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【オメガバース小説】犬のさんぽのお兄さん【第2話】

【地方都市×オメガバース】オメガでニートの園瀬そのせあずさは、T中央公園を散歩中に謎の長髪イケメンアルファ(ダサい臙脂えんじのジャージ姿)に出会う。その瞬間、ヒートが起きて運命の番だと分かり——!?


 俺はポメラニアンに何度も噛み付かれながら、イケメンに引き摺られて公園の駐車場へ行った。彼は真っ黒なベ◯ツのオフロードタイプのそばまで俺を連れて行くと、ロックを開け助手席に押し込んだ。
「わーっ! 誘拐だー!」
 熱が高くてへとへとだったが、身の危険を感じて叫んだ。しかし、イケメンはバタンとドアを閉めるとポメラニアンを横抱きにして、素早く運転席に乗り込んで来た。
「クレートに入れる暇がない。お前、ぽん吉さんを抱っこしていろ」
「ぽん吉さん!?」
 何故か敬称を付けて呼ばれたポメラニアンことぽん吉を、ぽいと渡されて俺は困惑した。しかもぽん吉はウーウー唸って俺の腕に噛み付いたから、「痛っ」と叫ぶ。
「ぽん吉さん、妙なものを噛んじゃ駄目です。お口が汚れますよ」
「何で敬語なんだし!」
 俺には命令口調なのに、イケメンはぽん吉に敬語で話し掛けた。もしかしなくても奴隷タイプの飼い主!?

 それからイケメンは駐車料金を払い、「ブルンッ」と派手なエンジン音を立てて急発進した。思わずぽん吉をぎゅっと抱えたから、「ガルルッ」と唸られ顎に噛みつかれた。俺は既に傷だらけだが、ワンコ相手に乱暴なことは出来ないから耐えた。
「お前、名前は何という」
「な、名前を聞くならまずアンタが名乗れよ!」
「俺は田中たなか京一郎きょういちろうだ」
 見た目によらず(?)よくある苗字だったので驚いた。それから小さな声で名乗り返す。
園瀬そのせあずさ
 名前だけなら俺の方が格好良い。
 しかし、今はそれどころではない。二人ともヒートを起こしているということは、抑制剤(※急なヒートを抑える注射)を打つか、行為するしかない。けれどももちろん初対面の男とヤるなんて嫌だから、はあはあ言いながら尋ねた。
「アンタ、抑制剤持ってない? あ、でもアルファか……」
 そう、オメガの俺相手にヒートを起こしている京一郎は、アルファなのだ。つまりオメガ用の抑制剤を持っている可能性は低い。
 京一郎は急ハンドルを切りながら答えた(さっきから猛スピードで走っている)。
「抑制剤なんか持っている訳ないだろう。俺は散歩のときはお散歩バッグとスマホ以外持たない派だ」
「そんなこと知るかい!」
 彼の散歩の流儀なんて知る訳ない。ちょっと変わった奴だな、と思いながら再び質問する。
「で、今どこに向かってるんだよ!? もしかして病院!?」
「いや、俺の家だ」
「はあ!?」
「俺たちはきっと運命の番だ。しかし、俺には既にぽん吉さんというパートナーが居るからな。仕方ない、愛人ということにしてやる。着いたらヤるぞ」
「はあーー!?」
 俺の意思を完全に無視した言い草に、隙を見て逃げてやろうかと思った。しかし、逃げたとして他のアルファに犯されるだけだ。
 っていうか、お前のパートナー、犬なんかい!!

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