鳴き止めスプレーしたら車が大声で悲鳴を上げ始めた話
車がやばいです。
数か月前からエンジンをかけるとキュルキュル……と金属音的なものが鳴っていた日産ノート。
私の愛車です。
急に壊れたらまずいよなぁ……とオートバックスに持っていったりしていましたが「ベルト取り替えるほど傷んでないよ」と言われ、原因がわかりませんでした。
そもそも鳴るときと鳴らないときがあり、持って行ったときは鳴らないときでした。
整備士さんも実際に鳴ったところを見てみないとわからないという回答で保留に……。
職場から帰るときも「きゅるきゅる……」
息子を幼稚園に送るときも「きゅるきゅる……」
そろそろ恥ずかしいわぁ。と夫に話すと、「よしじゃあ俺が何とかしよう」と立ち上がってくれました。
夫は筋トレを趣味としていて、仕事休みの夜フラッとジムに行くのですが、そのついでに直してくると言い出しました。
ドヤ顔です。
その時間に整備やってくれるところなんてなくない……?と思っていると、「いいの見つけたんだよ~」と自慢げに夫が言いました。
どうやら自分で直すようです。
夫はTOKIOの次に自分で何でもやりたいと思う性分があり、きゅるきゅる鳴り出したあたりからワクワクしていたようです。
比較的器用な夫ですが、さすがに車は専門外。
どうせ無理やろなぁ~と思いながら送り出し、しばらく経ちました。
遅い。
いつもなら帰ってくる時間に夫が帰ってきません。
マッチョな夫に限ってないとは願いたいが、もしかしたらベンチプレスに押しつぶされたかな?とか重量あげた瞬間に頭の血管切れたかな?とか色々な心配が頭をよぎります。
一番心配したのは
事故ったのでは?
でした。
むしろここまで遅いと事故の大小はあれど、そうであろうと確信に近いものがありました。
なぜならジムへ行くには歩道のない狭い道路を通らねばならず、かなり危ないからです。
夫は決して危険運転をするような人ではありませんが、事故というのは唐突に起こるもの……。
心配で電話をしようとしましたが、何せプライドの高い夫です。
もし「事故った?」と電話して違ったら機嫌悪いことこの上ないでしょう。
大丈夫、大丈夫。そう言い聞かせながら待っていました。
でもやっぱり、いくら待っても夫は帰ってきません。
いよいよ本格的に心配になり電話しよう!と思い立ったころ、ちょうどよくスマホが鳴りだしました。
夫からの着信です。
あぁ、よかった。
とりあえず死んではないな。というのが私の心の第一声でした。
通話ボタンを押して耳に当てます。
「ごめん」
夫の第一声はこれでした。しかも声色がソフトで、低音でぼそぼそと話すいつもの声とは違い、ワントーン高いやわらかな声です。
──あぁ、これは事故ったな。
夫がガチで謝るときの声でした。
私は一瞬で悟り、誰も殺してなきゃいいな、と思いました。できれば単独事故で、最悪車同士で。歩行者とか自転車とか轢いてませんように。
誰も怪我をしていませんように。
「どうした?」
なるべく優しい声色を選んで聞きます。
私の頭の中は事故でいっぱいで、誰も怪我をしていないように願う反面、保険ってどれくらいおりるっけ?明日の幼稚園の送迎どうしよう?明日出勤できないかもだな……なんて現実的なことも考えます。
心臓はバクバクして今にも張り裂けそうです。
「あの………でさ、そ……になっちゃって、それで俺……」
「ん?」
「だからホームセンターで……買ったら……すげぇなんか変……」
電波が悪いのか?夫の声が途切れ途切れに聞こえます。
耳を傾けるように受話器に押し付け、夫の声を聞こうと音量ボタンを最大にしました。
「ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!!」
「ん?」
「ギュン!だからホームセンターギュン!ギュン!スプレーを買っギュン!ギュン!」
「なんか周りうるさくない?」
「だから」
「鳴き止めスプレー買ってかけたら、余計うるさくなっちゃったんだって!!!!」
????????????????
「どういうこと?」
「どういうこともねぇよ。大手ブランドのさ、口コミもいいやつ!調べてそれ買ったのにさ!スプレーかけたらすげぇうるさくて」
「スプレー間違ったんじゃないの?」
「間違ってねぇよ!」
プライドの高い夫にあろうことか変な刺激をしてしまいました。普段なら絶対にしないミスです。間違えました。
「じゃあ、なんでそんなうるさくなるの?」
「知らねぇえよ!なんだこいつ!この!クッソうるせえ」
さっきまでしとやかに謝っていた人物とは同一人物に思えないほど、イライラしている様子が見えます。
「ちょっとまってエンジン消すわ」
最初から消せよ。というまともな意見はおいておいて、やっと静かになったところで事情聴取です。
ホームセンターでベルトの鳴き止めスプレーを購入し、ほくほく気分で駐車場でスプレーをかけたところ、よりひどい音が鳴るようになってしまった。
というのが夫容疑者の主張でした。
……なんで?
私の頭の中はとにかくクエスチョンマークと誰も死ななくてよかったの安堵でいっぱいでした。
「まあ、よくわかんないけど……事故ったかなって思ってたから、まあよかったよ事故ってなくて。帰っといで」
「うん。筋トレしてから帰る」
「あ、まだやってなかったんだ」
「そうだよ!!!この鳴き止めスプレーのせいで!!まじで爆発するかとおもったんだからな!」
夫は電話を切り、筋トレに向かい帰ってきました。
そして、次の日。
息子を幼稚園に送りに行くときにエンジンをかけました。
「ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!ギュン!!」
誰か助けてください。
(夫のプライドの高さについて書いたエッセイです。気が向いたら読んでください♡)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?