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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第27話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


「つーか、最近こっちばっかに居て、俺の部屋放置してんなあ……」
「俺は一度冷蔵庫の食材を回収しに行ったが」
「そうだけど……。はあ……マイ・スウィート・キャッスル……」
 せっかく手に入れた自分だけの部屋が恋しくてそう言ったら、京一郎は眉を寄せて「あの規模でキャッスルは無いだろう」と突っ込んだ。
「物のたとえだよ、物の譬え!」
 俺はそう言うと、ぷうと口を膨らませた。それから買って来て貰ったフライドポテトを摘んでもぐもぐ食べる。
「もう四時だが、フライドポテト以外に食べたい物は無いか? 今から夕食を作るが……」
 京一郎はそう言うとそばに寄って来て、フライドポテトの油と塩塗れの俺の手を取りちゅっと口付けた。いちいち気障きざな奴、と思いながら答える。
「フライドポテト」
「えっ」
 何を言っているんだ、という顔で見られたから、口を尖らせて「京一郎オリジナルのフライドポテトが食べたいの」と言った。すると目を丸くして言う。
「この上フライドポテトを食べるのか……」
「良いじゃん! 俺は妊婦なんだぞ! お腹の赤ちゃんが食べたがってるんだぞ!」
 まるで自分が赤ちゃんみたいにジタバタしてそう言ったら、京一郎は珍しくあははと笑った。
「分かった。すぐに作ってやるから待っていろ。あずさちゃん」
「ファッ!?」
 いきなりちゃん付けされて目を見開くと、京一郎はくすくす笑って「今はまるで幼児みたいだからな」と言った……。

 それから二日後、俺がやいのやいのと責付せっついたから、借りている部屋に一度戻ることになった。殆ど半月振りに帰ったのだが、部屋の中は特に変わったところは無かったのでホッとした。
「それで、この部屋に戻って何がしたかったんだ?」
「えっとな、今日はまだ吐いてないから元気だし、インテリア!」
「インテリア?」
 小さな部屋をぐるっと見回してそう言ったら、京一郎は怪訝そうに聞き返した。
「うん。俺、自分の部屋借りたら、好きなようにインテリアコーディネートするのが夢だったんだ。実家の部屋は色んなもんあってさまになんないし」
「ほう……」
 引っ越す時に荷物は厳選したから、部屋の中はまだ殺風景だ。壁紙はごく普通の白で床も明るい色のフローリングだから、幾らでもようがある。
 それから腕組みして壁を睨み、どんな風に部屋を改造するか思案していたら、京一郎が俺の顔を覗き込み「眠いのか?」と聞いたので「考えてんだよ!」と叫ぶ。
「俺もインテリアにこだわるのは好きだが、こんなうさぎ小屋みたいな狭い部屋、やり方は限られてくるぞ」
「自分が貸した癖にひでえ言い草!」
 大喜びでうさぎ小屋に住もうとしている俺の立つ瀬が無いと顔を顰めていたら、京一郎は立ち上がって言う。
「しかし案外、こんな風にスペースが限られている方が張り合いがある。高級なものを置いても映えないから、それなりの値段で揃えるのが良いだろう」
「そうね。とりま、照明が一番重要かな」
 俺はそう応えると、何の変哲も無い蛍光灯のシーリングライトを見上げた。すると京一郎が「取り替えるのか?」と聞いたのでこっくり頷く。
「目には良くないけど、どうせ細かい作業はしないからな。昼光色ちゅうこうしょくじゃなくて、電球色のLED照明に変える。ペンダントタイプのお洒落しゃれなやつ」
「ああ、電球色なら確かに雰囲気が出るな」
 昼光色とは所謂いわゆる青白い蛍光灯の光の色で、電球色は白熱灯に似た暖色系の光の色だ。勉強や手作業をするなら昼光色一択だが、俺の場合、夜は寝るだけなので問題ない。
「ふむ。あずさ、何か専門に勉強したのか? なかなかインテリアに詳しそうだな」
 不意にそう聞かれて、俺は「ああ」と言って訳を話す。
「ガキん頃から部屋の中飾るの好きでさ。置き物の配置とかこだわったり……。でも、実家じゃ思うように出来ないし、イン◯タとかのインテリア専門アカウントフォローして、海外のお洒落な部屋の画像とか漁りまくってた」
「ほう。奇遇だな、俺もインテリアのアカウントの投稿を見るのは好きだ」
「そうでしょうね。京一郎の家、めっちゃお洒落だし」
 素直に褒めると、京一郎はいつものようにフフン、と言って「当たり前だ」と続けた……。

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