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映画「メランコリック」を観た

 AmazonPrimeで「メランコリック」という映画を観たのは偶然ではない。
 コロナ禍の去年9月、中野のテアトルBONBONという小劇場で、落語家の菊志んさんが出演している「銀色のライセンス」という芝居を観た。そのときに出ていたのが吉田芽吹という役者さんである。
 妻が吉田芽吹さんのことを覚えていて、
「出ている映画があるよ」
 と教えてくれた。

 「メランコリック」は不穏な雰囲気で始まった。
 銭湯を舞台にした暗殺ものの映画である。正確にいえば、暗殺とその後始末かな。
 主人公の鍋岡(皆川暢二)は、東大を卒業しているが、そのあと就職もせず、アルバイトで食いつないでいる。父、母との同居生活だ。家族の団欒はかならず食事シーンなのだが、すこしもおいしそうでない料理を必ず父親が褒める。父親は勤め人、母親は専業主婦に見える。ホントのところはわからない。会話はぎこちなく、鍋岡は腫れ物をさわるように扱われている。
 ある日、鍋岡は銭湯「松の湯」で高校の同級生だった副島(吉田芽吹)と出会う。それがきっかけで、「松の湯」でアルバイトを始めることになるのだが、ここが裏社会と表社会の混交する場所だった。
 夜中になると、人間が誘拐されてきて、殺され、焼かれる。ある夜、その光景を目撃してしまった鍋岡は、すこしずつ社会の裏に馴染み始める。そこでは人の命は髪の毛よりも軽かった。
 人は裏でなにをしているか、わからない。
 同じ時期にアルバイトとして雇われた松本(磯崎義和)は年下だが、手練れの殺し屋だった。
 ふたりはいつしかバディになっていく。

 という不思議な映画なのだが、私は本筋よりも鍋岡の不穏な家庭に心惹かれた。
 半死半生になった松本が、鍋岡の家に担ぎ込まれるシーンがある。
「病院には連れていけないんだ」
 と叫ぶ鍋岡。
 鍋岡の母親は布団に松本を寝かせ着け、肩の銃創にアルコールをぶっかけ、弾を抜き出す。この人、何者? 元看護婦だったのか、なんなんのか、説明はなにもない。父親はあいかわらずふつうだ。この人たちにもなにか裏の顔があるのか?
 日常の中にホラーと不条理が溶け込んでいる。ぞわぞわとした感じがなんともいえない。

 この映画を撮った監督、田中征爾は、IT会社につとめるサラリーマン。撮影は実質10日、土日だけで行われた。予算、300万円。
 舞台となった松の湯は、話をすると「ああ、いいよ。なんでも撮りな」といって場所を貸してくれたというから、強運でもあるのだろう。
 予算と時間はあるに越したことないのだろうけど、ないところから、面白い、変な映画が出てくるもんだなあ。

 この映画、ジャンルは「コメディ」に分類されている。笑えるのか?

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