傑作小説「ヒトでなし 金剛界の章」を読んだ。
惹句に「宗教エンターテインメント」とある。なんだそれは。
京極夏彦はよくジャンルのわからない小説を書くが、これは極めつけだ。
冒頭「俺は、ヒトでなしなんだそうだ。」で始まる。娘が死に、家庭が崩壊し、仕事も家も貯金もすべて失い、雨の中をとぼとぼと歩いている。
これは自分はヒトでなしだと悟ってしまった男が、開き直って生きていく物語だ。
物語はなかなか進まない。主人公にやる気がないからである。
跨線橋で死のうとしている女がいれば「死ね」と言い、おれには関係ないとうそぶく。破産したIT長者の友人のマンションに転がり込むことになるが、そこでも主人公の尾田の思考はぶれないままだ。
箴言が続出する。
「俺は、自分が最低最悪のヒトでなしだと自覚した。自覚したからこそ俺をなくすことができたのだろう。俺は俺がいらない」
こんなことばかり呟いている。
話は最後、劇的な展開をみせるが、このヒトでなしが仏法とどう絡んでいくかが読みどころである。2015年にこんな傑作が出ているとは知らなかった。お薦め。
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