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スキ7

81
noteに発表したショートショートのうちスキが7個以上ついたものをまとめます。お薦め作品集。
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2014年7月の記事一覧

電書鳩

 こんこんと窓ガラスを叩くものがいる。
 正直言って、怖い。
 わたしの部屋は二階にあり、窓は小さなバルコニーとして突きだしており、人間が這い上がってこれるような場所ではないのだ。
 こんこん。
 こんこん。
 わかったよ。
 パソコン画面から顔を上げると、鳩がいた。
「その窓、鍵が錆びて開かないんだ」
 と言って後悔した。鳩にむかって、なにを言い訳しているんだ、わたしは。
 あっちあっちと反対側

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自動メモ

 眼球にレンズを埋め込むタイプの老眼レーシック手術をした。
「レンズといっても、ただのレンズやおまへんで。へっへっへ」
 と、白髭をはやした医者は不気味に笑った。
 無料で手術してもらったので、なにをされても文句は言えない。人体実験である。
 手術がおわると、たしかに、近くのものがクリアになった。メガネなしで新聞の文字が読めるのは感動的だ。
 そこいら中にある文字に挑戦。正露丸小瓶の説明書きはちょ

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地獄の審判

 亡者の長い列。
 その最後尾についた。
 どうもまだ自分が死んだという実感はないのだが、三途の川も渡ってしまったことだし、ここで審判をうけることになるのだろう。
 でかい閻魔様が小さなパソコンを器用に操ってなにか言ってるようだ。
 私の順番が回ってきた。
「名前を」
「深川岳志です」
「かわはさんずい?」
「いいえ」
「たけしは?」
「山岳のがくに、こころざし」
「んー、ふかがわたけし、コントロ

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鉛筆

 かりかりかりかり、と音がする。
 原因はわかっている。
 机の隅で一心不乱に鉛筆を囓っている電子ネズミだ。
「なにかあったのか」
「かりかりかり」
 ネズミ社会にもいろいろあるのかもしれない。
 干されているのか区役所にも行かず、朝から鉛筆をかりかりかかり。
 机の上には、きれいに削られた2B鉛筆がずらり。
「はやく書くでチュー」
「うーん。なに書こうかなあ」
「手紙を書くでチュー」
「誰に?」

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杉並プリンタ

 プリンタを買い替えた。
「今度はLAN対応だぞ」
 というと、びすの目があやしく光った。
「あ、なにかする気だろ」
「もうしたでチュー」
「ちょっと待てー。あー、つながらねー。なにをした」
「ワークグループの設定を変更しただけでチュー」
「なんだ。じゃあ、こっちも変えよう。で、ワークグループ名は?」
「bissでチュー」
 悪い予感がする。
 夜中、じーっ、じーっと細かな音がする。
 そーと覗い

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【SS】ハイテク企業

 本日は世界一のハイテク企業にお邪魔しました。
 厳重なセキュリティを施されたビルで、たくさんのエンジニアが議論やコーディングを続けています。
 おおっ、こちらの方、すごいですね。モニター画面が一、二、三、四、五、五画面ですか。なにをしているのでしょう。
 ははあ、監視。
 なにを見張ってるんですか。
 すっぴんって、素顔のすっぴん?
 もしよければ、所属を教えていただけますか。Gマップ部ストリー

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坂本牛馬

 土佐のローカルタレントに坂本牛馬という人物がいた。
 バーニングプロの悪口を言ったために干されてしまい、一家離散。恨み骨髄に達し、ついに国家転覆を画策するようになった。ヤクザが芸能プロダクションをやっているような腐った国は滅びるべしという主張だ。
 彼がまず考えたのは、宮崎大阪同盟だった。
 宮崎へ行って、東国原知事に自分は天皇陛下の密命を受けているといった。
 相手にされなかったので、大阪へ行

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誰にも言えない

 彼女といっしょに水着を買いに行った。
 彼女は奥に飾ってあるビキニを気に入ったようだった。ところが、値札をみると、ほかの水着と一桁ちがう。「すごい水着」というポップも納得の価格だ。
「おいおい」
 と、私は彼女を肩でつついた。
「値札値札」
 彼女は、ちらっと目をやって、
「でも、ほしいーんだもーん」
 といった。
 くそ。水着を買ってあげるから海に行こうなんて誘い方をするんじゃなかった。
 そ

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追跡者

 あとをつけられている気配がする。
 細い一本道。電信柱には薄暗い街灯がともっている。
 家まであと五分。
 すっと、身をずらして、横道に隠れた。すこし猫背の男がきょろきょろしながら通り過ぎていく。
「おい」
「おっ」
 男は驚いて飛び上がった。
「おまえ、誰だ」
「あー、わたし。わたしは神です」
「かみ?」
「不幸じゃない神」
「どんな神様なんだよ」
「不幸そうに見えるけど、土俵際いっぱいでこら

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発熱外来

 39度の熱が下がらない。
 もう一度、杉並区の発熱相談センターに電話してみた。
「あの、熱が下がらないんですが、杉並インフル以外は診ていただけないんですか」
「はい」
 きっぱりと言われてしまった。
「新型インフルでも?」
「その疑いがあるときは、都の相談センターにご連絡ください」
「もしもし、相談センターですか。発熱しているんですが」
「何度ですか」
「ずっと39度です」
「では、検体を採取し

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新製品発表会

 新製品の発表会に遅れた。
 ふだんは企業の講習会に利用されているという会場は、テーブルが階段状に配置されている大きな箱だ。
「あれ」
 まだ始まっていなかったのか。
 三百人ほどのビジネスマンが、じっと講師の登場を待っている。
 待ちすぎじゃないの?
 時計をみるのにも疲れて、あたりを見回すと、さかんにうなずいている者がいる。居眠りしている者がいる。あろうことか、メモをとっている者さえいる。
 

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夢の代償

玄関のチャイムが鳴った。
「えー、おせんにキャラメル、精神分析はいかが」
「またおかしなやつが入ってきたな」
 びすはポケットに隠れたままだ。
「わたくし、あやしいものではございません」
「ばりばりにあやしい」
「夢が必要です。夢をください」
「なにいってんだ」
「あなた、寝ているときに夢みませんか」
「みるけど、忘れるよ」
「覚えているでチュー」
「お。なんだ。おまえは」
 精神分析野郎はファイ

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見える化

 家の前の道路をずっと工事していて、これは私の生きているうちには終わらないのではないかと思っていたら、ある日、忽然と自転車専用レーンがあらわれた。
「こんなものを作っていたのかー」
 さっそく自転車を引っ張り出してきて、走ってみる。快適だ。このレーン、どこまで続いているのだろうかと思い、都心方向に向かってひたすら走ってみる。
 自転車の数は増える一方だ。
 二台併走できるくらいの幅なので、自然と遅

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残念な正月

 今年入社したばかりの新人、塩屋花子が田中課長の机に近づいて、書類を提出した。
「これは?」
「お休みをいただきたくて」
「ふーん。いつ?」
「5月20日から22日までです」
「なにか、特別な用でもあるの」
「お正月なので」
「え?」
「あの、うち、家訓でお正月は5月20日から22日までと決まっているんです」
「正月って家訓で決めるものじゃないでしょ」
「家訓で決めるものだと思いますけど」
「いや

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