水産卸社員なら魚を捌ける?


シジョウってなんだっけ?

イチバじゃないよ、シジョウだよ。

 札幌駅から車で15分ほどの桑園地区にある、札幌市中央卸売市場(しじょう)にやってきました。朝10時は搬入の終わり頃で、トラックや三輪のターレットが撤収や片付けに走り回っています。全国1000以上の卸売市場のうち、国管轄(運営は自治体)の「中央卸売市場」は全国40都市64カ所。北海道では札幌のみで、水産・青果の2つが隣接しています。というわけで、ここには北海道各地の荷物が集まっては散っていきます。もう少し正確にいうと、「全国から荷物が集まる+北海道の荷物を全国へ送り出す」という、さらに大きな役目も担っています。(と、偉そうに言い切れるのは、札幌市中央卸売市場協会の代表専務理事副会長である片貝さんに教わったからです。片貝さんのラジオご出演回はこちら。)

水産卸の社内調理研修

 実は私、「市場(しじょう)」って場所のことだと思っていました。でも実際は、運営する卸売会社も慣習で「市場」と呼ばれます。別名「大卸」で、札幌の水産大卸は2社。そのひとつが今回訪れたカネシメ高橋水産です(「高」 は「はしごだか」)。せりの時間外に来たわけは、社内研修のお魚料理講座です。同社企画部長の森本英裕(もりもと・ひでひろ)さんに「魚のプロの調理実習、見てみたいな」と見学をお願いしました。
 市場管理棟内の調理実習室に入ると、参加者は青い作業服の現場の方と制服や背広の内勤らしい方がちょうど半々、30人ほどがエプロンと帽子をつけて準備中。教卓ではこの勉強会の講師役、札幌市の鮮魚店「鮮魚かなざわ」の金澤範幸(かなざわ・のりゆき)さんが刺し盛りとタイの姿造りの見本を造っています。「今日のテーマは刺身の切り方・盛り方。どんどんやっていくから前に集まってください」という声で、皆さん講師を囲みます。

講師の金澤さんは鮮魚店の会長さん。気っ風がよくて仕事も速い!

速くて旨い、鮮魚店の刺し盛り

 ネタは豪華にバチマグロ、タイ、活アワビ、カンパチ、サーモン。「サクの向きは筋に対してこう、包丁の刃の入れ方はこう、切り方の種類は……」と、魚屋さんでお刺身を頼んだ時と同じ速さで、角の立ったマグロが小気味よく量産されていきます。「では皆さん、切って切って切りまくってください!」という先生の気勢とともに、各自で刺身包丁を握ります。現場担当者の方々は「エビ類なら任せて。マグロは頼みます」とか「うちの子の好物はこれとこれ」などと包丁もトークも軽快。中にはご夫婦らしき二人の「晩のおかずはこれでいいよね?」なんて会話も飛び交います。水産卸にも様々な持ち場があり色々な人がいるんだな〜と面白く聞いていると「あれ?フカエさんもやるんですよ?」と森本さん。そこで急遽、仲間に入れて頂きました。研いだ包丁とよい材料を扱うのって、まるで料理が上手くなったような気持ちよさ。しかし活アワビの殻を外したことがなくて、「こっち側からナイフを入れる!」「もう少し深く!」とコーチが何人もついて頂きやっと成功できました。店頭でよく見かける小粒のアワビを買って、ぜひ家でもやろうと思います。今回お邪魔した2023年12月の社内講習会は通算8回目とのことで、皆さんとても手早い。各卓でみるみるうちに豪華な5種盛りが完成していました。

バチマグロ、サーモン、カンパチ背、カンパチ腹、活アワビ、マダイ、マダイの湯引き。

部外者目線の気づき

 駆け足で学んだお刺身講習ですが、色々発見がありました。その一番は、あらかじめ用意された取材用プロセスでは「下拵え」の部分です。魚の形や大きさによる切り方の違い、種類ごとの皮の引き方、骨の硬いタイを半身に割る方法や皮目を残して鱗を立てる造り方。フィレから始めるのとは違い、プロのスピード感も含めて「本来はこうやるんだ」と実感しました。同じことはとうてい無理でも、頭の中にイメージを持つのは大切です(と自分に言い聞かせてます)。

「皮の引き方はこうね!」……ついていけない自分がいました(汗)

 また、ちょっと意外だったのが社員さん同士の雰囲気です。女性が少数派のセリ場の雰囲気を見て「社風も男性優位かな?」と先入観を持っていたのですが、社歴も男女もバラバラの皆さんが一緒に学ぶ姿にちょっと嬉しくなりました。森本さんは「水産会社とはいえ全員魚が捌けるわけじゃない。だからこの研修、案外人気なんですよ」と言います。森本さんによれば同社は2024年に創業100周年を迎えるそう。「これを機に市場の役割のひとつである情報発信にいっそう努めます。市民の方が楽しめる動画や企画にも挑戦したい」とのことでした。

 とにもかくにも「自宅でお刺身」にやる気をもらえた講習会(アワビも買ってみよう)。機会をくださった森本部長はじめカネシメ高橋水産の皆さん、お誘いありがとうございました。

おわりに

 水産資源の適切な管理が重要である一方、北海道では低利用魚や未利用魚が多いのも現実です。いずれは市民向けにそうした企画も欲しいなと、私は思います。作る楽しみと食べる喜びを一体化した「大人の魚食教室」には人気コンテンツの匂いがします。そして、食トレンドの歯車は得てして「楽しさ」から動き始めることが多いのです。

カネシメ髙橋水産の皆さん、ありがとうございました。

札幌市中央卸売市場 https://www.sapporo-market.gr.jp/
カネシメ髙橋水産 https://kaneshime-hd.jp/

 

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