ファミチキが毎度ビックリするほど美味しい

 暗い歌が好きだ。陽気な歌よりも、陰気臭い歌が好き。そういうわけなので、気分が絶好調の時にももちろん暗い歌を聴くから気分が一気に下がり情緒が不安定になってしまうというおかしな状況が生まれている。

 そもそも女に生まれた時点で情緒が安定するなんてことは不可能なんじゃないかと思う。生理前にはもれなくホルモンバランスがバカになるので情緒は乱れるし、言ってしまえば閉経まで毎日生理前だ。

 生理前でなくても情緒は乱れる。たとえば雨が降った時。気圧のせいで頭痛はするし髪も決まらないので情緒が崩壊する。恋をしたら言うまでもなく常に不安と歓喜を繰り返すので情緒は暴れ狂う。仕事で怒られ地の果てを這いずり回るかのごとく落ち込んでいても、帰宅後につけたテレビで好みの俳優がお気に入りのドラマ内で猛烈な色気を振りまいていたら女性ホルモンがドバドバ出る。そんなこんななので女は一生情緒なんて安定しない。

 気分の浮き沈みは周囲だって大変な迷惑だろうが本人だってとても辛い。好きで不安定になっているわけでない。それを分かりきったうえで私たちは雨の度にもれなく落ち込み、可愛い冬物のコートを見るたびにブチ上がる。人生で何度雨を経験しても、毎度同じように塞ぎ込めるのは一体なぜ? 本当に不思議だ。

 週に何度も訪れる鬱事案と同じように、週に何回か訪れるハッピーな事案にも最上級のテンションで喜ぶことができる。普通に情緒が狂っている。ファミチキなんて何度食べても食べるたびに「は⁇ うまぁ!」となるし、家の観葉植物が新芽を出すたびに「おめでとう‼︎」となる。

 もう25度目の冬だが、今年の冬の訪れにも心底驚いたし、自分でも人生で初めて夏終えた人ですかと思うくらいに今年も秋の訪れに腰を抜かした。恋人が優しくしてくれたら毎度感動と感謝を繰り返すし、恋人の睫毛を見るたびにどうしてそんなに長いの⁈ と初めて見た時と同じ感度で驚きいつもと同じように彼の両親に感謝をする。
 とにかく毎日感動し毎日落ち込んでいる。どう考えてもおかしい。少しは慣れたっていい。

 でも情緒がおかしいからこそ、ファミチキは毎度美味しい。情緒が安定していたら200円弱であの幸せは買えない。そう思うと雨が降って鬱になるくらい、許せる気がする。だからいつまでもファミチキ、美味しくいて欲しい。もしファミチキが何らかの要因でまずくなったら私は本当に情緒の狂いを容認できなくなってしまうだろう。

 

 

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