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心温まる狂気・ENAシリーズ新作「Power of Potluck」の内容と考察

先日「The Amazing Digital Circus」を観たところ、YouTubeにサジェストされて出会った「ENA」シリーズにもハマっています。

タイムリーに先日、新作アニメーション「Power of Potluck」が公開されたので、内容まとめ&多少の考察をしていきます。

※現時点ではYouTubeの自動字幕のみで、日本語字幕がないため、英語でセリフや展開等を書き出して自ら理解を深めるための自分用メモでもあります。問題がある場合には削除します。





「ENA」とは

まず「ENA」とは何かについて簡単に触れておこう。

「ENA」はペルーのアニメーターJoel Guerraを中心に制作されている、2Dと3D表現の両方が入り混じった独特のアニメーションだ。

主人公ENA(エナ)は学生服のような服を着たおかっぱの女の子で、左と右に感情表現や性格の異なる二つの顔を持っている。
片方は青くてポリゴンチックな見た目で、片方は黄色くてなめらかな見た目をしている。
また、青い方は非常にネガティブな性格で女性の声で喋り、黄色い方は淡々としていて礼儀正しく、男性の声で喋る。

これまでに公開されているアニメーションは、総じて一見すると狂気的なアニメーションと捉えられそうな作品である。
というのも、登場するキャラクターは見た目も喋りもなかなか癖があるし、要所要所の展開やセリフも素直には理解しづらい。
いわゆる分かりやすいお話として、一個一個のセリフや展開に即座に意味や一貫性を求めようとする人には「なんだこれは」で終わってしまうだろう。

しかし、最初は「なんだこれは」という感覚だったのに、気が付いたら最後まで観てしまっているタイプのお話でもある。そして、そこで何が起きているのかもっと観直して知りたくなってしまう。

そして何度か同じムービーを繰り返し観ていくと、意外とお話の筋はシンプルであることに気づく。
「Auction Day」ではENAが親友のMoonyと一緒にオークションに頑張って挑戦したり(オチが大変可笑しい)、
「Extinction Party(断絶パーティー)」ではMoonyに贈り物を届けにいくお話だったり(これもオチが泣ける)、
「Temptation Stairway」では同じくMoonyと願い事を賭けて競走してたりと、お話でこれから始まることが何か、は結構最初に提示されているし一貫している。
かつ、本質はENAとMoonyの友情だったりと、心温まるテーマになっている。

映像表現としても、「ゆめにっき」のインスパイア元で知られるPSのソフト「LSD: Dream Emulator」や、「東脳」「中天」ほか佐藤理作品に影響を受けているようで、サイケデリックでかっこいい。
実際にゲームエンジン上で動かしていると思われる演出も多く、とても興味深い。

現在彼らは「ENA: Dream BBQ」というゲームを続編として制作中で、アニメーションとゲームがお話の舞台として文字通り地続きになっている、という表現手法が非常に面白い。
トレーラーもとてもかっこいいのでぜひチェックしてみてほしい。

各アニメーションで使用されている音楽についても、(音楽ジャンルにはあまり詳しくないのだが)「Webcore」「Internetcore」と呼ばれているものが使われているようで、ENAたちのいる奇怪なデジタルっぽい世界の雰囲気に見事にマッチしている。

ENA: Power of Potluckの内容まとめ

※以下、セリフをすべていったん引用していくので注意。英語力ガバガバのため聞き取れていない・理解が甘い箇所あり。

(目のような形をした動く円の中にカラフルな扉が現れる。青のENAの手が扉に伸びていく)

ENA(ふたつの声が重なっている):
I'm unsure how much truth this house,

(女性の叫び声のような音が聴こえる。多分Moony)

ENA(ふたつの声が重なっている):
but it appears all of this has something to do with the concept of...

ENA(お面):
FUN!!!
May I see it, please.

(ENAから伸びた青いお面が声をあげる。青色ENAと同じ女性の声。しかし、ハッピーな印象)

ENAはこの後に登場する青い建物に向かっている。
「FUN(楽しいもの)」を提供してくれるシアター、とでも呼べばいいのだろうか。
いつの間にかネガティブ側のENAはお面に変化していて、紐のようなもので結ばれて独立して動くようになっている。彼女はFUNが知りたくて仕方がない様子だ。

(ワイヤーフレームの街の中の青い建物に入る)
(俯瞰ビューでENAを操作。回廊に二本脚が生えた風船みたいなのが複数飛んでいる)
(突きあたりまで行くと、うさぎのような歌手のような生物)

ENA(右):
Excuse my noise, could you be so generous as to sing me towards the fun?

