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滋味礼讃 89 レモネード

 『レモネード』はレモン果汁に甘みをつけて冷水や炭酸水で割ったもの。炭酸が入るか否かは地域で異なるようです。お湯で割るとホット・レモネードになります。

 この『レモネード』という言葉の響きがものすごく好きです。幼い頃に読んだ『オズの魔法使い』に出てきたとき、恥ずかしながらレモネードを知らなかった私。察するにレモンの飲み物らしいけれど、どんなものかわからない。当時はネットもなく、ただ本をじっと見つめて想像するだけ。

 どこか懐かしくて、それでいてハイカラなイメージだったんです。というより、私の母はレモンを滅多に買わない人だったので、レモン自体がお洒落な食べ物だと思っていました。レモンの蜂蜜漬けなんて、もうそりゃあ憧れでしたよ。

 これは私の感覚的な話になるんですが、名前そのものの響きだけで美味しいものってあると思うんです。たとえば『プディング』は『プリン』よりもなんだか懐かしく、母のぬくもりを感じる。『ぶどう酒』の方が『ワイン』よりも物語が似合う気がする。それと同じような印象を受けるのがレモネードなのです。

 マリネなどを作るためにボトル入りのレモン果汁を常備しているのですが、結構気がつくと賞味期限が迫ってたりする食品ベスト10に入ります。そんなときによくレモネードを作るのです。

 本当はレモンのスライスを浮かべたり、ミントを添えたら綺麗なんだろうなと思いながら無色透明の液体を見つめる私。子どもの頃に思い描いたレモネードはもっとカラフルで甘くてお洒落だったけれど……とは思いながらも、夢にまでみた飲み物を普段の生活で飲めるようになったことは大人になって良かったと思う理由の一つであります。

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