」「訴訟費用」「弁護士費用」「判決で賠償を命じられている弁護士費用」,それらとネット上の表現トラブルとの関係については,それぞれ,用語を正確に抑える必要があります。

なお,この分野について,具体的にいかなる裁判例があるとか,主張立証はどうするべきか,請求者と発信者の両方の立場から専門家向けに解説したものとして「インターネット権利侵害 削除請求・発信者情報開示請求“後”の法的対応Q&A」があります。

Q75.刑事告訴をされると「発信者情報開示に係る意見照会」が来ないで開示されて警察が来る,というのは本当でしょうか。

理論的には本当ですが,基本的に珍しいケースです。

ネットの投稿者を特定する方法はいろいろありますが,一般人つまり捜査機関ではない人にとっては,発信者情報開示請求をする方法が通常です(他にも色々ありますが,割愛します。)。

一方で,捜査機関にとっては,捜査関係事項照会といってプロバイダに質問状を送る方法とか,あるいは,捜索差押令状をとって通信記録を差し押さえるとか,そういう方法があります。

さて,発信者情報開示に係る意見照会書とは,発信者情報開示請求に関する制度です。つまり,発信者情報開示請求がなければ,この照会書が届くことは,当たり前ですが,ありません。

ですから,捜査関係事項照会や捜索差押令状で,投稿者が特定されるケース,つまり,刑事告訴が受理されて捜査されるケースでは,意見照会書は届かないで,いきなり警察が来る,ということになります。

ですから,このQへの答えは,理論的には本当だ,ということになります。

しかしながら,実務上は,なかなかそういうことはありません。ある投稿が名誉毀損であるかどうか,という判断は難しいです。また,表現の自由との兼ね合いもあります。ですから,警察は,最近は大幅に動きが良くなった,とはいえ,なかなか,ネット上の表現トラブルについて,動いてはくれません

ですから,実務上は,いきなり警察に行くのではなくて,自分で発信者情報開示請求をして,その結果,発信者を特定した上で,資料を持参して警察に刑事告訴に行く,ということが通常です,これであれば,裁判所が開示を認容したという,ある意味でのお墨付きがありますので,警察の動きもよい,ということになります。

この流れですと,最初に発信者情報開示請求をされた時点で,意見照会書が届きますので,意見照会書が届き,開示をされて,それで警察が来る,という順序になるわけです。

なお,以上は,あくまで原則です。特に酷い内容であるとか,あるいは,脅迫など発信者情報開示請求ができないケース,警察の動きがいいケースでは,理論通りに,いきなり警察が来る,ということは,珍しくありません。

繰り返しになりますが,ネット上の表現トラブルに限らず,法律問題では,過度に類型化して,決めつけすることは禁物です。ネット上の表現トラブルでは,投稿内容,対象者,そしてメディア,それぞれの相関関係で帰趨が決まります。「バカアホ」だから○○とか,そういうことにはなっていません。

Q76.投稿者です。請求者が「発信者情報開示請求するぞするぞするぞ!!」って連呼しているのですが,どうしたらいいのでしょうか?また,本当にするのでしょうか。

本当にするかどうかは疑わしいと思います。理由は次のとおりです。

まず,この手の事件では,あまり法的措置を公にすると,炎上するリスクがあります。ですから,黙ってやるのがセオリーです。このあたりは,弁護士からも助言を受けているはずです。こういう事を連呼する時点で,弁護士に相談をしていない,少なくとも依頼をしていない可能性が高いです。

更に,このように事件について公言を繰り返していると,発信者情報開示請求や賠償請求で不利になることが多々あります。この点からも,本当にやるつもりなら,連呼しないでしょう,ということがいえます(もっとも,請求者の強い希望,正確などにより,請求と連呼を並行させるケースもあります。)。

また,発信者情報開示請求においては,投稿者が弁護士を付けて全力で抵抗すると,請求者が赤字になるリスクも低くはありません。そこで,こういう連呼で脅して,それで,狼狽した人から,「自ら申し出てもらって賠償してもらう」ということを,狙っている可能性もあります。実際に発信者情報開示請求をすると赤字になるリスクがあるので,しない,ということです。

以上,あくまで傾向,予想の問題です。正確なところはわかりません。ですから,何より確かなこと,そして,大事なことは,それで狼狽して下手にコンタクトを取ったりせずに,落ち着いて待つ,弁護士に相談をする,ということです。

Q77.請求者です。削除・開示請求の裁判を考えているのですが、この相手方プロバイダは裁判に強いのでしょうか?/投稿者です。利用しているプロバイダが開示請求の裁判をされていますが、自分のプロバイダは裁判に強いのでしょうか?