うさぎ(歌うように答える):
What a stink! That is not the essence of merriness...
Aren't you entertained enough?

ENA(お面):
Oh no no no, I absolutely am!
I don't know about you, but I sure can smell it!

うさぎ(シンプルな顔になる):
Golly, you sound positively starved of fun!

(うさぎ、BGMに合わせて歌い出す)
(イエーイ。変なお面うさぎが6匹)

うさぎ:
Go ahead, have a look at this program. Accept it from your siblings.

(マップみたいなプログラムが形成される)

うさぎ:
Quick, the first act already began its execution!

*ENA received the Theatre program.

シアターの入り口でうさぎの歌手みたいな人と会話。
FUNを求めてシアターにやってきたENAは最初はうさぎに本気度を疑われてしまうが、気合いを見せつけて(?)プログラムを無事にゲットすることが出来る。
どうやらシアターにはいくつか演目(Act)があるらしいが……?

(中央の扉が開く。扉を抜けるとき、低い声で笑い声が聞こえる)
(エレベーター内。お面は壁に張り付いている)
(エレベーターの扉が開くとパイプだらけの空間に)

エレベーター内の腕組みENAがかっこいい。
入り口で聴こえる笑い声は、[ACT Ⅴ]で登場する大きな顔のおっさんだろう。

[ACT Ⅰ]
[DISPLAY]


(ENA、パイプにしがみついたり落ちたりしている)

ENA(お面):
Terrific! I perceive illusion within delusions!
A world of endless connections!

ENA(右):
Connections and bonds that are meant to transmit cheerfulness
and even so I... don't recognize this strain of joy.
(ENA本体、ちょっとつらそう)

(パイプの世界。左上から垂直にENAが落ちてくる。頭を打つ)
(上からお面も落ちてくる。お面のひもに引っ張られながらENA、上に登っていく)
(上った空間では、排水溝が真ん中にあり、水が流れ込んでいる。壁に空いた4つの穴から青い女性の上半身が飛び出ている)
(女性が反応する。ENA、話しかける)

ENA(右):
Say, why all the tears? Aren't you supposed to be cheering?

(青い女性の上体が現れる。結構こわい)
(女性は目を閉じていて、目から涙が出続けている。口が開いてそこからさらに女性の頭が登場。目がかっぴらかれている)
(かっぴらかれた女性の目は、映写機になっている。両側に口のアニメーションが映される)

女性:
Sometimes, the most astonishing experiences are the ones we never expect.
These tears are from joy.

ENA(お面):
Wowie! I'd like to buy some of those...

女性:
Sadly, happiness is not for sale in this place.
Rather, the second act granted me this ecstasy.

ENA(右):
Without your permission, may I check it out?

(ENA、奥のカーテンから後ろ歩きで入っていく)

すでにENAはこの空間がFUNだけじゃなさそうなこと、違和感に感づいている印象。

涙を流す女性に関して、「映写機の目から映された映像の中の口がしゃべる」という表現に度肝を抜かれた。しかし、彼女にとってはこれが会話の方法なのである。
「Sadly, happiness is…」というセリフは、出だしの2単語だけでこのお話のテーマであると思われる「楽しい」と「悲しい」の同居が感じられてすごいなと思う。
ENA(右)、他のお話でもそうだが丁寧なようでめちゃくちゃ慇懃無礼なのが可笑しい。

(白い男の顔がアップ)
(先ほどと同じ、男の顔がシャッターや床からはみ出てたり流れたりしている、カフェパラソルがある空間)

この白い男の顔の空間、元ネタがあるのかな。

[ACT Ⅱ]
[THE RISING]


(手前から奥へ流れている男の顔と一緒にお面が流れてくる)

ENA(お面):
What an amazing exploration into the unknown!
The entire universe is waltzing with me!

(ENA本体の顔、右のシャッターから出る)

ENA(右):
But wait, these twists and turns are getting odd.

(ENAの顔、床から出る)

ENA(右):
Or... am I the one the rhythm can't catch?

(ENAの顔、床の違うとこから出る)

ENA(右):
This notion of happiness is quite strange.

