【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第93話】
【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬梓は、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂のジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?
ファンシーショップでは各都道府県の名物のイラストが描かれた「ご当地ちゃんシリーズ」のスニーカーソックスを買った。俺のお気に入りは、お隣うどん県のうどん靴下と、秋田県のあきたいぬ靴下だ。
「俺さ、秋田犬って柴犬の大人の姿だって思ってたんだよ! ガキん頃……」
「流石、あずさらしい勘違いだな。ちなみにぽん吉さんはたまに柴犬の子犬と間違われる」
「態態柴犬カットにして寄せて行ってるもんな!」
本来は噴水のように生えたふさふさの被毛を持つぽん吉だが、月に一回のトリミングで短くカットしているから小さな柴犬みたいに見える。目がバカでかいし、本物の柴犬の子犬とは似て非なる姿なのだが。
「ところで、免許は持っているんだったな。運転をする気はあるのか? あずさ」
「ん? そうだなあ、俺も運転した方が絶対便利だよな……」
Yタウン直営のベビー用品売り場に行くためエスカレーターに乗っていたら、出し抜けに現実的な話をされて俺は目を瞬かせた。免許を取得してからずっとペーパードライバーだが、何度か練習すればすぐに乗り熟せるようになる自信があったのでこっくり頷く。
「分かった。では乗らなくて良いぞ」
「ええっ!? 文脈が全然繋がってないぞ、京一郎きゅん!」
京一郎は言下にそう言ったので、訳が分からなくて顔を顰めた。すると彼は真面目な顔で続ける。
「あずさの運転が上手か下手か知らないが、どちらにせよ俺が居ないときに運転されては心配で堪らないからな。癌になってしまう」
「癌!? また話が飛んだな……」
飛躍した発言に、俺は思い切り突っ込んだがすぐに大きなため息を吐いた。先程から、京一郎は少し様子が変だ。
「京一郎きゅん、りょーちゃんのパパなんだから、もっとドーンと構えててくれよ! っていうか、少しは俺を信用しろ!」
「ぐっ」
そう言うと、京一郎はテンプレートに言葉に詰まったので俺はブッと噴き出した。けれどもすぐに気を取り直して口を開く。
「京一郎きゅんは大体いつも居るけど、絶対二人共車に乗れた方が便利だって! 一台しかねえけど……」
「ああ、車なら買ってやるぞ。もう一台分スペースはあるし……」
立ち直ったらしい京一郎は何でもない風にそう言ったので、俺はぎょっとした。それからプルプル震えて叫ぶ。
「ま、まさかこの年にしてマイカーを持つことが出来るなんて!!」
「そんなに欲しかったのか?」
「当たり前だろ! ニートの分際で車なんて無理だから諦めてたけど、本当はめっちゃ欲しかったんだよ、マイカー!」
「そうか……。しかし、見てないときはカーナビのGPSを追跡しないと。行動範囲が広がり過ぎる……」
「何かヤベェ発言してない? 京一郎きゅん……」
GPSを追跡するなんて、そこまでして行動管理をしたいのかと呆れたが、阿呆な俺は余り気にしなかった。
そうして到着した直営のチャイルドシート売り場には、京一郎が事前に調べていた最高級モデルが一台だけ置いてあった。けれども他に候補に挙げているブランド全部は無かった——それでもネットで見るのとは違ってあちこち触ったり色んな角度から見ることが出来たので、来た甲斐があったと俺は喜んだ。一方、京一郎は置いてあったカタログを手に細部まで仕様を確認していて、かなりのガチ勢振りに俺は呆れ半分、感心半分になった。
「よし! とりま色色分かったし、今度はぽん吉とコー◯ン行ってユトリ行くぞ! たのぴーな!」
「休憩しなくて良いのか? ほら、お茶を飲め」
平面駐車場に停めてあるベ◯ツへ向かってるんるん戻っていたら、腕を引かれて無理矢理鳥瓶の麦茶のボトルを渡された。俺は「おおう」と応えて受け取って、ごくごく飲んだ。
「あずさは、俺よりずっと生活力があるな……無一文だが」
「は? 何だよ藪からステックに。しかも無一文って無礼だな!」
「坂本さんとあんなに仲良くなっているなんて知らなかった。スマホをぽちぽちするだけで、よくあんな風に友達になれるな……」
「え?」
沈んだ顔で俺を見つめていた京一郎がそんなことを話し出して、俺はきょとんとした。それから、また不安になっているのだな、と気付く。
「大丈夫だよ、京一郎きゅん。いくら京一郎きゅんがコミュ障でも、置いてけ堀にしたりしないぜ」
「コミュ障……」
京一郎は俺の言い草に微妙な表情をしたが、図星なのか反論しなかった。それに俺はくすっと笑うと、そばに行って彼に寄り添った。
「りょーちゃんはデカくなったらどっか行くと思うけど、俺はずっと一緒に居るから心配すんな。京一郎きゅん……」
「あずさ……」
そう言うと、京一郎は切なげに名を呼んで俺の体をきつく抱き締めた。駐車場のど真ん中で恥ずかしいけれど、広い背中に腕を回す。
いつの間にか点いた照明の光を受けて、二人の左手首に嵌められたブレスレットがきらりと光った……。
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