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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第63話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


「もう赤ん坊の名前を決めよう。動いたと聞いて今すぐ決めたくなった」
「ってか京一郎が決めんの? 別に良いけど」
「別に良いなら、是非ぜひ俺に決めさせてくれ」
「じゃあ良いよ」
 京一郎は夕食の支度をしながらそんなことを言い出したから、俺は赤ちゃんの命名権を与えてやった。すると、珍しく目をきらきら輝かせたのでぷっと噴き出す。
 ところで、京一郎が作っているのは俺のリクエストで「うまうま! つゆだく牛丼」だ(そういうタイトルのレシピを参考にした)。彼はフライパンで玉葱たまねぎを炒めながら言う。
「『園瀬』に合う名前にしないとな。苗字は将来変わるかもしれないが……」
「ああ、そういや園瀬京一郎になるんだったな」
 そう言うと京一郎はこっくり頷き、暫く黙って手を動かしていた。真剣に名前を考えているらしい——向かいのスツールに座った俺は、ニヤニヤしながらその様子を見守る。
「梓、は木の名前だったな」
「うん。木の王様なんだぜ」
「良いセンスだな。お母さんが付けたのか?」
「うん。母ちゃん、国語の先生だしぃ」
「それなのに梓、お前は……」
「何が言いたいか何となく分かるからムカつく!」
 佐智子の担当教科を聞いた京一郎は言葉の途中で口を噤んだから、顔を顰めてそう叫んだ。どうせ教師の息子なのに阿呆だと言いたいのだろう(ちなみに国語の成績は良くても4だった)。
「では、あずさとお揃いの植物の名前が良いな。植物といえば木偏きへん。京一郎の京を取って組み合わせると……」
「そんな漢字あったっけ?」
「あるぞ。椋木むくのきむくだ。音読みはリョウ。よし、決まったぞ」
「ほほう」
「男性アルファ・ベータの場合は椋一りょういち。女性アルファなら椋子りょうこ
「椋一も椋子もめっちゃ古風だな!」
「最近は敢えて古風にするのが流行っているんだぞ」
「ふうん。でも、スゲェぱっぱと決まった割には良いな。男か女か分かるまでは『りょーちゃん』って呼ぼ」
 名前の候補が決まったのが嬉しくて、俺は腹の膨らみを撫でながらそう言った。すると京一郎も「『りょーちゃん』、可愛いな」と応えて賛成する。
「よし! りょーちゃんのためにも、汁だく牛丼の肉はメガ盛りでお願いしまっす!」
「でもあずさ、少し食事制限するんじゃなかったか? 牛丼は結構カロリーあるぞ……」
「良いから肉を寄越せ! 肉を寄越さないと、今度りょーちゃんが動いても教えてやんねーぞ!!」
「わ、分かった……」
 「りょーちゃん」を盾に取った脅しに京一郎はあっさり屈したので、俺はクククと笑った……。

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