プロバイダ毎に異なりますので、これは弁護士に聞くしかありません
ただし、大手だから強い、そうでないと弱いとか、そういう傾向はありません。

私が知っているだけでも、大手でちゃんと争うところもあれば、ほとんど主張しない、書類もほとんど出さないところ(だから、比較的簡単に開示される。)があったりします
また、裁判外で住所氏名の開示に応じてしまっているところもあります。
こういうところの場合は、請求者としては非常に有利な、幸運な事情となります。
また、投稿者の立場からすれば、そういう行為は違法になりかねないと、プロバイダに釘を刺すのが大事です。

プロバイダのこういう対応よりも、むしろ、「発信者情報開示に係る意見照会」の回答の方が重要です。通常、裁判にはそのまま提出されますので、そのまま反論につながるからです。
【発信者側】発信者情報開示請求に対して非開示にできた事例」において述べたように、犯罪者・反社会的勢力呼ばわりとか、かなり強度の表現でも、適切に反論すれば、非開示に出来る可能性があります。

なお、私は、プロバイダの立場で弁護することも結構あるのですが、その立場からいうと、しっかりと争わないと、投稿者との関係で賠償責任を負いかねません。ですから、手を抜くというのは、当たり前ですができないことです。
一方で、特に名誉毀損のケースでは、詳しい事情はプロバイダには分からないことです。そうなると反論のしようがありません。ですから、発信者は、ちゃんと意見照会に回答することが大事、ということになります。

Q78.投稿者の経済力によって、賠償金は変わるのですか?

法的には変わりありません。事実上は、違いが出る可能性が大いにあります

法的には、投稿者の経済力で賠償金が変化することはありません。
賠償金は、投稿によって、つまり、投稿と相当因果関係のある損害の程度によりきまります
ですから、投稿の内容とか、場所、影響力や被害者の属性の影響は受けます。

ですが、投稿者の経済力は被害の分量に関係はありませんので、法的には、投稿者の経済力が、あろうがなかろうが、それは関係が無い、ということになります。

たとえば、100万円を貸した場合、貸主は、借主に対して、100万を返せという権利をもつことになります。これは、100万円は100万円であって、借主が、たとえば億万長者であるとか、無一文であるとか、それによって、10万円に変わったり1000万円になったり、そういうことがないことと同じ事です。

ですから、投稿者の経済力と、法的な賠償責任は関係が無い、というのが、一応の答えになります。

ですが、これはあくまで、法律上の話です。実際には、大いに影響を受けます

大前提として、どんなに権利があっても、ない人からはとれません。また、実際に判決を取って差し押さえるのも、Q54で触れたとおり、そうそう簡単な話ではありません

ですから、請求者としては、相手方投稿者の経済力が低い、あるいは、差し押さえが難しそうな場合は、判決で認められそうな金額よりも、譲歩をする動機が大いにある、ということになります。

また、差し押さえについては、あくまで投稿者本人からしか取り立てることができません。ですから、投稿者に経済力は無いが、親族にはある場合でも、親族から取り立てることはできません。

ですから、実際によくあるケースなのですが、本人に十分な経済力は無い、しかし、親族にはある、そして、裁判前に和解できるのであれば、親族から借りて支払う、というパターンです。

請求者としては、判決を取っても紙くずになる可能性があるので、こういうケースでは、積極的に譲歩を検討します。

また、逆に、そういうトラブルを抱えるわけにはいかない、あるいは刑事事件になりそうな案件であり、刑事事件にするわけにはいかない、というケースでは、判決での相場を上回る和解もあり得ます

請求者としては、投稿者が明らかになった場合、名前でSNSを検索して職業を調査するとか、住所地の家賃を確認するとか、そこから、経済力や「トラブルを避けたい」という投稿者の情報を探る、という方法が考えられる、ということになります。

Q79.法テラスを利用して発信者情報開示請求を依頼することはできますか

できます。ですが、引き受ける弁護士を見つけるのは大変ですし、また、審査に通らないこともあります

法テラスは、正式名称を、日本司法支援センターといいます。その業務の一つに、民事法律扶助というものがあります。これは、一定以下の収入・資産の人に、弁護士費用と実費を立て替え、その後に分割で支払ってもらう、という事業です。

