【真面目な記事】東大文学部言語学専修内定生の2Aセメスターの履修例(後編)
前回の記事を「すごく分かりやすい」と評していただいたのがうれしいので後編も書くことにする。わたしが続き物の続きを書くことは非常にまれであるにもかかわらず。
前回の続きとして、履修した科目の感想等を記していく。
水2・木2 言語学概論
セメスター開講週2コマで4単位。言語学のごく基本的なところを学ぶ。といっても意外と難しい内容を含む(個人的には特に音韻論と統語論)ので、負担が軽いわけではない。現実的には2Aで履修する必要がある。言語学研究室の4人の先生によるかわりばんこ講義。あと基本対面で、zoomで授業をしますと言われても教室に行ってzoomを見る形式なのでオンライン授業だと思わないように注意。
言語学の下位分野・言語の一般的特徴・音声学・音韻論・形態論・統語論・世界の諸言語・言語類型論・意味論・生成文法と認知言語学・比較/歴史言語学・文字論・社会言語学・応用言語学(順番は前後する)を扱うが語用論や対照言語学などはやってくれないので注意。語用論の授業がとりたい人はSセメで駒場に行って教養学部の「意味の体系」を履修しよう。対照言語学は2024Sで集中講義があったが、毎年やっているわけでは多分ない。
以下、各回を平易な言葉で解説する。素人による説明なので注意。
言語学の下位分野…言語学の下位分野にどんなものがあるかの説明。
言語の一般的特徴…人類の言語全体にみられる普遍的な特徴・性質について学ぶ。
音声学…実際に観察される言語音について学ぶ。
音韻論…実際の言語音の裏にある音の体系のしくみなどについて学ぶ。「音の文法」という言い方も。
形態論…語とはなにか、語がどうやってできるかなどについて学ぶ。
統語論…文がどうやってできるかなどについて学ぶ。
世界の諸言語…いろんな言語について学ぶ。
言語類型論…世界のいろいろな言語の共通点と相違点などについて学ぶ。
意味論…文があらわす意味について学ぶ(わたしにはまだよくわかっておりません)。
生成文法と認知言語学…現代の言語学において重要な2つの理論について学ぶ。駒場と英文研究室では生成文法、言語学研究室では認知言語学の授業がそれぞれ用意されている。英文の生成文法の授業は言語学研究室の授業と曜限がかぶっていることが多いのはたまたまなのか意図的なのか…。しかも英文の生成文法の授業は言語学の授業なのに認定科目ではない。
比較/歴史言語学…比較言語学とは、同系統の言語を比較してその歴史的展開を研究する学問。歴史言語学は比較言語学に加えて、ある言語現象の地理的分布から歴史を研究する言語地理学も含む(という理解でいいですか?)。この回をまだ受けていなくても、持ち出しの比較言語学を履修して問題ない。
文字論…文字について学ぶ。
社会言語学…言語と社会のかかわりについて学ぶ?うろ覚え。
応用言語学…なんだったっけ?言語習得とか?うろ覚え。
テストはそこまで難しくないが持ち込み不可なので、授業資料と自分がとったメモ・ノートを熟読し、記憶する必要がある。各先生ごとに大問1つが出て計4問だった。小問の数とかは忘れた(問題用紙は持ち帰ってあるのでそれを見ればいい話だが)。また寝ていた回の内容が出ると解けない(2Aでは薬を飲む量が今よりも多かったので副作用で結構寝てしまっていた)ので、授業はしっかり聴くべきである。あとラテン文字のつづりを間違えても正解にしてくれる先生がいる。
また、前回も書いたが概論の内容はちゃんと身に付けておかないとあとで困る。開講期間中に復習をするのはもちろん、3S開始前にも復習しておくべきである。
この授業を受けることで、自分が言語学のどの分野に興味を持っているのかわかるという性質も持つ。
水3 国語学特殊講義VI
「国語音観察史」というテーマで、日本人が日本語の音をどう観察してきたかをテーマに日本語の音韻史の諸問題について学べる授業。肥爪先生の授業はどれもそうらしいが貴重そうな資料をたくさん(コピーだが)見せてもらえる。近世以前の日本語の音に興味があるわたしのような人垂涎の授業である。持ち出し可で、来年のAセメスターにも似たような授業が開講される可能性がある。
先生が「キンチョー どんと」のCMが好きらしく、「上代(古墳時代~奈良時代ごろまでの)日本語のサ行はどういう音だったか」という話にこじつけて「このCMの中で寒いをチャップイと言っているのはサがチャと読まれていたという説を採用しているからだ」みたいな感じで見せられたのだが、2024Sで開講された同先生の別の授業(拗音論)でも全く同じCMを見せられたので驚いた。なぜ見せられたのかは忘れたが「チャ」が拗音であることに関係すると思われる。
成績評価は字数自由、内容も授業に関連していれば自由(ただし考えるのが大変な人のように1つお題がある)なレポートと出席だが、先生がよく出席を取るのを忘れて授業が終わってから取ることもある。レポートは半分くらい引用の3時間くらいで急いで書いたものを出したら優が来た。2024Sの授業では論文2本の要点をまとめただけのレポートを出したら優上が来たのでこの先生の成績評価は厳しくないはず。
