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「ピュア」のこと

深川ネズミ

「ピュア」は、男性を捕食することで子孫を残し、生を営む女性たちを描いている。
さっそく読者は面食らうに違いない。
「抱きしめて骨を粉々にして、ごりごりと腱を噛み切って、ひとかけらも残さず全てを飲み下してしまいたい。柔らかそうな腹部に歯を立てて内蔵を引きずりだして、ぶちゅぶちゅって噛み潰して、温かい血が喉に流れ込むのを感じて、髪も爪も眼球も、全部全部、私の糧にして、すっぽりと体内に納めてしまいたい」
ユミはエイジとの約束を思い出して我に返る。エイジのことを愛おしく思っているからだ。けれど皮膚が裂ける感触や筋肉の繊維から染み出す肉汁を想像してしまうのだ。

愛おしさが食べる動機になりえるだろうか。
ふと思い出すのは芥川が恋人に宛てた手紙だ。
「この頃ボクは文ちやんがお菓子なら頭から食べてしまいたい位可愛い気がします。嘘ぢやありません」

人間は酸素にしろ、食べ物にしろ、情報にしろ、外部にあるものを自分の中に取り込んで成立させる。
食べ物にしても情報にしても、自分の身体に合わせて吸収するために、咀嚼したり考えたりしながら取り入れる。美味しいものをお腹いっぱい食べたり、SNSをチェックするのは極論すれば生き延びるためだ。危険なものや役に立たないものは排除される。
しかし「ピュア」は、この安全に設計された生に依存することを求めない。
ユミは愛する者の捕食を通じて「螺旋に身を貫かれて、遠い宇宙の彼方まで、永遠に連なっている」ものを感じる。戦いに明け暮れ、退屈を生きるのではないもっと広大で深いものと交わろうと駆け出していく。新しく生まれてくる者と生きたくても生きられなかった者が作った血液の世界へ。

最後にユミは遠い未来から笑いかける。その笑いは後の章で描かれる女の子たちへ捧げられる時空を超えた祝福である。

ピュア https://www.amazon.co.jp/dp/4152099356/ref=cm_sw_r_other_apa_i_DhmUEbRAKXNZ8

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