事件自体は弁護士が処理しますが、独立した弁護士が処理する場合もあれば、法テラスに雇用されているいわゆるスタッフ弁護士が処理する場合もあります。

さて、発信者情報開示請求事件を、法テラスを利用して依頼することは可能です。実際に、私も相手方が法テラス利用の事件(私は、法テラスを利用しない投稿者を担当しました。訴えてきた方が法テラス利用であった、ということです。)をやったことがあります。

もっとも、法テラスは審査において、勝訴の見込みや回収可能性を検討します。なので、それで審査に通らない可能性があります。また、一般に低廉といわれている法テラス基準で弁護士が受任をするのか、という問題もあります。

ですから、この質問の答えとしては、可能であるし、実例もあるが、なかなか難しいこともある、ということになります。

なお、請求者が法テラスを利用している場合、こちらの交渉、訴訟戦術に影響が生じることがあります。このあたりは、差し支えがあるのでここでは書きませんが、よく弁護士と打ち合わせるといいでしょう。

Q80.発信者です。投稿が開示されて、恫喝的な文面の内容証明を受け取りました。許せないので、請求者の代理人弁護士を懲戒請求しようと思いますが、よいでしょうか。また、懲戒請求は、賠償請求の交渉で有利になるでしょうか。

おすすめできませんし、賠償請求においては、かえって不利になるリスクがあります。

確かに、請求者の代理人弁護士の中には、恫喝的な請求をする者もいます

というのも、あまり言いたいことではありませんが、ネット上の表現トラブルにおいては、発信者が弁護士を付けて徹底的に争うと、開示も難しくなるし、賠償金も弁護士費用に足りないケースもしばしばあるからです。

そこで、恫喝的な請求、ケースによっては、違法なやり方がされることもあります。それでは、驚いて高額支払いに応じてくれるのではないか、と試みているのではないか、と思われます。

例えば、私が経験した中でも、支払いに応じないと、弁護士会照会(弁護士法上の手続き。これで手に入れた情報は慎重管理の義務があります。)で手に入れた情報を公にする、子どもの通う学校に言いふらすとか、そういうことを言われたケースもありました。

もっとも、「恫喝的」といっても、それが本当に違法不当なやり方か、判断は困難です。自分がそう思っても、第三者から見ればそうではないのではないか、ということで、必ずしも懲戒事由にならないこともあります。

そして、懲戒請求は、場合によっては、弁護士に対する不法行為になります。また、犯罪が成立する可能性すらあります。そうなると、投稿の被害者だけではなくて、弁護士個人からも責任追及を受けることになります。二重の対応を迫られ、かえって不利になる可能性が高いでしょう

もっとも、上で述べたように、ネット上の表現トラブルにおいては、本当に問題のある請求をするケースも散見されます。ですから、自己判断せずに、弁護士に相談をしてから、対処を決めるべきです。

Q81.ネットで「判決は判例で決まる」「判例は裁判所に行けば見せてもらえる」と聞きました。本当でしょうか。

ほぼデマです。

まず、ここで繰り返し指摘しているように、ネット上の表現トラブルにおいては、ある投稿は違法であるかどうか、あるいは、賠償金がどうなるかについては、判例で定まるものではありません。投稿内容や場所、そして請求者・被害者の性質、実損、影響などは千差万別であり、そういう判例を作ることが極めて困難だからです。

加えて、判例、おそらく、ここでは判決という意味でしょうが、それについては、裁判所に行けば確かに閲覧は可能です。
しかしながら、裁判所の職員は、あなたの事務職員ではありません。ですから、あなたの事件にぴったりの判決なんか探してくれません。しかも、閲覧可能なのは、裁判所にある事件記録だけであり、遠方で保管しているものなどは閲覧できません。東京地方裁判所は民事部だけで数十個あります。他の民事部の判決まで持ってこられるのか、という問題もあります。それだけではなく、1事件ごとに申請書が必要であり、費用も納める必要があります。そして、大事なことですが、裁判所はネット上の表現トラブルだけ扱っているものでもありません。

ということで、「裁判所に行って判例を調べる」という行為は、非現実的です。こういう非現実的な情報が横行しているのが、「ネットde真実の法律情報」の恐ろしいところです。実際にやろうとすれば、無理だということはすぐにわかるのに、それでも流布するのは、いわゆる創作実話(専門家が見れば、実話っぽいという要件すら満たしませんが)が氾濫していることの証左でもあると思います。

Q82.ネット上の表現トラブルについて、家族に知られずに解決はできますか?

