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【レビュー】『天穂のサクナヒメ』米は力だ!【ネタバレ無し】

 Nintendo Switch、Playstation4、PCにて発売された国内のインディーゲームサークル えーでるわいすが産んだ大ヒットアクションRPG。
 販売はマーベラス及び同社の子会社であるXSEED Gamesが担当しています。

 武神と豊穣神を両親に持つサクナは家の財産を食いつぶしてぐうたらな生活を送っていた。

 ところがある日、神界に迷い込んだ人間たちを都に侵入させてしまった上に、主神への献上物である米の備蓄を全て台無しにしてしまうという失態を犯す。

 罰として鬼が支配するヒノエ島の調査を命じられ、サクナは人間たちと共に泣く泣く島に渡るのであった。

 はたしてサクナたちの運命やいかに・・・。

公式サイトより引用

 「令和の米騒動」、「農林水産省の公式サイトが攻略サイト」などなど様々なパワーワードを生み出し大きな話題となったのでやったことなくても聞いたことはある、という方は非常に多いのではないでしょうか。

 当時はコロナウイルスまん延による巣ごもり需要が高まっていたことも手伝って、国産インディータイトルとして異例の100万本を超える記録的ヒットをあげたことでも有名。
 まさにインディーゲームドリームというやつですね。

 ゲームとしての基本的な流れは田んぼを耕したり田植えをしたりといった稲作パートと、冒険に出てステージを攻略したり米以外の食材やそのほかの素材を集めるアクションパートを繰り返すのが基本サイクル。
 後述しますが羽衣を使ったワイヤーアクションや装備強化などの要素もしっかり作られていて決して稲作だけで人気になったタイトルではありません。

 インディータイトルではありますがボリュームもかなり豊富でエンドコンテンツなども用意されていますので、これ一本で長く楽しめます。


本格的稲作とそれに対する試行錯誤が楽しい

 作業の手順、気温や日照、田の水量に養分、雑草や害虫益虫、病気などなど多数の要素が影響を及ぼし合う為、攻略サイトなどを使っても中々全容を把握出来ないであろう稲作パートが本作最大の売り。

 サクナヒメの世界には機械や農薬などという便利なものは一切存在せず、昔ながらの伝統的農法で米作りをしていかなければいけません。
 毎年丹念に鍬で土を耕し、苗を一つ一つ丁寧に植えていく重労働を自らコントローラーを握ってコツコツこなす必要があります。

ひたすら地道な作業が続くが、その分達成感もひとしお

 米農家さんの偉大さや食べ物のありがたみを強く感じることが出来る大変な作業ですが、 少しずつ新しい農具が作れるようになったり、サクナ自身のテクニックや神力も上がっていき少しずつですが効率よく、高速に出来るように作られています。

 アクション以外でも成長を感じられ、気が付けば熱中してしまうこのゲームデザインは素晴らしいの一言。

 またとにかく異常といっていいほど要素が多く、味や収穫量を求めすぎると香りや美しさが伸び悩みステータスが偏ったりとかはプレイヤー全員が経験しているのではないでしょうか。

 この辺りのステータスを大きく伸ばすためにはまた少し違った手法を選ぶ必要があるため、田植え前の段階から計画立ててどういう米を作るのか決めていく必要があります。
 他にも益虫がうまく繁殖出来ず害虫に苦しんだり、欲しい素材の集まりが悪く良い肥料が作れなかったり、もはや防ぎようのない天気の影響などもあり、完全な正解が存在しません。

 
この手のゲームでは終盤になるとパターン化して単なる作業化してしまうというのがあるあるですが、こういうマンネリ作業化問題を多様なランダム要素を与えることで解決しています。
 これは意図的に狙ってそういうデザインにしたのか、リアルな稲作を追求したら結果的にこうなったのか、制作者様に聞いてみたい部分です。

稲作だけじゃない!高品質なアクションRPG

 シンプルで遊びやすいアクションも本作の大きな魅力の一つです。

 特に吹っ飛ばした敵をぶつけて連鎖的に大ダメージを与える衝突システムが、爽快感を大幅に高めていていてお気に入り。

 また羽衣をワイヤーのように伸ばして地形に捕まったり、高速で移動したり、敵の背後に回り込んだり、掴んだ敵を投げ飛ばして他の敵に衝突させたりといったアクションが可能。
 熟達すればスパ○ダーマンや進○の巨人のような立体機動戦闘が出来る・・・かも?

