残念な正月

 今年入社したばかりの新人、塩屋花子が田中課長の机に近づいて、書類を提出した。
「これは?」
「お休みをいただきたくて」
「ふーん。いつ?」
「5月20日から22日までです」
「なにか、特別な用でもあるの」
「お正月なので」
「え?」
「あの、うち、家訓でお正月は5月20日から22日までと決まっているんです」
「正月って家訓で決めるものじゃないでしょ」
「家訓で決めるものだと思いますけど」
「いや、決まっているんだよ。元旦っていえば、1月1日。ね。1年はここから始まるの」
「なんですかその中途半端な日は。5月20日ですよ」
「きみんちはずーっとそうだったのか」
「ずーっとそうです」
「残念な正月だな」
「どうしてですか」
「だって、そんな正月はきみんちだけだろ」
「回りが働いている時に朝風呂、朝酒は最高ですよ」
「なんだと。こんな休暇は認めん」
「認めなくても会社には来ません」
「お、おまえなんかクビだっ」
「なにを騒いでおる」
「あっ、社長。この者が5月20日は正月だから休ませろなどと」
「5月20日は正月に決まっているではないか」
「えっ。そ、そうなんですか」
「家訓で決まっておる、昔からな」
「……」

(了)

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