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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第1話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 今日は敬老の日で祝日だが、俺には関係ない。ニートだからだ。
 ニートだが引き籠もりではない。所謂いわゆる(?)アクティブニートというやつで、平日は大抵出掛けている(休日は混むので家に居ることが多い)。美容院には小まめに通っているし、おしゃれもする。
 二十四にもなってこんな風に暮らせるのは、親が公務員というプチ勝ち組だからだ。
 話は戻るが今日は祝日だ。どこも混雑しているから普段なら絶対外に出ないのだけれど、ようやく涼しくなって来て、気持ちの良い晴れの日だったから少し散歩することにした。
 家の近くでうろうろしていたら、近所の人に見られる、と祖母が小言を言うから、バスに乗って少し遠くに行ってから歩くつもりだ。
金木犀きんもくせいが咲くのは、いつ頃かな……」
 例年は十月頃開花するが、関東では既に咲いている地域があるらしい。この辺りではまだ全然香っていない。
 俺の家から地元で一番大きい駅まではバスで十五分くらいだ。近くにイ◯ンモールがあるから、休日ダイヤは割と充実している。平日は一時間に三便くらいしかなくて不便なのだけれど。
 免許はあるが、維持費が掛かるので車は持っていない。けれども歩くのは好きだし、時間だけはたっぷりあるから不満はない。

 目的地のT駅前で降車すると、駅舎の前のアーケードを潜って東へ行き、T中央公園を目指した。未だ原生林を残している自然豊かな公園なのだが、県都の中心部にこれだけ広大な緑地帯があるのは全国的にも珍しいそうだ。
「うお、やっぱ人多い……」
 線路を跨ぐ歩道橋の上から公園を見渡すと、家族連れやカップルで一杯だったから、ゲッと思った。しかし、来てすぐに帰る訳にもいかないからとぼとぼ階段を下りる。
「しかし、ワンコが多いのは良いな!」
 俺は大の犬好きだ。今は飼っていないのだが、小さい頃は柴犬の「コロ」が居た。また飼いたいと思っているが、親には「自分の世話も出来ないのに、ペットなんか駄目」と言われているから、自立して家を出るまで無理だ。
 その時、向かいから小さなポメラニアンが歩いて来たので、俺は目を輝かせた。その子は柴犬カットをしていて、最高に好みの見た目である。
(クッソ可愛い……)
 ニヤニヤしながら見ていたら、ポメラニアンは急に立ち止まって気張りはじめた。唐突に始まったう◯ちタイムである。
 すると、飼い主の男性がお散歩バッグからう◯ち袋を取り出して裏返し、犬の尻から出たばかりのブツを拾った。俺は気付かぬうちに立ち止まってその様子をガン見していたが、う◯ち袋越しにう◯ちを手にした男性がふと顔を上げて、ばちっと目が合った。
(うおっ……スゲーイケメン!)
 ポメラニアンに夢中で気付かなかったが、彼は凄い美形だった。切れ長の黒い目を縁取る睫毛は長く、鼻筋も通っていて口元は人形みたいにきれいだが、ちゃんと男らしい顔だ。漆黒の長髪はサラサラで、後ろで緩く結わえられている。和服を着たら最高に格好良いだろうな、と思った。
「お前、もしかして……」
 その時、思ったより低い声で彼がそう呟いて、俺は「えっ」と声を上げた。

 この世界には男女の他に三つ性別がある。極めて能力の高いアルファ、平均的なベータ、そして男性器と女性器の両方を持ち、妊娠することの出来るオメガ(アルファの女性は見た目はベータの女性と同じだが、男性器しか持っていない)。
 そして、俺は外見は男性のオメガだ。毎月生理もある。しかし、好みは女性のベータなので、男と結婚したいとは思っていなかった。

 というか、今気付いたのだけれど、超絶イケメンは臙脂えんじのジャージ(学校の体操服でよく見るやつ)の上下を着ている(流石にゼッケンは付いていなかった)。しかも靴下と運動靴は両方白だ。何でそんなにダサいの。
 それから、俺は何だか体が熱いことにも気付いた。インフルエンザにでもかかったのだろうか。
「お前……」
 イケメンはまたそう呟くと、う◯ち袋をお散歩バッグに仕舞い、ポメラニアンのリードを引いて近付いて来た。
 するとポメラニアンがギャンギャン吠え付いてきたので、「うおっ」と声を上げる。
 そうしたら、突然イケメンにぐいと腕を引かれたからぎょっとした。彼の手が触れている部分がびっくりするほど熱くなったので慌てる。
「ちょっ、何するんですかっ!」
「良いから付いて来い」
 イケメンは低い声でそう言ったが、よく見ると少し汗をかいていて息も荒い。
 それを見て、ようやく俺は気が付いた。
 俺たち二人とも、ヒート(※発情)を起こしている——!!

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