確実ではないですが、被害者(請求者)であれば、ほぼ可能です。投稿者(発信者)ですと、難しいですが、可能性はあります

まず、請求者であれば、弁護士に依頼して代理して書面を送る、交渉する、裁判をする、ということであれば、連絡や書類は全部弁護士に行きますので、家族に知られる可能性はほとんどありません

可能性としては、そういうルールを破って、弁護士を飛び越えて連絡が来るとか、そういうケースくらいです。確実ではないですが、基本的に請求する側は、家族に知られないで済む可能性が高いでしょう。

次に、発信者の側ですが、これは家族に知られないようにすることは難しいです。なぜなら、事前予告なしに書類が届くからです。

もっとも、その書類を、全部、自分で受け取る、極力弁護士に依頼すれば、知られない可能性はあります。

書類が届く場面としては、発信者情報開示請求に係る意見照会が届くタイミング、開示後に賠償請求の書面が届くタイミング、そして、交渉決裂で訴状が届くタイミング、というものがあります。

なお、やり方次第ですが、たとえば、開示請求について開示に同意して、それと同時に弁護士を代理人に指定する、という方法があります。これであれば、発信者情報開示請求に係る意見照会さえ、家族に知られなければ、あとは訴状(これについては、裁判前に弁護士がついていても、直接被告本人に届きます。)を除けば、家族に知られる可能性は低くなります。もっとも、家族に知られたくないから、そういう理由だけで、開示請求に同意するのは、お勧めできません。

もっとも、家族に知られないように、ということで進めると、できることも限られてしまいます。できれば、家族に話して、協力を得ることが、事件をうまく解決するためになるといえるでしょう。

Q83.大量の投稿について一度に開示請求、つまり「大量開示」だと、他の投稿につられて、大したことの無い投稿でも開示になるって本当ですか。

Q65でも触れた問題です。Q65では、「大量開示だから大丈夫ですよね?」というような相談を受けて解説しました。ですが最近は、「大量に開示請求がされると、自分の大したことのない投稿が開示される」と逆パターンの不安を抱く人も現れた様です。時間の移ろいと共に、全く反対の不安が登場するのは、興味深い現象です。

さて、最近、この種事案の法律相談で頻出のテーマなのですが、結論からいうと、そのような事情には接しておらず、間違いである可能性が高いです

私は、公刊物掲載以外の発信者情報開示請求の裁判例を、それこそ根こそぎかき集めて収集して分析しています。ですが、「沢山開示請求があるから、裁判所が、ラフな判断で、本来は開示されないような投稿についても開示の判断をした」と思しき判決は、一つも目にしたことがありません

ただ、逆に、ほとんど違法性がなさそうな投稿でも、まとめて大量に開示請求をしたところ、開示されるかどうかボーダーライン上の投稿について、非開示になっている、という傾向は、若干ですが感じたことはあります。

弁護士として、裁判所がちゃんと仕事しない、と思うことはないわけではないですが(ただ、本当に、少なくとも民事においては、ごく稀です。)、さすがに、請求が多いから、沢山だからといって、適当な判断、ラフジャッジメントをするケースには当たったことはありません。

もっといえば、仮に、裁判所が、忙しいだのなんだので、「手抜き」判断を発信者情報開示請求でするのであれば、「非開示」の判断に傾くはずです。なぜなら、発信者情報開示請求における要件は、いろいろありますが、主なものは権利侵害の明白性です。

つまり、開示の判決を下すには、種々の証拠から、権利侵害の明白性を認定する、というところまでの審理が必要です。仮に手を抜くのであれば、逆に認定できない、しない、ということで判断することが自然でしょう。一定の事実を認定するのであれば、判決書には、それに至った根拠となる証拠や主張を記載しなければならないからです。

紛争の渦中にいると、非常な不安を覚えます。不安を感じれば感じるほど、判断能力が低下して、安易に断言する不正確な情報に振り回されがちです。どんな事件でもそうですが、そうやって振り回されても、相手方つまり敵を利するだけです。まずは落ち着くべきであり、できれば、個別の案件については弁護士にちゃんと相談にいったほうがいいでしょう。

Q84.発信者です。発信者情報開示請求に係る意見照会書に対して出した回答は、相手方に知られるのですか?

