XR体験デザインについて考えたこと -AR宙凧SOLATAKO制作を振り返る-
こんにちは。fujitoです。建築家・XR空間デザイナーとしてリアルとバーチャルの領域を横断し、空間にまつわる様々な事象に取り組んでいます。
今回はチームで制作したARコンテンツ「AR宙凧 SOLATAKO」を制作する際に考えたXR体験デザインについて書いていこうと思います。
こういったARコンテンツを作りました。
AR宙凧とは何か?
AR宙凧は、Fujito、41h0、satoh瞳でチームを組み、小田急電鉄株式会社共催のもと新宿中央公園を舞台した「公園 with AR ハッカソン」において制作しました。
「公園の遊びをアップデートする」というテーマのもと
人々のウェルビーイング向上に向け、公園に出て遊びたくなる、テクノロジーを活用した新たな「仕掛け」作りの創出を目指しています。
新宿中央公園を都市の中で空とつながれる場所として定義し、
新宿中央公園から空を見上げて「凧」を宇宙まで届けるARコンテンツです。
オフィスが多い新宿で、子どもだけでなく日々忙しい大人たちにも遊びを届け、ARによるデジタルな体験を通して、ウェルビーイングな日常を作り出せないかということを考えました。
空を見上げることでの癒し、童心に還れるようなワクワク感、公園には空という遊び場があるという発見を得られる体験としています。
※ちなみにwithARハッカソンには2回目の参加で、前回も未来都市というテーマで、Kawaii cyberpunk Future city -Shinjuku-をつくっています。
その時の話はこちら。
いかに体験のバリアを取り除いていくか
ここからはAR宙凧を企画・制作する中で体験についてどんなことを考えていたかを書いていきたいと思います。
XRの体験を作るうえで、常に考えていたのは、いかに体験のバリアを取り除いていくかという点です。
体験者が入りやすい体験か、ついて来れるか。飽きないか、また没入してもらうために違和感を消せるか。終わった後に何を残せるか、体験を一連のものとしてシームレスにつなげられるかなど、コンテンツ自体の内容はもちろん大切なのですが、1つ1つのバリアとなりうるものを想定しながら進めていきました。
1:誰でも体験できること
コンテンツによってデバイスや環境についても適切なものを考えられます。
ARがいいのかVRのほうが適切なのかなども考えるべきことの1つです。今回はARであることは決定していましたが、誰でも気軽に体験できることを目指していたため、体験デバイスは、より多くの人が日常の延長として体験できるものにすることにし、スマートフォンを選定しました。そしてSTYLYというプラットフォームを使用することにし、STYLYアプリをインストールすれば、誰でも自分のスマートフォンから体験ができるようにしました。
もちろんコンテンツ内で難しく複雑な操作方法になっていないかという点にも配慮していきました。
2:自分事として体験を想像できるようにすること
体験者とコンテンツとの間で、極端なコンテクストの分断が起きないように配慮して、自分と地続きの体験として作ることが大切だと考えています。
新宿中央公園は、都心の中でゆったりと空を眺められる場所だと思います。空を見上げる、凧揚げという理解しやすい出来事を軸にすることで、その体験をARで拡張していき、マインドフルネスのように、没入し、感情に働きかける、現実の自分の心が健康になるようなコンテンツを目指しました。
3:違和感のない体験とすること
違和感というのはある意味体験を終わらせてしまいます。ユーザーが置きざりにされることのないように組み立てる必要があります。体験の軸は「凧が宇宙まで上がって還ってくる」ということなのですが、その一連の流れは、ユーザーにとって何であるのか。シーンが変わる場合も違和感なくスムーズに移行できるか。ただのアイデアから洗練させてしっかりとカタチにしていく上で細かなことにまで配慮していくことが大切です。
短期間で体験としてカタチに落とし込むプロセス
上記のようなことを考えていましたが実際に行った制作のプロセスはどうだったのかを振り返りたいと思います。
