筒井作品から一冊を選ぶのに悶絶「エロチック街道」

 「名刺がわりの小説10選」の続き。
 いまでも好きな作家であり続けている筒井康隆の作品を入れようとして、はたと手が止まった。膨大な作品の中からなにを選べばいいのか。
 「東海道戦争」か「48億の妄想」か「ベトナム観光公社」か「家族八景」か「虚人たち」か「美藝公」か。いくらでも出てきて、とめどがない。
 友だちは「驚愕の曠野」を選んでいて「潔いなー」と思った。
 私はなぜ筒井康隆が好きなのか。クールな笑い。明晰な文体。つねに前を向いた実験的作風。幻想性。夢へのこだわり。
 あっ。
 そうだ私は筒井康隆の夢への傾倒がとても好きなのだった。だとすれば、選ぶのは「エロチック街道」だ。いかにも夢だとわかる短篇小説。知らない街でタクシーを下ろされ、酒を飲みながら食事をとる。タクシーのある駅前に行きたいのだが、店の人に勧められた方法とは……夜の街→洞窟と続く薄暗いイメージが夢の感覚を刺激する。
 同名の短篇集には「中隊長」「遠い座敷」「われらの地図」「ジャズ大名」などの名作が収録されていて、お買い得。

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