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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第59話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 それからも何軒か雑貨屋を見て回った。家具も売っている大手ブランド「ウコアンド……」に入った時、俺は「何かウコアンドって京一郎っぽいな」と言った。
「まあ、嫌いではないが……どちらかというとアウトドア風な物が多いな、ここは」
「京一郎って真っ白だし、アウトドアとは縁が無さそうだよな」
「虫が嫌いなんだ。ゴキブリが出たら頼むぞ、あずさ」
「ええっ!? 俺だってゴキは嫌だ……っていうか今まで一人暮らしだったのにどうしてたんだよ!」
「ひたすら逃げ回っていた」
「ゴキじゃなくて京一郎が逃げるのかよ!」
 俺はそう突っ込みながら、意外な弱点を発見したな、と思って内心ほくそ笑んだ。切り札としていつか使えるかもしれない——と言っても、俺だって虫は得意ではないのだけれど。
「よし、とりあえず雑貨は一通り見たし、サ◯マルク行こうぜ。京一郎も腹減っただろ」
「いや、それほどでもないが……疲れたのか?」
 無意識に腹の膨らみに手を当てていたから、俺はきょとんとした。すると京一郎はぐいと俺の手を引いて歩き出す。
「すまなかった。阿呆なことばかり言っているから、妊夫だということを忘れていた」
「いや、別にそんな疲れてないぞ? 俺のペースで京一郎を引き回してただけだし……」
「とにかく休憩しよう。好きなものを頼んでゆっくりしろ」
「おう……」
 偉く心配されて大袈裟だな、と思ったが、京一郎も軽食を取りたいだろうし、と手を引かれるままに付いて行った。目当てのサ◯マルクは二階にあるから、並んでエスカレーターに乗る。
「なあ、京一郎どん……」
「お!? 田中!?」
 その時、向かいの下りエスカレーターに乗っていた人物が声を上げてぎょっとした。見ると京一郎と同い年くらいの長身イケメンだった。彼は髪を明るい色に染めていて、ボディピアスをたくさん着けていたから親近感を覚えた——俺と趣味が合いそうである。
「ああ、中川……」
 京一郎はイケメン——中川を見てそう応えたが、続いて「じゃあな」と言ったから、俺は中川と同時にずっこけそうになった。知り合いか友達だろうに塩対応過ぎる。
「なあ、知り合いだろ? あんなんで良いのか?」
「知り合いというか、腐れ縁だ。幼稚園から高校までずっと同じだった。流石に大学は違うが……奴は成績がイマイチだったからな」
「へえ! 確かにあんま賢くなさそうだもんな」
「お前が言うな」
 中川は京一郎の幼馴染みだと知って、俄然がぜん彼に興味が湧いた。けれども擦れ違って一階へ下りてしまったから残念に思う。すると、「おーい! 待てって〜」と叫ぶ声がしたのでまた驚いた。声の主の中川は、エスカレーターと並んでいる階段を駆け上りながら言う。
「一年ぶりくらいじゃね!? なあ、その子って……」
「分かった。二階に着いたら相手してやるから、大声を出すな。恥ずかしい」
「へいへい」
 そんなやりとりを聞いて、俺は更に中川に親近感を覚えた……。

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