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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第60話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 結局、俺と京一郎と中川の三人でサ◯マルクに入ることになった。屋台で鱈腹たらふく食べたのに、既に小腹が空いていた俺は二月までの期間限定のクラムチャウダーを注文した。実は好物なのである。
「なあ京一郎。今度クラムチャウダーを作りやがれ」
「クラムチャウダー? 別に良いが……」
「え!? 君ら一緒に住んでんの!?」
「というか婚約者だ。もうすぐ入籍する」
「ええーっ」
 俺達の向かいに座っている中川は身を乗り出して聞き、京一郎の答えに思い切りった。それから目をきらきら輝かせたかと思うと自己紹介する。
「俺、中川仁太郎じんたろう。ジンって呼んでよ!」
「おう、ジン。俺、園瀬梓。あずさで良いぜ」
「駄目だ。あずさのことは園瀬と呼べ、中川」
「ブッ」
 独占欲丸出しの発言に、中川——ジンは噴き出したが、へらへら笑って「分かった」と答えた。
「そんで、君らいつの間に出会ってたん? 最後に会った時はお前、ただの暗い引き籠もりだった筈だけど。リア充の俺とは違って」
「何がリア充だ。こんなところに一人で来ている癖に」
「たまたま今彼女も彼氏も居ないんだよっ」
 顔を顰めてそう言ったのを聞いて、ジンはアルファとベータのどちらなのかな、と思った。どう見てもオメガには見えない。
「あずさとは三ヶ月前に出会った。ちなみに運命の番だ。だからもう赤ん坊も居る」
「ええっ!? あっ、ホンマや、言われてみれば……」
 京一郎の言葉に驚いたジンは腹の膨らみをじっと見たから、俺はうっすら赤くなった。すると彼はにっこり笑って「でもま、おめでとう! お前、ずっと運命の番欲しがってたもんな!」と祝福したので中中良い奴だな、と思った。そして一匹狼だと思っていた京一郎にも仲の良い友人が居るのだと分かって嬉しくなった。京一郎は無愛想だが優しいし、当然か、と思う。
「でも良いな、結婚か! 俺もそろそろ身を固めても良いな。三十路だし」
 ジンは俺の薬指に光る婚約指輪を見ながらそう言った。俺は京一郎が答えるよりも早くこっくり頷いて言う。
「俺、京一郎に出会うまで結婚とかするつもりなかったけど、中中良いぜ。ジンもメシウマな彼氏か彼女探せよ」
「あくまでメシウマを強調するのか……」
 俺の言い草に京一郎はうんざりした口調で応えたが、裏腹に嬉しそうな顔をしていたからぷっと噴き出した。するとほんの少し口を尖らせたジンが尋ねる。
「ってか、園瀬って何歳なん?」
「二十五だよ〜」
「若っ! 何だよ田中、上手くやりやがって」
「只の偶然だ」
「俺にも運命の番見つからねぇかな〜。まあ、運命の番じゃなくても可愛いオメガだったら誰でも良いけど」
「流石、節操が無いな」
「何だと!?」
 俺は京一郎に向かってぶうぶう言っているジンを見ながら、成程、やはりアルファなのだな、と思った。背が高くて容姿が優れているし、何より京一郎とずっと同じ学校に通っていたのだから金持ちなのだろう。
「じゃあせっかくの元旦デート、邪魔しちゃ悪いからこれ飲んだら俺は退散するわ。四日までは引き籠もってゲーム三昧だ」
「ジンって仕事は何してんの?」
「ああ、服屋やってる。所謂いわゆるセレクトショップってやつ〜」
「へえ、スゲェな! めっちゃお洒落だもんな」
「マジ? でも園瀬もセンス良いじゃん。今度ウチ来ない? 割引するよ」
「マジ? 行く行く」
 そんな風に意気投合していると、京一郎はあからさまに不機嫌になりサ◯マルク名物のクロワッサンをぱくっと食べた。眉を寄せてもぐもぐ咀嚼そしゃくしているのを見て、俺とジンは同時に噴き出した……。

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