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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第92話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


「あ! ハリネズミラスクがあるぞ! 京一郎」
「やっぱり……」
「何がやっぱりなんだ!?」
 平日月曜のYタウンは空いていたから、平面駐車場に車を停めることが出来た。スーパー部に一番近い入口から店内へ入ると、まず初めにコンタッキーフライドチキンがあり、その向かいには猫の形の食パンで人気を博しているパン屋があった。店の入口にはハリネズミの大きなぬいぐるみが置いてあって、そいつは首から「『ハリネズミのチョコ掛けまくったラスク』あるよ!」と書かれたメッセージボードを提げていたので、俺は目をきらきら輝かせて叫んだのだった。
「最初は絶対に食べ物に目を止めると思っていたんだ」
「べ、別に買ってとは言ってないだろ! でも、美味そうだなあ……特にいちご味」
「駄目だぞ。猫の食パンなら買ってやっても良いが……」
「マジ!? なああれ、チョコペーストとかで顔描いたらぽん吉さんになるんじゃね!?」
「よし。買いに行こう」
「いきなり乗り気かよ!!」
 俺の発言を聞いて、京一郎は目をきらっと輝かせると真っ直ぐに店へ向かった。食べ物は絶対に買わないと言っていたのに、意志が弱いな、と上から目線で呆れながら付いて行く。
「あずさはごくまれに良いことを言うな。猫だと思っていたから今まで欲しいとは思わなかったが、確かにポメラニアンに加工することが出来る……」
「ごく稀って失礼だな!!」
 京一郎は早速購入した猫の食パンの袋をガサガサ言わせながらそう言ったので、俺は眉を寄せて突っ込んだ。全く、失礼にも程がある。
「では、食べ物を買うのはこれが最初で最後にするぞ。スーパーで食材は買うが……」
「なあなあ、まだクラムチャウダーってやってんのかな!? 二階のサンマ◯クで!!」
「お前は本当に話を聞いているのか?」
 そんな会話をしながら、俺達は歩き始めた。Yタウンは一部を除いてペット入店禁止なので、今はぽん吉は車で待っている——コー◯ンに行く時に出してやるつもりだ。
「節分もバレンタインも終わったし、こうなるとイベントって無いよな……あっ!」
「どうした」
「イースターがあるじゃん! ケルディでエッグチョコ売ってねえかな〜……」
「あずさの脳みそにある食べ物直結回路は、開頭手術でもしない限り治りそうにないな」
「解凍手術!? 一回凍らせんのか?」
「……」
 コーヒー豆や輸入食料品を販売する大手チェーン店の名前を出してそう言ったら、大きなため息を吐いた京一郎が妙なことを言ったので俺は首を傾げた。すると黙って再び巨大なため息を吐いたから憤慨する。
「あっ! もしかして、あずさちゃん?」
 その時、誰かがそばに立ち止まってそう言ったので俺達は顔を上げた。するとそこに立っていたのは、前に母親学級でラ◯ンのIDを交換した妊婦、坂本だった。彼女は茶色い髪を頭の上でお団子にしていて、長いワンピースの上にもこもこした上着を羽織り、レッグウォーマーとムートンブーツを履いている。俺は冬らしくてガーリーで可愛いな、と思った。
「あーっ! さかもっちゃん! 久し振り!」
「さかもっちゃん……」
 タコ公園で京一郎とママ友・パパ友作りの話をした時、名前の出ていた坂本とは何度かラ◯ンメッセージのやりとりをして少し親しくなっていた。そうして俺が叫んだニックネームを聞いて、京一郎は僅かに目を見開いている。
「あ、こちらが……」
「うん! こいつ京一郎! 俺の……」
「あずさがいつもお世話になってます。坂本さんのお話はよく聞かせて貰ってます」
 俺の夫、と言おうとして一瞬言葉に詰まったら、京一郎が滅多に見せない満面の笑みを浮かべ、ずいと前へ出てそう言った。そんな彼を見て、坂本は耳まで赤くなっている——無理もない、いきなりこんな眩しい笑顔を向けられたら、誰だってどぎまぎするだろう。
「あ、私、坂本志歩しほです。こちらこそいつも仲良くしていただいて……」
「さかもっちゃんも買い物? 旦那さんは?」
 きょろきょろしてそう聞くと、坂本はふふ、と笑って「仕事よ」と答えたので「なるへそ!」と言った。すると相変わらずにこにこしている京一郎が口を開く。
「あずさは太り過ぎたんで、ウォーキングをしに来たんです」
「おい! バラすなよ……」
 慌てて京一郎のコートの裾を引っ張りながら抗議したら、坂本はあははと笑って「私も似たようなもん」と言った。
「Yタウン、歩くのに良いわよね。ついでに買い物も出来るし……」
「なあなあ、さかもっちゃんはもうチャイルドシート買った? ここって置いてあるんかな……」
「チャイルドシートは従姉いとこのを譲って貰ったからあるんだけど……二階の直営店に売ってるんじゃない?」
「マジ? じゃあ行こうぜ! 京一郎」
「ああ。では坂本さん、また……」
「買い物楽しんでね! あずさちゃん、またラ◯ンする」
「今度どっかで茶しばこう!」
「茶しばく……」
 京一郎は俺の言い様にまた眉を寄せたが、坂本に一礼するとぐいと俺の手を引いた。それから少し早足になったから、慌てて付いて行きながら「そんなに早く見に行きたいのか? チャイルドシート」と尋ねる。
「いや……」
「なあ! また変なタオルとか靴下買いたい……」
 京一郎が俺の質問に答え掛けた時、前にう◯このタオルと靴下を買ったファンシーショップの前に差し掛かったので俺はお強請ねだりした……。

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