木3 音声学
必修にして癒し授業。Sセメの「音声学Ⅰ」とAセメの「音声学Ⅱ」は同じ内容なので重複履修しても単位は来ず意味はない。そんな無駄なことをするくらいなら家にこもってそこらの川の土手に生えてる里芋でも煮っころがしていたほうが有意義である。
音声学の基本を学ぶほか、世界の言語でみられるさまざまな子音や母音の調音方法を学んで実際に発音練習してできるようにする授業。楽しい。しかしどうしても人により向き不向きがあり、私は比較的できていたほうであったがそれでも歯茎ふるえ音(いわゆる「巻き舌のr」)、口蓋垂ふるえ音(ドイツ語のrらしい)、入破音(みなさんご存じ、海口語のb)は最後までできるようにならなかった。
講義は少なめで発音練習に時間が割かれる。練習では先生1人とTA2人が教室内を回って受講者の発音をチェックしアドバイスしてくれる。待ち時間は暇になるがTwitterとかはしないように(こう書いてみたが私はしていなかった)。
評価は平常点(おそらく発音練習のクオリティが主)、出席、小テスト、最終課題。小テストでは子音(母音もあったかどうか忘れたが、対策はしておこう)の聞き取りのほか、IPA(国際音声記号)を見て「なになに音」というのか書く問題、調音方法を読んでどの音か選ぶ問題、ある音の調音方法を記述する問題が出される(うろ覚えにつき注意)。聞き取りはわりと難しい。最終課題は指定された10種類の音を発音し、録音して提出。難しい音はどちらか片方でいいなど、ある程度の容赦はある。できない音は授業外でも練習するのが肝心である。小さいころ読んだコロコロの某漫画によると、風呂場でバケツをかぶって練習するのが良いらしい。
成績評価はそこまで厳しくないと思われる。
金2 上海語(後期教養)
楽単。しかし上海語は授業を受けるだけではあまり身につかないので、上海語をやる気があるなら独学も必要。前期課程「上海語初級(第三外国語)と2枚看板の授業。Aセメから始まる語学(というかAセメしかない、なんてこと)。
2Sでとった広東語と言語応用論で漢語派(いわゆる中国語と中国語の方言のこと)のおもしろさに目覚めたので、上海に行く気とかはなかったが履修。
抽選があり、楽単狙いで来る人がたくさんいるせいで抽選に落ちることがあると聞いた私はなんと理不尽なことかと思ったが、楽単狙いで取ってみたら面白かったということがあるのが前期教養なのでなんとも言えないなあ…。
評価方法は出席と課題のみで、教科書の単語と本文を発音するだけの課題は内容が評価されず出せば加点。全出席して課題全提出すれば無条件で99優上(100優上は誰ももらえない)という超絶楽単であった。
しかし、試験がなく課題も発音のみで、授業も教員からの一方的な説明+全員で同時に本文を発音+上海の文化や観光名所などの紹介のみなので、逆に上海語をガチでやるモチベーションは起きにくく、加えて個人の上海語の発音や作文を評価してもらえることも多分ない(質問すれば答えてくれると思う)ので、上達はしにくい授業であった。今年から教員が変わったので、多少内容が変わっているかもしれないが、テストがないことに変わりはない。ちゃんと出席して課題を出していれば単位は取れるというのは変わっていないと思われる。人数が多いとまた抽選になるかもしれないとのこと。
文句ばかり言ったが上海語のネイティブから教科書の内容の補足に加えて、スラングや罵倒語まで教えてもらえる機会はそうそうなかったと思う。今の教員も教えてくれるかはわからない。
第一回に出なければ履修できず、最終回に出なければ成績がつかないと言われた。前者は今も変わらないだろう。後者の理由は最終回で全員が出席している中、教員が各履修者の出席・課題提出状況を教室前方のスクリーンに映しながら確認し、成績をつけみんなの前で一人一人言い渡していくという前代未聞の儀式が繰り広げられていたからなのであった。何度も言うが教員が変わったのでおそらくこの光景も見られなくなる。くせが強いが、憎めない先生だった。
上海語そのものについて話すと、発音は簡単ではないうえ著しく中国語(普通話)と乖離しているが、語彙面では似通っている。私としては、発音は好みであるものの同じような語ばかりでつまらないと思えたのだが、多くの中国語経験者にとっては、新たに漢字の組み合わせを覚える必要が少ないというのはむしろありがたいことだろう。
金3 言語の変異・変化Ⅰ(後期教養)
英語史の授業。英語の歴史について、現代からさかのぼって古英語までいく。英語の不規則な要素を説明できるようになる感覚を味わうことができる。英語に興味がなくても言語の歴史に興味があればおもしろい。最後の方でゲルマン祖語にも言及してくれる。
授業は講義形式と演習形式の回が交互にあり、演習形式の回ではあらかじめ指定された題目について答えを用意しておき、4人くらいのグループで発表しあい議論する。といっても、途中から各時代の英語で書かれた文章を読んで、言語特徴を指摘する課題だけになった。これが結構大変であり、古英語とかになると語順も全然違うため、現代英語訳を見ながらでもどこがどの部分に対応するのがよくわからなくなってくる。