(シャッターが開く)
(エレベーターで移動)

ENAのセリフ、「Or... am I the one the rhythm can't catch?」は何だかみんなのテンションに自分だけついていけない陰キャの気持ちを代弁してるかのようでつらい。
そしてお面のハイテンションをよそに、彼女の中での違和感はどんどん募っていっている。

(真っ黒な空間。ENAたち、白いワイヤーフレームのようになって泳ぐ。右上に黒い一つ目のようなものがいる)
(一つ目、消える)

(ENA、左上に泳いでいく)
(右上にドットの恐竜みたいなやつ)
(左下に金髪のドナルドみたいなやつ+ピンクの雪の結晶)
(左上にまた一つ目)

(古い屋敷の通路のような場所につく。通路は紫でドロドロ)
(2人の子どもの影が笑っている。片方は男の子、もう片方は魔女のよう。壁に同じポーズをした人骨が埋まっている)
(ENA、話しかける)

ENA(右):
Evening! It seems I've lost my way to the next act,
and I'd rather not miss it.

(魔女っ子、フワフワ音を出しながらしゃべる)

魔女っ子:
You're up on stage, lady!
This is it!

(子どもたち、向かい合う。雷が鳴って、中の骨が見える)

子どもたち:
You are part of the Third and Fourth act!

[ACT Ⅲ & Ⅳ]
[CRESCENDO OF A DESCENT]

クレッシェンドなのかデクレッシェンドなのか。
ACT1の「喜びの涙」同様、これもやはりFUNとSADNESSが単なる対極のものではなく同居しうる要素である、といったことを表しているように思う。

(子どもたち、楽しそうにジャンプしだす。骨も一緒)

子どもたち:
Take you role and play out joy to all audiences!
It's now your mission.

ENA(お面):
Huh! I think I get it! It's a story of silent movements!
How marvelous and interesting!

(ENAお面、嬉しそう)
(ENA本体、右下から出る)

ENA(右):
Marvelous and interesting, indeed!
Though I feel the gratification of the audience, I catn't sense any change in me.

(ENA本体、怪訝な顔をする)

ENA(右):
Hey... how could a chore like this jollify someone, anywho?!

あなたがACTの主役だよ!FUNを表現して!と子どもたちに言われるも、
引き続きENA本体は疑問でどんどん頭が一杯になっている。
そろそろネガティブENAが復活しそうな頃合い。

誰かこの矛盾した感覚を操作してるんでしょう、出てきなさいよ!と言わんばかりのENA。

(画面急に切り替わる、小さな骸骨がポツリ)

骸骨:
Because it's a joy you still don't understand.

(骸骨が一杯増えて、顔を形作る)

[ACT Ⅴ]
[THERAPY]

かの増殖系アニメーター、Cyriakを思い出す見た目。ここではいったんこのおっさんを「顔」と呼ぶ。

顔:
So, tell me... (laughs)
What's the flavor of today's voyage?

ENA(お面):
Abysmal! Tastes like I'm in a real cosmic stew.

(ENAお面、発狂気味)

顔:
I sense that there might be a touch of exaggeration in your joy.

ENA(右):
Well, the timeless journeys through this play(s) always are familiar.

(ENAお面、浮遊してる)
(ENA本体、丁寧に感想を述べてるけどポーズはつらそう)

ENA(右):
Every time, I acknowledged the enjoyment and pleasure.

(ENA左現る)

ENA(左):
... and all I get were incomprehensible feelings...
And this lousy mask.

(ENAの一言でお面、爆発する)
(顔、笑う)

ENAお面が無理くりFUNを感じようとしていたことがだんだんわかってくるパート。
顔のおっさんに「旅はどうだったか?」と聞かれて答えた「Abysmal」は「最悪」「ひどい」といった意味のようなので、真っ暗な空間にヤバイやつがいる場所に飛ばされたという時点で、彼女がもうお面で誤魔化せなくなっていることがよくわかる。
また顔のおっさんはENAの楽しそうな感想を「exaggeration(誇張)」と表現しているので、無理してるのが彼にも当然見抜かれていたということだろう。
そしてついにネガティブENAが復活し、これまでの矛盾した感情への混乱が爆発、文字通りお面も爆破してしまう。

顔:
You have been coming here persistently―over and over.
The truth is, though, you wilil never find fun in this place.

ENA(右):
Perhaps you have other suggestions?

(顔、赤い布で鼻かどこかを拭う。no, no, noとも聞こえる)

顔:
Fun is quite the elusive varmint―isn't it?
But remenber: it is never lost forever.
Often, the greatest of fun can be found in the little moments.

