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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第64話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 明くる日の土曜、俺は佐智子と近所のス◯バでお茶することになっていた。彼女はいつも通り休日出勤していたが、赤ちゃんの名前が決まったとラ◯ンメッセージを送ったら、午後は久しぶりに親子二人で話そうと返信があったのだ。
「親子水入らずでお茶するのは良いが、きっと告げ口をするつもりだろう」
「告げ口って何だよ! 京一郎、やましいことをしてる自覚でもあんのか? 例えば、俺に肉をやらないで虐待してるとか……」
「汁だく牛丼の肉はちゃんとメガ盛りにしただろう。いや、あれは最早もはやギガ盛りだった」
「でも今朝のソーセージエッグのソーセージは三本しか入ってなかったじゃねーか!!」
「三本で十分だろう!」
 そんな下らない言い合いをしていたら、ラ◯ンメッセージの通知音が鳴った。見ると佐智子からで、もうすぐこちらに到着するとのことだった。ス◯バには歩いて行ける距離だが、態態わざわざ乗せに来てくれるらしい。
「さあーて、期間限定のプラベチーノは何味かなぁ? クリームたっぷりにして貰おうっと」
「あずさ、それを食べたら今日のおやつは無しだぞ。夕飯まで何も食べるな」
「ちぇっ、分かったよ〜。んで、今日の夕飯何?」
「今日はあずさちゃんの大好きなブリの照り焼きだ」
「おっ、良いですな……」
 好物が出ると聞いて目を輝かせた時、聞き慣れたエンジン音が聞こえた。佐智子が到着したらしい。
「それじゃ、京一郎、良い子でお留守番してるんだぞ。ぽん吉に迷惑掛けないようにな」
「お母さんとたくさん話したいだろうが、なるべく早く帰って来てくれ。お前が居ないと落ち着かない」
「完全に分離不安じゃねーか!!」
 そんな突っ込みを入れながら、俺は家を出た……。

 外に出ると、前の道に佐智子の愛車である赤のワンボックスカーが停まっていた。運転席の彼女に向かって笑顔で手を振り、すぐに助手席に乗り込んだ。
「母ちゃんおーまたっ」
「あら梓、ご機嫌ね。京一郎さんは元気?」
「今日の夕飯、ブリの照り焼き作ってくれるってー。あと分離不安起こしてる」
「は? 分離不安?」
 出掛でがけの京一郎とのやりとりを話しているうちに、バイパス沿いにあるス◯ーバックスO店に到着した。休日なので混んでいたが、第二駐車場にはまだ空きスペースがあった。さっさと駐車すると、佐智子と並んで店に入った。
「俺さ、この前初めてス◯ーバックスカード買ったんだぜ。んでアプリに入れてる」
「そうなの? ポイント貯まるのかしら」
「おう! 貯まったら七百円分のタダ券貰える」
「私は滅多に来ないけど、あなた達は近くだもんね」
「まあ、逆に近くだから意外に来ないけど……」
 レジ前に並びながらそんなやりとりをする。ちなみに俺のス◯ーバックスカード(※専用のプリペイドカード)には白い雪達磨ゆきだるまのイラストがプリントされていて、前に京一郎と来た時に見つけて可愛いな、と言ったら、「あずさみたいな達磨だな」などと失礼な感想を言いながら買ってくれたのである。
「それで、今日は何で誘ってくれたん? こんなん初めてだよな。母ちゃんと外で話すの」
「そりゃそうよ。一緒に住んでたんだから……」
 ドリンクを受け取った俺と佐智子は、予め取っておいた窓際のソファ席に掛けた(人気の席だが、店に入った時丁度前に居た客が立ったところだった)。俺は「ほうじ茶クリームプラベチーノ」を、佐智子はラテのMサイズを手にしている。
「梓が居ないと家が片付いて良いわ。前はそこらじゅうに脱いだ服やお菓子の袋が……」
「今は京一郎の家が代わりに散らかってるからな」
「お腹が大きいから、京一郎さんに家事をやって貰ってるのは良いとして、散らかすのはやめなさいよ」
 息子の言い草に、佐智子ははあ、と大きなため息を吐いてそう言った。
「あ、それでりょーちゃんのことなんだけどさ」
「ああ、名前ね。椋一と椋子なんて素敵じゃない。流石京一郎さんね」
「京一郎も母ちゃんのセンス褒めてたぞ」
「あら」
 そう言うと、佐智子は嬉しそうになったので俺はくすくす笑った。最初は京一郎の強引な行動に難色を示していた彼女だが、今ではすっかり彼の味方である。
「次の健診はいつなの?」
「再来週の月曜! でも行きたくねーんだよな、めっちゃデブったから」
「本当にね。梓、昔から痩せてるのだけが取り柄だったのに」
「親の癖にひでえ言い草だな!」
 そう言う佐智子は、五十代も半ばに差し掛かろうとしているのにすらっとしたスタイルを保っている。タイトスカートが良く似合っていて、眼鏡を掛けた美人だしある種の熟女好きには人気が出そうである。
「りょーちゃんは、アルファかベータの可能性しかなくて良かったよ。やっぱ大変だからな。オメガは」
 ぽつりとそう言ったら、ラテを飲んでいた佐智子は顔を上げた。眼鏡の奥の大きな瞳で俺の顔をじっと見て言う。
「本当にね。あなたがこんな風に母親になれる日が来るなんて思わなかったわ」
 そう言われて、俺はぽっこり膨らんだ腹を見下ろすと優しく撫でた。冷えたらいけないと言って、思い切り厚着させられたから本当に達磨みたいに着膨れしている。
「京一郎はあと二人は子どもが欲しいって言うし、もしかしたらオメガも生まれるかもしれない。だから本当はりょーちゃん一人にしたいんだけど……」
「そのことは京一郎さんに話してるの?」
 眉を寄せた佐智子の質問に、俺は苦笑すると首を横に振った。いつもふざけてばかりで、そういう真剣な話はあまりしない——それに、京一郎は俺がそんな風に考えているなんて思いもしないだろう。
「京一郎は、俺自身も凄く愛してくれてるけど、それと同じくらいアルファとしてオメガを求めてるところがあるから。運命の番だし、普通以上に……」
「あなたのママは体が弱かったし、運命の番じゃなかったからかしらね……私は一人で十分だと思ったわ」
 俺の言葉を聞いて、佐智子は少し遠くを見るような目をしてそう言った——真知子のことを思い出しているのだろう。彼女が亡くなってから女手一つで俺を育ててくれた佐智子は、寝る前には必ず思い出話をしてくれた。時間と共に薄れて行く愛する人の記憶を、少しでも息子の中に残したかったのかもしれない。
「でも俺、京一郎が望むだけ産むよ。オメガだったとしても、先輩として導けるところは導くし。幸いまだ若いし、あと二人くらいブリブリッと!」
「あんたね、う◯こじゃないんだから……」
 佐智子は俺の言い草に呆れ顔になったが、少しして微笑むと「あなた達が幸せになれる選択をしてくれれば、それで良いわ」と言った……。

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