事案次第ですが、基本的に、裁判上の請求つまりプロバイダへの訴訟が起こされているのであれば、相手方にコピーが送られるので、内容が知られます。もちろん、個人情報部分はマスキングされますので、そこから、自分の氏名住所は知られません。

これは、裁判手続きの場合、プロバイダは、意見照会の回答を証拠・主張として、裁判所に提出するためです。そして、裁判のルール上、裁判所に出すものは、相手方にも同じものを出さないといけません。そこで、裁判所に回答書のコピーを出すと同時に、相手方にも出すので、それで相手方にも内容を知られる、ということになります。

なので、特に本人が作成した回答書ですと、不利な事実を自白していることも多く、このコピーを賠償請求の裁判で使う請求者もいます。実務上、自分で自分に不利なことを言った場合、それは信用してもいいとされることが多いからです。判決文中も、「かえって、回答書の記載によると、○○という(発信者に不利な)事実が認められる」というような感じで、いわば発信者のオウンゴールが認定されることが過去にあるところです。

逆に、裁判上の請求ではない場合は、基本的にプロバイダは、回答書の内容はもちろん、内容を請求者に告げる義務はないので、請求者に回答書の内容を知られることがないのが通常です。

したがって、裁判上の請求であれば知られる、裁判外なら知られない、というのが基本的な答えになります。

もっとも、これには注意が必要です。厳密に決まっているわけではないということと、裁判になっているかどうか、はっきりとわからないことも多いからです。

加えて、裁判外の請求で意見照会をした場合、その後に訴訟提起されても意見照会されないこともあります。そうなると、裁判外請求での回答書がそのまま知らないうちに法廷に出されるということになります。特に請求者自身の言動が原因でなされている投稿の場合、これに基づき反論されると請求が認められないかもしれないので、あえて、裁判外請求をして詳しい回答書を出させずに、その後に訴訟提起する、というテクニックもあり得ます(実際にこれと思しき手法をとられた経験があります。ただ、その件では、それを見越して裁判外段階から詳細に反論したので無事に非開示になりました。)。

ということで、以上をまとめると、裁判外請求なら相手に伝わらない、裁判上請求であれば伝わる、しかし、裁判外請求から裁判上の請求に移行しても知らされずに提出されることもある、だから、相手方に見られる前提で検討した方がいい、ということになります。

Q85.発信者情報開示請求に係る意見照会に対して回答書(意見書)を出した場合、訴訟でちゃんと使ってもらえるのですか?

まず使ってもらえる、そのままコピーが出される可能性が非常に高い、と考えてよいでしょう。

私の経験上、発信者側でもそうですし、プロバイダの弁護を担当する場合でも、発信者から回答書が出されたものは、そのまままるごとコピーを提出します

理由は非常に簡単で、出さない理由はないし、出す理由は沢山あるからです。

法律の建前からいえば、意見照会は、発信者に手続保障(反論の機会)を与えるためのものです。ですから、回答を出さないということはこの建前に反します。

また、実際問題として、コピーを出すだけなら、全く、手間がかかりません。加えて、適切な内容であれば、反論を発信者に一部任せることができるので、訴訟対応コストの低減も図れます。

内容が不適切で、提出により不利になる回答書というのも少なくありません。また、賠償請求訴訟で請求者に「活用」されてしまう例もあり得ます。

しかし、仮にそうなったとしても、プロバイダからすれば、それは発信者の自己責任です。ですから、提出することで、手間を省くことができることもあるほか、仮に逆効果でも一切責任を問われることは考えにくいことです。

逆に、回答書を提出しない、使わない場合は、上記の法律の建前、趣旨に反することになります。そして、提出しなかった事実は、調べようと思えば調べられます。そうなると、提出しなかったプロバイダは発信者から責任追及を受ける可能性すらあります。

以上より、プロバイダにとっては、回答書は出さない理由がなく、出しても責任は問われないし、逆に出さないと責任を問われかねないので、基本的には全て提出する、ということになります。

※更に質問等あれば,また,付け加えるかもしれません。メッセージやコメント欄などまでどうぞ。

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(^ω^)ありがとうございますお!
弁護士(第二東京弁護士会)。IT関連事件,ネット上の表現トラブル,刑事弁護,弁護士法令問題などを中心に取り扱っています。主な著書に「その「つぶやき」は犯罪です」,「弁護士のための非弁対策Q&A」「Q&A弁護士業務広告の落とし穴」「インターネット権利侵害Q&A」。