(ENA、顔を覆っている)

ENA(左):
... *sniff* like...
how little they are?!

(ENA、天を仰ぐ)

顔:
You need not return here anymore.

(顔、脈動しだす)

顔:
This is your resolution.

ここにはFUNはない、と断言する顔のおっさんに「ほかの選択肢はないのですか?」と質問する黄色ENAがけなげでかわいい。
「Fun is quite the elusive varmint―isn't it?」……「楽しさとは、捉えどころのない害虫のようなものだと思わないか?」なかなか深い。
楽しい気持ちは苦しい気持ちと紙一重、アンビバレントなものなのである。それはまさにENAそのものを表しているようにも思える。(最後の顔のおっさんのセリフ「This is your resolution」も、そういうことなのかも)

(画面がホワイトアウトし、冒頭の丸い映像が再び。叫び声が響く。アイナ、アイナと呼んでいる。Moonyだ)
(ピンポーン)
(青い建物の前、ENA立ち尽くす)

Moony:
Ah, I-NA!

(Moonyと、伸び縮みしながら移動する謎の黄色いやつが登場)
(ENA、振り返る)
(怒り気味のMoonyと黄色いやつ)

Moony:
Dude, you were supposed to ring wrong the bell and run, not enter the wrong damn place.
For the last time, it's called ring run wrong run!
Have you even played this ????(聞き取れなかった)

(Moony、ため息)

Moony:
Whatever, I'm over it.
How fun was it inside any ????(聞き取れなかった)

(黄色いやつ、潰れている)

ENA(右):
I...it was very stuffy.

(黄色いやつ、立体に戻ったが顔がでかい。スクワットしている)
(ENA、怪訝な顔)

(黄色いやつ、胴がめちゃくちゃ伸びてる)
(胴の中で何かが動いて、口のチャックがあいて大きく開く)
(泣いてる眼鏡の男性が出てくる。ジャジャーン)

(なんやこれ)
(Moony、スン…としてから男を自分の四角い穴に放り込む)

夢から覚めた……あるいは強制的にシアターの外に出されたENA。
どうやら入っちゃいけないとこにピンポンしてたらしく、Moonyがめっちゃキレている。しかし、最終的には仕方ないわねという風に、「中は楽しかったの?」と聞くMoony。
「すごく息苦しかったよ」というENAの感想はだいぶ面白い。大変だったね。
黄色いやつは一体何者だったんだろう。新しい友達になり得るのか、否か。

Moonyは凄くENAを気にかけてくれるので、なんだかんだでいつも優しい。自分のために同調こそしてくれる友人はいても、怒ってくれる友人というのはなかなか少ない。

以上、セリフを書き起こしながら自分でも考えつつ、たまにDeepLに投げながら大枠のお話を読みとったメモでした。流れがつかめないと思った方の一助になれば幸い。
細かい翻訳は載せていないので、需要があれば自分なりに頑張って翻訳してみます。
また、明らかな間違いがあればご指摘いただけたら嬉しいです。

タイトル「Power of Potluck」の意味とは?

今回のアニメーションの大きなテーマは多分、
「FUN(楽しい)」というポジティブが「SAD(悲しい)」や「怖い」「違和感」といったネガティブと同時に存在しうるということ、
そしてその本質にENAが様々な「ACT」を通じて気づいていき、
最後には顔のおっさんによって真理を知る、というお話なんじゃないかなと思うのですが、
ではその動画のタイトル「Power of Potluck」はどういった意味があるのだろうか?というところを考えてみます。

「Potluck」とは「ありあわせの料理」「持ち寄られた料理」という意味があるようです。

ENAという作品がそもそも、各国料理の詰め合わせのような、作中でもENAお面が形容していた「cosmic stew(宇宙鍋)」じゃなかろうか……というのはさておき、
そういった様々な要素や概念が常に同居していることこそが、本来の人間の感情であり、人間そのものであり、かつ人間の生きる力……「Power」なのかもしれない、という読み取り方は出来る気がします。かなり無理やりです。

事実、奇怪な見た目をしているENAやMoonyにも、その言動から自分との何らかの共通性や人間味を意外にも感じることができます。

ENAシリーズの良さというのはこのような「狂気性の中に、心温まる人間味がある」というところなのではないかと個人的に思います。


素晴らしいアートを制作し続けてくれているJoel氏とそのチームに敬意を表して、本記事を終わろうと思います。


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