評価は平常点50%、「試験かレポート」50%と言われていたが12月にレポートだと言われた。レポートは3000字程度で内容は自由度が高かった記憶。授業中は優しく良い先生だが、質の悪いレポートを書くとフィードバックでちゃんと酷評されるので注意。罵倒ではなくあくまで有意義なアドバイスであるが、わたしはとても落ち込んだ。1日で終わらせようとせず、前もって準備して、ちゃんと結論(まとめ)の部分を含めた質の良いレポートを書こう。でも良もらえた。文学部と比べて明らかに成績評価は厳しい。
金5 言語科学への招待(後期教養)
名前はこうなっているが文学部の言語学概論のように言語学を体系的に教えてくれる入門講義というよりは、学際言語科学コースの各教員が研究している分野・内容についての紹介といったかんじの、全11回のオムニバス講義。とはいえ、分野は多岐にわたり、ある程度「言語学の研究とはどんなものか」について知ることができる。マニアックな内容の回もあるが、どの回も面白かった。言語学概論とバッティングはしないので、言語学専修の人も興味があれば駒場に来て取ってみよう。
学際言語科学コースで言語学概論にあたる授業は、3年次で開講される「音の体系」「形の体系」「意味の体系」の3つのターム制授業であると思われる。
おひとり「チョムスキーが何をやったか簡単にでもいいから説明できない人いる?」と受講生に手を上げさせた先生もいらして、後期教養のレベルの高さを思い知ることとなった(ざっくりいうとノーム・チョムスキーは生成文法という今日の言語学の二大重要理論のうちの1つをつくりあげた人であるが私は当時名前しか知らなかった)。
具体的な各回の内容は以下の通り(講義資料より抜粋)だが、たぶん多かれ少なかれ変更があると思うのであくまで参考程度に。
10月 06日:「 声調について 」(不可説注:ほぼ漢語派の話だった)
10月 13日: 「 言語の多様性をめぐる問題 」
10月 20日: 「 統語論入門 」
10月 27日: 「 形式的文法理論の現状と展望 」
11月 10日: 「 深層学習を用いた言語変化の研究 」(不可説注:これが一番おもしろかったかも)
11月 17日: 「 言葉の理解を科学する:心理言語学的アプローチ 」
11月 21日 「 歴史言語学への招待 」
12月 01日: 学際言語科学 コース 内定生 歓迎会(不可説注:コース内定生以外の人は休み)
12月 08日: 「 社会言語学への招待 」
12月 15日: 「 言語の規範を支える「価値観」について考える 」
12月 22日: 「 「底」に「到る」とどうなるのか―脱従属化と文副詞の機能拡張を考える 」
1月 05日 :「 コルシカ語方言学の諸問題 」
評価は毎回授業終了後にすぐ書かなければならないA41枚程度のミニレポート*11本と出席と期末レポート1本。ミニレポートは概して簡単であり、提出期限はその日の20時だが問題なく終わる。居残り必至なので後に予定をいれないように。期末レポートは各回に関連したお題が与えられるので、好きなものを1つ選んで書く。私は漢語好き好き大好きなので「声調について」で書いた。お題は「自分や自分の親族の名前に含まれる漢字の、各地点の漢語派言語における声調について、通時的・共時的な視点から分析せよ」みたいな感じだった(正確なお題の文は今手元にない)。
軽くアドバイス
文学部は好きな分野の専門性が高い授業がとれるのが魅力でもあり、同時に履修の自由度が高く、幅広い分野の授業(がんばれば駒場に行くことも可能)に手を出すこともできるのが魅力でもある。わたしの2Aの履修はまさにそんな感じで、月5の印哲概論をのぞいてすべて言語関連だった。
3S以降で駒場に行く文学部生はそう多くないものの、2Aでは持ち出しが少ないほか、持ち出しはほぼ本郷だが一部駒場開講のものもあるため、週1くらいで駒場に行く文学部内定生も多い印象。内定生は専修の必修・特殊講義をとりつつ、興味に応じて他専修・他学部・果ては駒場の授業まで視野に入れて自由に履修を組むことができる。必修はとらなければならないが、持ち出しの特殊講義をすべて取る必要はない(わたしもそうした)ので、特殊講義の単位は3S以降に回収するとして、他に取りたい授業があればそちらを優先してもよい。コマ数は10コマ前後の人が多い印象。
空きコマが1つあれば余裕で駒場・本郷間の移動は可能だが、昼休みでの移動は2・3限がどちらも105分授業だと厳しく、片方が105分授業だと移動はできるが昼食の時間がとれない可能性がある(実践したことがないため不明)。
それと調子に乗って専門分野外の授業を取りすぎるとしんどくなるため注意。それでは、良き文学部ライフを!
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