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滋味礼讃 137 赤飯

 おこわの一種で、ハレの日の料理ですね。もち米に小豆やささげを加えて蒸し上げます。

 北海道に移住したとき、赤飯に甘納豆が入っているのを見て驚愕したものです。そこにごま塩をかけるんですよ。スライスした紅ショウガが添えられているのも、どうにも不思議でしたね。
 人生の半分以上を北海道で過ごしている私ですが、赤飯の甘納豆だけはどうしても馴染めませんでした。私は小豆派です。

 赤飯を上手に作れる人って、ものすごく母性を感じます。何故でしょうねぇ。なんだか郷愁を感じる料理だと思うのです。

 勤務していた薬局で、とあるご高齢の女性の常連さんがおりました。
 いつも息子がぐうたらだとこぼしながらも、細やかに面倒を見るとても優しいお袋さん。その彼女が時折、赤飯を差し入れしてくれたものです。
 確かそのお客様は北海道出身ではなかったと記憶しているんですが、そのせいか赤飯は北海道の甘納豆赤飯ではなく、小豆で蒸し上げていました。それが本当に美味しくて。
 息子とともに本州に引っ越してしまいましたが、なんだか愚痴をこぼしながらも息子を一番に考えている彼女の思い出が、赤飯のイメージにしみついているのかもしれません。

 薬局を辞めて群馬に越して1年はたっていますが、常連さんたちの中には赤飯の常連さんのように遠方に引っ越した方もいらっしゃれば、既に何名か亡くなっていますし、痴呆症になってしまった方もいます。
 薬局という職種も手伝ってか、あの職場は人の人生の無常さが特に強く感じられる場所だったと思います。

 ちなみに、私の母が赤飯を蒸している記憶はありません。なので正確に言えば、自分の母ではなく、象徴的な子を想う母の情を感じる料理なのです。

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