 アクションが苦手、という方向けに低難易度は用意されてますし、装備作りや米作りさえ頑張ればステータスで押し切ることも出来るので、誰でも最後まで楽しめる調整になってます。

稲作とアクションのバランスが絶妙

 サクナは豊穣神と武神の子。
 ということでその年のお米の出来がそのままサクナ自身の戦闘力に直結します。
 よりよい米を作ることがそのままアクションパートを進めるうえで重要になってくるので一切手が抜けません。

 一方田んぼを発展させていくうえでは冒険の中で得た素材で新しい農具を作ったり、肥料に混ぜる素材を手に入れたりする必要もあり、「稲作だけ」「アクションだけ」といった偏った遊び方にならないように工夫されています。

 良くも悪くも稲作のスケジュールがゲームサイクルの中心となる為に、冒険を進めたい時に進められないもどかしさは多少ありますが、一方で制限からくる面白味もあるのでこの辺は好みかなと。
私は好きです。

日本の食文化へのリスペクトが詰まっている

 本作の雰囲気作りにおいて核を担っているのが夕餉。(つまり晩御飯です)
収穫した米をはじめとした食材で様々な料理を作ることが出来るのですが、これがまあ本当に美味しそうなんですよ。

 炊飯器やインスタントなんて便利なものはありませんから、釜で炊いたご飯に自家製味噌のお味噌汁。
 お漬物に焼き鮭、卵焼き・・・うーんたまらん。

味噌汁一つとってもいろんな食材を投入出来ますし、卵焼きなんて関東風の甘いやつと関西風のしょっぱいやつどちらも作れたりするこだわりよう。

 そしてメインテーマである「ヤナト田植唄」について。
 こちらの曲は日本各地の民謡、田植唄から少しずつ歌詞やエッセンスを抽出してまとめられているそうです。
 朝倉さやさんの歌声に鳥肌が立ち圧倒されることは間違いなく、少なくとも私個人としては日本ゲーム音楽史に残る名曲であると断言できるほど。
 音楽で心が震え涙が出る、という感覚は私自身一度も記憶にありませんでした。

 ちなみに作詞者は「不明」とされています。
 これは複数の楽曲をもとに作成されたこともそうですが、田植唄ってその土地その土地で代々歌い継がれてきたものなので、いつ頃、誰が作ったのかといった情報が残ってないことも多いそうです。
 でも確かにその歌だけは残り続けている、という事実に歴史と文化を感じますね。

 このヤナト田植唄、使い方まで実に見事で感服しました。
 泣きます。

 ネタバレなので詳しくは遊んでください。
 遊ぶまで聴かないでください。
 そしてクリアした後、改めて歌詞を読んで咀嚼していただきたい。
 何度でも泣けます。

 こういった食や稲作文化への深いリスペクトが日本人の琴線に触れる作品になった最大の要因なのかもしれません。

ちょっとした問題点もあるにはある

 ここまで褒めに褒めまくってきたつもりですが、レビューである以上悪かったポイントも書かなければいけません。

 まずUI面です。
 全体的に後戻り出来ない操作が多く取り返しがつかないうえに影響が大きい為、ミスした時の為に都度セーブ&ロードを必要とします。
 ハイエンド機で遊ぶならさして影響はないかもしれませんが、性能次第ではそれなりにストレスを感じる要因になるかと思います。

 また魚を筆頭にちょくちょく敵が地形に埋まることがあります。
 影響は小さいのですがクリアまでに必ず何度かは遭遇する程度には頻度が高かったので。

 思い当たるのはそんなとこでしょうか。
 すでにアプデを重ねてきた事もあり、現バージョンではインディー相応な完成度は遥かに超えていると言って良いレベルかと。

要点まとめ

良い点

  • 超本格的な稲作シミュレーション

  • シンプルかつ爽快なアクションRPG

  • 稲作とARPGのどちらにも偏らせないアイデアと工夫が素晴らしい

  • 日本伝統の食にまつわる文化に対する深いリスペクト

  • メインテーマであるヤナト田植唄

悪い点

  • キャンセルが出来ない操作が多くセーブ&ロードの頻度が増えがち

  • 敵が壁に埋まる現象がそれなりに高い頻度で起こる

総評

 サクナをはじめとしてキャラもコミカルで親しみやすく、まさに万人におすすめできる大傑作

 単純にゲームとして稲作、アクションRPG、音楽、ストーリー、どこを切り取っても高水準なのは勿論のこと、日本の風俗や文化をこれほどまでにしっかり落とし込んだゲームは見たことがありません。
 日本神話をモチーフにしたゲームは数あれど、そこに暮らす農民達にここまで視点を寄せたゲームは未だかつて無かったんじゃないかな?

 そうしたゲームなので、これでしか得られない感動が体験できるはず。
 あまり「べき」論でゲームを語るのは好きではありませんが、こと本作に関しては日本人ならやるべきだと言い切れます。

 稲作ってガラパゴスなテーマなので、全世界向けに作る大手メーカーは見向きもしないテーマでしょう。
 ここに目を付け、全力で注力したえーでるわいすの皆様の英断には頭が下がりますね。
 新作も制作中とのことなので、そちらも楽しみです。

 私はこれからアニメ版も一気見します!!

評価・・・10 - MASTERPIECE(最高傑作)/10

※本レビューの点数はIGNのガイドラインを基準としています。


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