kawaii cyber punk のときもそうでしたが、各々の役割を越えて、意見を出し合すことがチームで体験デザインをしていく中では重要と感じていたので、今回もそれを意識しながら、10日間の中でフェーズごとに分けながら体験を構築していきました。
今回のプロセスを整理すると以下のようなにA~Eにわけられるのかなと思います。
A:世界観や体験の核を決める。
自分たちは何を作っているのか。常に振り返ることができるコンセプトのようなものを決めていきました。そしてユーザーにとってそれは、どんな体験なのか。どうなってほしいのか。それらをクリアにしていきながら、同時に体験を阻害するバリアは何があるかという仮定も立てていきました。
B:全体をラフに作り上げる。
ラフなモックアップを制作しながら、全体を通して体験し、考察していくことをしています。やってみたけど、こう感じたとか、改めてこの体験の面白さとは何か、そして仮定していたバリアは実際どうだったか等のフィードバックを繰り返しました。
C:世界観を具体的に可視化していく。
一連の流れとしてストーリーや狙っていた展開に近づけているか。ビジュアルを作りこんでいきます。また視覚だけでなくSEや振動といったインタラクティブな体験部分も作りこんでいきます。シーンの切り替えや繋ぎの演出がうまくいっているかもここで確認していきました。
D:8割の完成を目指し、課題を整理する。
具体的になると気づきが多くなります。この段階では8割の完成を目指す中で必要な修正とそうでない部分を明確にして、体験の骨格に必要な部分を固めていきました。実はハッカソン終了時にはこの状態でフィニッシュしています。
E:ブラッシュアップを繰り返す
展示までの間にやり残していた実装を組み込んでいきました。ここでもユーザー体験について考えていきます。ユーザーが自由に見渡せたり、臨場感があがるような要素を中心に付け足していきました。
他にもやり方はあると思いますが、今回のようなやり方は短期間で狙った体験を生み出すにはあっているのではないかなと思います。
フィジカルな空間をデザインしていくようにつくる
少し余談ですが、XR体験デザインの際は、ユーザーの意識や行動への影響を考え、空間としてどうつくるかということも考えています。
当たり前なのですが、ARも単なるフィルターではなく、空間として捉え、現実の空間といかに混ぜ合わせるか、身体といかに断絶させないかみたいなことを意識しています。
建築分野には建築計画という領域があるのですが、
建物の配置の仕方、人の動線、どのように部屋を分けるかつなげるか、建物をどのように体験してもらうかといったことを考えます。
3次元的に考えることが大切で、XRのデザインもその感覚で行っています。
また空間を訪れた人がどう感じるか、世界観をどう作るかという点は、建築の内装やインテリアデザインに共通している部分もあります。
さらにアトラクション施設でのシームレスな体験では、説明書きやアナウンスまで世界観が一貫していたりします。サイン計画もその一部で、ユーザーが迷わないようにしたり、導いてくれるような、建築空間の中のウェイファインディングサインのような役割がXR体験デザインにも有効と考えていて、どのタイミングでどんなUIの出現のさせるかもポイントになります。
10/6より展示スタートします!!
いかがでしたでしょうか。これまでAR宙凧の制作をもとにXR体験デザインについて記載してきましたが、今回も小田急電鉄さんにお声がけいただき 「ミライPARK@新宿中央公園」で「AR宙凧SOLATAKO 」を展示させていただくことになりました!10/6より体験ができます。是非ご自身のスマートフォンにSTYLYをインストールして、新宿中央公園で体験してみてください!
展示作品はこちら!!
展示概要について
ミライPARK@新宿中央公園
NEUUについてはこちら
展示作品はこちら
さいごに
今回は体験デザインにこだわりたいという、個人的なテーマを持ってハッカソンに参加させていただき、AR宙凧を制作しました。
チームでいろいろ試行錯誤しながら体験について考えてはみたものの、まだまだ発展途上の領域であるため、これからもどんどん考え方は変わっていくのだと思います。今後も突き詰めて考えていきたい所存です。
もし体験していただけたらX(Twitter)等で感想などいただけると励みになります。それでは!